第12話 03 蒼き小鳥(ロビン)
ウェインの放つラグナロクの刃が3体のサラマンダーに襲い掛かる。
辺りに恐竜の叫び声のような咆哮が木霊すると、ヒューイの出したサラマンダーが消滅した
「ちぃっ!!」
舌打ちをするヒューイをウェインのラグナロクが襲う、避ければ、意識の朦朧としているイリアが危険にさらされる。
「ウィンディーネ!!」
咄嗟に出した札から強い旋毛風が走り、ラグナロクを握るウェインの右手を押し上げる
「ぐっ!!」
そしてさらに札を出す
「アクエリアス!!」
何もなかった空間に水の渦が現れ旋毛風と共にウェインを押し返す
すかさずもう一枚、刻印を打った鉄の札を出す
「雷符!!」
そこから音を立て現れた雷が水を伝わりウェインに襲い掛かる。
雷により沸騰した水が急激に蒸発し、大きな音を立て水蒸気爆発を起こし、爆風によって更にウェインを押し返す
「・・・こりゃ・・・」
何とかラグナロクの一撃を回避したヒューイが苦笑いをする
「・・・やべぇな・・・」
目の前にいる無傷の白銀の騎士を確認し、そう呟いた。
ただでさえ奴の方が強いのに、こちらは人を庇いながらの闘いだ、正攻法では間違いなく負ける
いや、結構手数を出しているが、ダメージが届くイメージがわかない
つまりは・・・
”やばい!”以外の言葉が浮かばない!
サラマンダーでは相手にならない、ウィンディーネとアクエリアスで物理的に押し返すことが可能だが、避けられればそれまでだ。雷符も望みが薄い。
”いけるか・・・?”
水と風の力によって距離の取れたことろでヒューイはイリアを抱えて走り出す。
ここはやはり逃げなければ!
「きゃっ!」
抱きかかえられたイリアは短く叫んだ
「なに・・・よ・・・逃げるの!!」
魔法の使い過ぎで力が入らないイリアが息切れをしながら抗議する
「真正面からぶつかって勝てる相手じゃありませんよ!!」
イリアは今までの状況からヒューイの動向は正解であると理解している
「ぐぬぬぬ・・・」
逃げればあいつを野放しにすることになるが、戦っては無駄死にだけだ。
イリアは渋々逃げることを納得する。
しかし、相手の方が脚が早い。
このままでは追いつかれてしまう、私を背負ってさえいなければ・・・
「私を置いて逃げなさい!」
イリアの叱咤に
「そんなこと、主従という関係をなくしてもできるわけがないでしょ!」
ヒューイはきっぱりと言う
「・・・なっ!・・・」
「なんでよ!」
イリアの問いにヒューイは押し黙る
「ちょっと!なによ!なんでよ!」
イリアも意地になって聞く
何回かイリアからの質問が繰り返されると、ヒューイは諦めたのかイリアとは反対の方向に目をそらす
そして・・・最悪は今生の別れになるかもしれない状況に思わず本音が出る
「惚れた女を見捨てるわけないだろ!」
その問いにイリアは目を見開いた
そして・・・小さく
「えっ・・・・」
一拍置いて、先ほどよりは大きく・・・少し控えめの声で
「ええっ・・・・」
そして、走りながらもムスッとしたヒューイの横顔を確認するようにみると
なんだか頬が火照ってきている自分に気付く
「えええっ!!!なんでよ!!」
自分の変化に思わず声が出る・・・が、その言葉はヒューイには少々意味合いの違いがあり
「だから言うのが嫌だったんだ!!」
後悔の念と自虐の籠った言葉が出た。
「あっ、いや・・・あなたの事を言ったんじゃ・・・」
イリアは取り繕おうとしたが、我に返る
今はそれどころではない!
男の意地を挫けさせるのも不本意だが、このままではジリ貧だ
”どうすれば・・・”
周りを見渡すも何も思いつかない
追い迫って来る白銀の戦士が目にうつる
その時・・・
”・・・・・・”
何かが聞こえた・・・
「・・・・」
一瞬時が止まったかのような驚きがイリアにのしかかる
「・・・・そうね・・・任せたわよ・・・」
明らかに目つきが変わった。
体と一緒に抱えられていた右手を抜き、大きく息を吸い込むと右掌を白銀の剣士に向け広げた
「馳せよ!・・・我が想いを・・・・その羽根に乗せ!」
振り絞るように詠唱を始めると掌から淡い光が現れる
”ヒューイを!!”
「碧き・・・想いを、その体に・・・乗せ・・・」
”死なせない!!”
強く願いながら唱えた!
強くその思いを念じた!
「導け!その想い!」
ありったけの力を振り絞り大きく唱えた
「来たれ我が碧き鳥!」
風を切る音と共に掌から勢いよく飛び出したのは碧き小鳥
その小鳥は真っ直ぐに白銀の騎士に向かい・・・・一直線に進む
ウェインはその小鳥を確認し、強く左足を地面につき、ラグナロクを構える
碧き小鳥は迷わずウェインに突進する
あと数メートルとなったところで、小鳥の姿がぼやけうっすらとした光の矢となった
「・・・たのむ・・・わ・・・よ・・・」
魔力を使い果たしぐったりするイリアを抱えたヒューイがその鳥の気配に気づき視線を向ける
光の矢から、美しい黒い長髪と赤いワンピースを着た小柄の女性が現れる
「・・・シル・・・フィーネ・・・」
ガキン!!
振り切るラグナロクをシルフィーネの左手に握られた漆黒の片刃の剣が受け止めると、大きな金属音が木霊する。
シルフィーネがその勢いのまま地面に足をつき強く力を入れ、鍔迫り合いに耐えようとする
「なっ!!!」
ウェインはいきなり現れたその姿に驚愕した
この姿!
この剣!
その魔力量!
間違いない!
「貴様!」
ウェインが声を上げた
「セレンだな!!」
高揚した声でウェインが彼女を呼び、ラグナロクに力を込める
「・・・あら・・・知り合いだったかしら?」
強い押し返す力に堪えながらシルフィーネは応える。
「いや、初見だが、俺はお前を殺すために闘ってきた!」
勢いよく切りかかったのだが、今やシルフィーネの方が力負けしている。
ギリギリと音を立てながらシルフィーネを押し返すウェイン、
真正面でぶつかった分、横に受け流せない・・・強い力で押されるシルフィーネ、
「ちょ・・・ちょっと、物騒じゃない?」
堪えながらウェインに抗議する
鍔迫り合いがうまく切り返せないままシルフィーネが困惑していると
ウェインが強く力を込め踏み込み、
「はぁぁ!」
と気合を込めた声を出す
グオオオン!
と辺りに響く音と共にシルフィーネが見えない力によって下方向へ押さえつけられた
「えっ!なにっ!!重っ!!」
そのまま地面に仰向けに押し付けられ
「きゃん!!」
情けない声を出した
地面へ押し付けられたシルフィーネを見下ろしウェインはラグナロクを振り上げる
「いでよサラマンダー!!」
咄嗟にヒューイが炎の精霊の札を翳しウェインへと投げつける
「そんな炎など・・・」
ウェインは炎を無視し、ラグナロクを振り下ろす。
ガキン!
その刃を止める者がいた
「なにぃ!」
炎の中から白と青が基調の剣が現れ、ウェインのラグナロクを受け止めたのだ
この剣・・・この剣には見覚えがある
「貴様!!」
先程迄相手にしなかった炎に向けウェインは怒鳴った
炎の中から人影が見え始め、改めてその剣を握る男の名を呼ぶ
「レオン!!」
炎から現れたのは天空剣を手にしたレオンだった
「俺の召喚した炎を媒介に来たのか・・・」
ヒューイは驚きの表情を見せる
「なによ!カッコよく呼び出したのにもう降参!?」
逆にイリアが声を上げた。
「仕方ないでしょ!あの角度からの突っ込みじゃこれが精一杯よ!!」
仰向けに押し付けられているシルフィーネが、イリアに視線を向け反論すると・・・涙をいっぱいに溜めた瞳をしたイリアが目に映った
「結局、ヒューイに助けられちゃったじゃない・・・」
彼を死なせたくない一心で繰り出したロビンから現れた彼女は、ヒューイが出した炎を媒介にもう1人の強者を引き連れて来た。自分達へ来るはずの攻撃を受けてくれたシルフィーネには感謝しかないが、礼の言葉を出すのが恥ずかしかったのだ
その言葉が終えると、体制を直ししがみつくようにヒューイに抱きついた
「・・・あっ・・姫・・・」
しがみ付くその両手は震えていた。
とても怖かったのだ・・・あのままウェインに追いつかれていたらヒューイが殺されるのでは・・・と・・・
戸惑うヒューイと俯くイリアを見て、仰向けのシルフィーネは少々呆れた笑みをすると
「ひねくれ者め」
そう呟いた
そのやり取りの終わりを待っていたかのように
「どうする?」
シルフィーネの頭上から淡々とした質問が飛んできた
その声の発信者を見ることなく
「あ~ら・・・こんな美人が、こんな窮地に立たされてるのよ・・・」
「どちらかというと立たされてるよりも寝かされてるな・・・」
言葉の途中でレオンが涼し気な顔で言葉を割り込ます
「!!」
思わず言葉を失ったシルフィーネは少々顔を赤くして
「なによ!ピンチなのは変わりないじゃない!私を助けなさいよ!!」
シルフィーネの我儘な言葉が出てくると、レオンが小さく笑みを浮かべ
「そうするよ。ひねくれ者さん。」
嬉しそうに返事を返した
シルフィーネは「ふん!」と声を上げながらそっぽを向く
レオンは天空剣を持つ右手に力を込めた
超真面目な鍔迫り合いの最中、二組のおのろけを聞いていたウェインは少々怒り気味だ・・・
・・・しかし・・・
この状況でレオンの剣を押し切れない
更にシルフィーネとの会話の後から、ともすれば押され返されるほどの剣圧を感じるのだ
”なんだというのだ!!”
普通の人なら軽く押し潰すほどの重力波を受けて・・・地面に押し付けられているとはいえ平然としているセレン、ふざけている対応を見せながら自分を押し返す程の剣圧を放つレオン・・・
「・・・化け物め・・・」
思わずシルフィーネに向かい声が出る
「・・・なに・・・よ・・・こ~んな・・・美人に向かって・・・化物って・・・」
強気なセリフだが、息切れが目立つ
レオンが何かに気付いたように言葉を出す
「なぁ、ウェイン!話は向こうでしようか。」
そう言うや否や
ドン!という大きな音と共にウェインを弾き飛ばす。レオンが覇気のような力を使ったのだ
吹き飛ばされたウェインを追う様にレオンも飛んで行く
同時にシルフィーネから「ぐえっ!」と何かに押しつぶされるような小さなうめき声が聞こえ、彼女はその場にぐったりとした
レオンとウェインが去って少々の時間が経過した
「ちょっと・・・動かないわよ・・・」
ヒューイから降りたイリアがぐったりと動かないシルフィーネを見て心配そうに呟く
「まだ重力波の効力があるのでしょうか?」
ヒューイが警戒するも、辺りに起こった旋毛風がシルフィーネの衣服を揺らめかせる
重力波の効力は消滅しているようだ
「ちょっと!!大丈夫?」
おぼつかない足取りでイリアはシルフィーネに歩み寄る
「ら・・・らいじょうぶ・・・」
小さく弱々しく応答が来るも体を動かす気配がない
「大丈夫じゃないじゃない!」
イリアはシルフィーネの身体を抱きかかえる。彼女は少々息が荒い
その時・・・小さな地響きが起こった
「うぐっ!!」
その振動に合わせるように突然シルフィーネが力のない声を上げる
「ちょっ、どうしたのよ、どこか痛いの?」
心配そうに声をかけるイリアにシルフィーネは小さく身を寄せると
「・・・へへへっ・・・・」
か細い呼吸のシルフィーネが にへっ と静かに・・・嬉しそうに笑う、
イリアはシルフィーネが何やら魔法を使用した流れを感じた。
”おそらく回復魔法を自分に施したんだわ・・・”
呼吸は元に戻ってきたが、更に動きと声が緩慢になり、聞き取れない言葉を呟き続ける
そして・・・
動きの緩慢になった体をできるだけイリアに押し付けるように寄せると
「大好きだよ・・・」
二へへっとした満面の笑顔のまま消え入るような声がはっきりと聞こえた
「・・・えっ・・・?」
イリアは思わずドキッとして声を上げる
「・・・おねぇちゃん・・」
シルフィーネはそう呟きながら脱力し、静かに寝息を立て始めた
「・・・えっ・・・?」
先程よりも少々乾いた感嘆符がイリアから発せられると
「なに?どうしたの?」
訳も分からずにイリアは混乱の籠った嘆きを呻いた




