第12話 02 我儘は聞かないわよ!
「来るわね・・・」
後ろ向きに肩に抱えられているイリアが小さく言った
「ええ・・来ちゃいましたねぇ・・・」
ヒューイも確認するように呟く
風の精霊の札を駆使し高速移動しているのだが、それすら意に介さぬように白銀の騎士が後ろに迫っていた。
「ウィド!」
札から出てきた風の精霊と協力して移動を補助しているウィドも疲弊感が出てきている
「6人相手でよく1人だけにしたもんだ・・・」
5人を足止めしているエドに感心し、褒め称える
しかし、こいつは対等に相手ができるほど生易しい存在じゃない・・・
「静寂の空間を盾にして!万物の往来を遮れ!」
イリアが唱える
「見えない壁!!」
ヒューイも札を何枚か取り出し
「アクエリアス!」
とりあえず一枚を発動させる。
いきなり水が現れ、ウェインの進行方向から押し返すような波が現れる
ウェインは一度見えない壁にぶつかり少々足が鈍ったが、それほどのロスなくまた進み始める、次に来た津波のような水に少々押し返されるも似たような反応だった。
「最近、化け物にしか会ってない気がするわ・・・」
ウンザリとした口調でイリアが呟き、再び詠唱を始める
「天翔ける風、疾風の刃、落とせその断罪の力!」
ヒューイがその詠唱を聞きおののく
「そんな呪文使えたんですか!」
イリアは右手を高々と上げると、上空で強い風が吹き荒れる
「裁け!その者を!」
その右手を勢いよく振り下ろす
「断罪の刃!」
強い風は指向性を持ち、真下へと勢いよく吹き荒れ、鎌鼬を伴う刃のように鋭い風の塊が具現化されると
ズドン!と辺りに土煙が上がった
「ふ~!」
イリアは少々長く息を吐くと
「1回実戦で使ってみたかったのよねぇ。」
嬉々とした表情でそう述べる
”・・・一体・・・どこで使えると思っていたんだろう・・・”
質問したかったが、その言葉はぐっと飲みこんだ。
とにかくアクエリアスよりかは長く足止めできそうだ、
「頼むぞ、ウィド!ウィンディーネ!」
足を止めるわけにはいかない、いつまでも追いかけては来ないだろうから、諦めるまで逃げ続ける
「!!」
イリアがウィドの表情が険しい事に気付く
「ウィド、止まって。」
ウィドとウィンディーネが止まる。
二人(?)とも疲労困憊という状態だ
ピンときた
「あいつ・・・精霊喰らいの何かを使っているのね・・・」
瞬間の力なら威力は望めそうだが、このように長時間の使役にはめぐりの悪いスキルだ
「ウィド、この中へ・・・あなたは・・・そうね・・・そんなに疲弊してちゃ逃げるところがないわねぇ・・・」
ウィドに精霊瓶を渡し、もう一人のウィンディーネに話しかける
「とりあえずもう一度お札に帰ってもらえるかしら?」
コクリと頷きヒューイの持っている札へと帰っていく
とりあえずウィド達が無駄に消滅することななくなったが・・・
「この子、暫く使っちゃだめよ!」
イリアはヒューイにそう言う。
しかし、これではどの札を使ってもこうなってしまう
これでは高速移動に頼っていた足を失ったも同然だ
「姫・・申し訳ありませんが、お一人でお逃げください。」
そう言うとヒューイはウェインの方を向き、札を構える
「ちゃんと逃げ帰ることが出来たら、我儘を一つ聞いてもらいます。」
そう言うと3枚の札を取り出し
「出で・・・」
サラマンダーを呼び出そうとした時、
「そんな簡単に我儘なんか聞いてあげない!!」
そう言うと
「天翔ける風、疾風の刃、落とせその断罪の力!」
天空にて風から形成された刃が現れる
「裁け!その者を!断罪の刃!」
ズドンと大きな音が聞こえる
その音を待つことなく
「魔を断つ我が真実の炎!」
イリアの右手から炎が起こる
「真実を示す一貫の矢!」
炎が凝縮し、一本の槍の形を形成する
「征け!貫け!我が心に燃ゆる正義の一投!」
その詠唱と共に炎の槍を投擲を開始する。
「炎の槍」
放たれた炎の槍はウェインに向け一直線に突進する
ギロチンで視界が鈍くなったところに突貫力のある炎が真正面から来るのだ
”俺に仕向けられたら間違いなく天国行きだな・・・”
ヒューイが唾を飲む
一瞬の出来事だったが、ギロチンの音に続いてさらに大きな音と共に爆風が辺りに飛び散る
その光景を確認することもなく、
「姫!逃げますよ!」
そのままイリアに向かって走り、肩に抱え込むと再び逃走を始める
「なに!逃げるの!!」
イリアがヒューイに向かって言う
「当たり前でしょ!あんなの倒せる人間なんて早々いませんよ!」
ヒューイは即座に反論する
「あんなの野放しにしたら、世界は滅ぶわよ!」
その言葉にヒューイは反応し、一瞬足が止まった
ドオォォォォン!!
と、目の前で土煙が上がる
「・・・な!」
思わず声を出すも言葉にならなかった。
バチバチと残骸のような小さな電撃がいくつも見える
「よくそこで足を止めたな・・・あのまま進んでいれば雷撃の餌食だったのだがな。」
”追いつかれた!”
イリアのあの魔法を喰らっても少々の足止めにしかならなかったというのか
ヒューイが歯ぎしりをしたとき、
「魔を断つ我が真実の炎!」
抱えられたイリアが体を起こし詠唱を始める
「真実を示す一貫の矢!」
炎が凝縮し、一本の槍の形を形成する
”もっと細く!威力を集中して!!”
更に炎がつよい光を伴い細く鋭利に姿を変える
「征け!・・・貫け!我が心に・・・燃ゆる正義の一投!」
集中しすぎて、ごっそりと魔力が炎に取られ、イリアは息切れしたが、この詠唱を止めるわけにはいかない!
「炎の槍」
再び放たれた槍はウェインに向かって飛んでいく
「!!」
それを確認したウェインが剣を振るい撃ち落とす
「ちぃっ!」
イリアが舌打ちをする
悔しがるイリアに視線を向け立ち止まるウェイン
「今のは、防がなければ貫かれていたな・・・」
風に紛れて消えてしまいそうな声で呟いた
「弾かれちゃいましたねぇ・・・」
ヒューイの残念そうな声が聞こえた
「・・・そう・・・ねぇ・・・」
それに応えるイリアの声は息が切れ切れだ
「この状況よりも我儘一個の方がよかったんじゃないですか?」
ウェインから目を離さずにイリアを下ろし前に出る
「・・・あら・・・そんな・・簡単な叶え方で・・・良かった・・の・・・」
片膝をつき体勢が崩れ始めたイリアが、息を切らしながら発した言葉に、思わず考え事をするように視線を上に向ける。
「・・・・」
まぁ、確かに・・・
そう思ってたが、目の前の危機にハッとする
いや、今敵対しているあいつは、そんな生易しいやつじゃないぞ!
ヒューイの脳裏に全く勝てるイメージが見当たらないのだ、せいぜい運が良くて逃げるというイメージなら朧気に見えたのだが・・・
「ここまで来たらどうにでもなれってことですかね」
逃げるにも遅いタイミングとなったこの状況・・・その成り行きには諦めるしかないが、・・・
背後にある息を切らせている気配・・・
"どうやって・・・ここから逃がすべきか・・・"
それは見捨てる訳には行かない主人であり・・・
「頑張って、やつのスキを作らなきゃな・・・」
ヒューイは3枚の札を取り出し声を出す
「いでよ!サラマンダー!!」
3体の火炎龍が姿を現した。
そして、もう一枚取り出すと・・・
何かに気づいたようにすぐ後ろにいるイリアの襟にそちらの札を挟むように挿し、もう一枚新たに札を取り出し振りかざす
イリアがその札を確認する。
それは・・・先程ウィドと共に札に返した精霊だった。
「ふふふ・・・」
小さく笑い、優しい目でヒューイの背中を見上げた・・・。
「出でよ、ウィンディーネ!」
ヒューイの掛け声と共に、風の刃がサラマンダーを突き抜け炎を纏う渦と化す
「とりあえず間合いを取らせてくれよ!」
ドオオンと大きな音を立て炎の渦はウェインを押し返えす
しかし、それは一瞬、その一瞬を越えたウェインのラグナロクがサラマンダー3体へと襲い掛かる
まるで恐竜が鳴いているかのような苦し気な咆哮が響いた。




