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振られるのが怖くてついた嘘で、弟の友達と付き合うことになりました  作者: 水源
その出会いは偶然の重なり

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私が選んだ場所

 次のデートまで、あと三日。


 私は自分の部屋で、スマートフォンを眺めていた。


「うーん……どこがいいかな」


 清水君には、次のデートの行き先を私が考えると伝えてある。


 だからこそ、せっかくなら楽しんでもらえる場所を選びたい。


 最初は映画館も考えた。二人で同じ映画を見て、終わったあとに感想を話すのも楽しそうだ。


 でも、それならいつものデートとあまり変わらない気もする。


 せっかく私から誘うのだから、もう少し違うことをしてみたい。


「清水君が普段あまり行かないところ……」


 そう呟きながら、検索画面をスクロールしていく。


 水族館、美術館、動物園、植物園。


 どれも楽しそうだけれど、どこにするか決めきれない。


 そんなとき、画面に表示された施設の写真に目が留まった。


「あっ……ここ!」


 市立科学館のプラネタリウムだった。


 小さい頃に一度だけ行ったことがある。あのときは星の名前を覚えるのに夢中で、解説を聞きながら次々と映し出される星座を追いかけていた。


 今考えると、もっとゆっくり楽しんでもよかったのかもしれない。


 科学館にはプラネタリウムだけでなく、宇宙や科学に関する展示もあるらしい。


 これなら、展示を見ながら話をすることもできる。


「うん。ここにしよう!」


 私はさっそく上映スケジュールを確認した。


 ちょうど休日に、星座と季節の星空を紹介するプログラムがある。


 時間もちょうどよさそうだ。


 ただ、私が行きたいと思った場所だからといって、清水君も楽しめるとは限らない。


 以前の私なら、ここで何度も考え込んでしまったかもしれない。


 相手が本当に行きたいと思っているのか、無理をして付き合ってくれているのではないか。そんなことばかり気にして、結局、自分の希望を言い出せなくなっていたと思う。


 でも、今は少し違う。


 行きたい場所があるなら、まずは伝えてみればいい。


 清水君がどう思うかは、聞いてみなければ分からないのだから。


 私はメッセージの画面を開いた。


『次のデートなんだけど、市立科学館に行ってみない? プラネタリウムが気になってるんだ』


 送信する直前、少しだけ指が止まった。


 けれど、思い切って送信する。


 しばらくして、返事が届いた。


『いいですね。僕も久しぶりなので楽しみです。プラネタリウムも見てみたいです』


「よかったぁ……!」


 思わず声が出た。


 それから上映時間や待ち合わせ場所を相談して、当日の予定が決まった。


 スマートフォンを置いたあとも、私はしばらく科学館の写真を眺めていた。


 清水君と一緒に星空を見る。


 そう考えるだけで、今から楽しみになってくる。


     ◇


 デート当日。


 待ち合わせ場所に着くと、清水君はすでに来ていた。


「あっ、清水君!」


「おはようございます。待ちましたか?」


「ううん。私も今来たところ!」


 挨拶を交わして、二人で歩き出す。


「今日は私が考えたデートだよ!」


「はい。楽しみにしていました」


「本当?」


「もちろんです。科学館に行くのは久しぶりなので、どんな展示があるのか気になっています」


「よかった! 実は私も、昔行ったきりだから、ほとんど覚えてないんだ」


「それなら、お互い新鮮な気持ちで楽しめそうですね」


「うん!」


 清水君の言葉に、私は嬉しくなった。


 科学館に着くと、入口の近くには大きな宇宙の模型が飾られていた。


 惑星の配置や大きさを再現した展示らしい。


「わあ、大きい!」


「太陽って、やっぱり大きいんですね」


「地球と比べると、すごい差だよね。こうして見ると、私たちが住んでいる地球って小さいんだなあ」


「宇宙全体で考えたら、さらに小さな存在でしょうね」


「そう考えると不思議だね。こんなに広い宇宙の中で、私たちはここで普通に生活しているんだもん」


 そんな話をしながら、展示を順番に見ていく。


 宇宙飛行士の生活を紹介するコーナーでは、無重力状態で食事をする様子を再現した模型があった。


「これ、食べるの大変そう!」


「食べ物が浮いてしまいますからね」


「飲み物も普通には飲めないんだよね?」


「専用の容器を使うみたいです」


「毎日これだと、慣れるまで時間がかかりそう」


 私は説明を読みながら、清水君と感想を話した。


 展示の中には、自分でボタンを押したり、装置を動かしたりできる体験コーナーもあった。


「あっ、これやってみよう!」


 私は惑星の重力の違いを体験できるという装置を見つけて、清水君を誘った。


 画面に表示された説明に従って操作すると、地球以外の惑星での体重が表示される。


「わっ、こんなに違うんだ!」


「重力の強さが違うので、同じ体重でも表示が変わりますね」


「木星だと、すごく重くなっちゃうんだね。逆に月だと軽い!」


「月なら、普段より高く跳べそうですね」


「私、月に行ったらいっぱいジャンプしてみたいなあ」


「楽しそうですね」


 清水君も笑ってくれた。


 こういう何気ない会話が、私は好きだった。


 特別なことを話しているわけではない。


 でも、自分が面白いと思ったものを伝えて、清水君もそれに反応してくれる。


 その繰り返しが、楽しかった。


     ◇


 そして、いよいよプラネタリウムの時間になった。


 私たちは指定された席に座り、上映が始まるのを待った。


 やがて館内の照明がゆっくりと暗くなる。


 天井に、ぽつぽつと星が現れた。


「わあ……」


 思わず声が漏れる。


 目の前いっぱいに星空が広がっていく。


 普段の生活では、夜空を見上げても、これほどたくさんの星を一度に見ることはなかなかできない。


 解説に合わせて星座が映し出されると、私は天井を見上げながら説明に耳を傾けた。


 季節ごとに見られる星座や、それにまつわる物語。


 知っている星座が出てくると嬉しくなり、知らない星座が紹介されると、もっと知りたくなる。


 隣を見ると、清水君も静かに星空を眺めていた。


 暗い館内では表情まではよく分からない。


 それでも、同じ景色を一緒に見ている。


 そう思うと、なんだか特別な時間に感じられた。


 上映が終わり、ゆっくりと照明が戻ってきた。


「楽しかったね!」


 館内を出て、私は清水君に声をかけた。


「はい。思っていた以上に見応えがありました」


「星座の説明も面白かったなあ。あんなにたくさん星があると、どれがどれだか分からなくなっちゃいそうだけど」


「確かに、実際の夜空で見つけるのは難しそうですね」


「今度、晴れた夜に星空を見てみようかな」


「いいですね。今日紹介されていた星座を探してみるのも面白そうです」


「それ、やってみたい!」


 今日のデートには、まだ楽しみが残っているような気がした。


     ◇


 科学館を一通り見て回ったあと、私たちは館内のカフェに入った。


 飲み物を注文して席に着くと、私は今日見た展示のことを思い返した。


「ねえ、清水君は何が一番面白かった?」


「僕は、宇宙飛行士の生活を紹介していた展示ですね。普段は意識しませんけど、宇宙で生活するためにはいろいろな工夫が必要なんだと分かりました」


「なるほど。私はやっぱりプラネタリウムかなあ」


「星空が綺麗でしたね」


「うん。あんなにたくさんの星に囲まれていると、ずっと見ていたくなっちゃう」


 私はカップを両手で包んだ。


「今日は楽しかったね!」


「はい。誘ってくれてありがとうございます」


「よかった。実は、清水君が楽しんでくれるか少し心配だったんだ」


「そうだったんですか?」


「うん。私が行きたいところを選んだから、清水君にも楽しんでもらえるかなって」


 清水君は少し考えてから、柔らかく微笑んだ。


「僕は、優里恵さんが楽しそうにしているのを見るのも好きですよ」


「えっ……」


「展示を見ているときも、プラネタリウムを見ているときも、とても嬉しそうでしたから」


「そ、そんなに顔に出てた?」


「はい」


「恥ずかしいよぉ……」


 私は思わず頬を押さえた。


「でも、僕も楽しかったです。優里恵さんが行きたいと思った場所に、一緒に来られてよかったです」


「……ありがとう」


 胸の奥が、じんわりと温かくなった。


 私が行きたい場所を選んでもいい。


 清水君が楽しんでくれたなら、それでいい。


 そして、もし好みが違ったとしても、そのときはまた別の場所を一緒に考えればいい。


「ねえ、清水君」


「はい?」


「また、私が行きたいところに誘ってもいい?」


「もちろんです。僕も行きたいところがあれば、優里恵さんに相談しますね」


「うん! じゃあ、次も楽しみにしててね!」


「はい。楽しみにしています」


 カフェを出ると、私たちは駅へ向かって歩き始めた。


 今日のデートは、私が考えた。


 私が行きたいと思った場所を伝えて、清水君と一緒に楽しんだ。


 それは、私が思っていたよりもずっと楽しいことだった。


「今日は、いいデートだったなあ」


 思わず口にすると、隣の清水君が笑った。


「はい。また行きましょう」


「うん!」


 次は清水君が行きたい場所にも行ってみたい。


 私の知らない場所や、清水君が好きなものを知ることも、きっと楽しいはずだ。


 そう考えながら、私は次のデートのことを思い浮かべていた。

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