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振られるのが怖くてついた嘘で、弟の友達と付き合うことになりました  作者: 水源
その出会いは偶然の重なり

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18/28

4人でお出かけ

 清水君の友達に紹介してもらった日から数日後、私は日曜日の予定を考えながら、クローゼットの前で悩んでいた。


 きっかけは、金曜日の放課後に清水君から誘われたことだった。


「優里恵さん、今度の日曜日って予定ありますか?」


 帰り支度をしていた私は、鞄のファスナーを閉める手を止めて、清水君を見上げた。


「日曜日? ううん、特にはないけど……」


「よかった。この前、拓海たちと話したときに、四人で遊びに行こうって話になったんです。ボウリングに行って、そのあと食事でもどうかって」


「ボウリング……」


「苦手だったりします?」


 私が少し考え込んだのを見て、清水君は心配そうに首を傾げた。


「ううん。そういうわけじゃないよ。ちょっと久しぶりだから、どうだったかなって」


「そうですか。無理にとは言いませんけど、僕は優里恵さんと一緒に行けたら嬉しいです」


 清水君が照れくさそうに笑う。


 そんなふうに言われたら、断る理由なんてなかった。


「……うん。私も行きたい」


「よかった。じゃあ、詳しい時間はあとで連絡しますね」


「うん、楽しみにしてる」


 そう答えたときは、純粋に楽しみだった。


 ところが、日曜日が近づくにつれて、楽しみな気持ちの中に、少しずつ別の感情が混ざり始めた。


 清水君の友達と一緒に出かける。二人きりのデートとは違って、今度は清水君が普段から付き合っている友達と、同じ時間を過ごすことになるのだ。


 せっかく紹介してもらったのだから、二人にもよく思われたい。清水君の彼女として、恥ずかしくない振る舞いをしたい。


 そんなことを考えているうちに、私はいつの間にか、日曜日に着ていく服まで何度も選び直していた。


「……これじゃ、気合いを入れすぎかな」


 鏡の前で、私はブラウスの襟元を整えたあと、小さくため息をついた。


 少し大人っぽく見える服を選んだつもりだったけれど、普段よりもずっと意識している自分が恥ずかしくなってきた。


 かといって、適当な格好で行くのも違う気がする。


「うーん……」


 しばらく悩んだ末、私は結局、普段からよく着ている淡い色のニットとスカートを選んだ。


 清水君の前では、少しずつ自然体でいられるようになってきたのに、その友達の前では、また別の自分を演じようとしている。


 そう気づくと、自分でも少しおかしくなった。


「……普通に楽しめばいいんだよね」


 私は鏡の中の自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


 そうして迎えた日曜日。


 待ち合わせ場所の駅前に着くと、清水君はすでに改札の近くで待っていた。私に気づいた清水君が、こちらへ歩いてくる。


「優里恵さん、おはようございます」


「おはよう。待たせちゃった?」


「いえ、僕も今来たところです」


 清水君はそう答えてから、私の服装に目を向け、少しだけ笑顔を深めた。


「今日の服、似合ってますね」


「えっ……そ、そう?」


 思いがけない言葉に、頬が熱くなった。


「はい。いつもと少し雰囲気が違いますけど、いいと思います」


「……ありがとう」


 嬉しい。せっかく選んだ服を褒めてもらえたのだから、素直に喜べばいい。それなのに、私は自分が頑張って選んだことまで見透かされたような気がして、妙に落ち着かなくなった。


「どうかしました?」


「ううん、何でもないよ」


 慌てて首を振ると、清水君は不思議そうな顔をしながらも、それ以上は聞かなかった。


 そこへ、遠くから大きな声が聞こえてきた。


「おーい、清水! 浅桜さん!」


 振り向くと、拓海君が大きく手を振りながら走ってくる。その後ろを、直樹君が少し呆れた様子で歩いていた。


「悪い、待ったか?」


「いえ、私たちも今来たところです」


 私が答えると、拓海君はにやりと笑った。


「おっ、二人で待ち合わせか。なんだかデートみたいだな!」


「今日は四人で出かけるんだろ」


 清水君がすかさず突っ込む。


「分かってるって。ちょっと言ってみただけだよ」


 拓海君は悪びれもせずに笑った。直樹君はそんな彼の肩を軽く叩き、私に向かって苦笑する。


「朝からすみません。こいつ、今日もいつもどおりなんで」


「ふふっ、ううん。大丈夫だよ」


 そう答えたものの、私は少し緊張していた。


 清水君と二人で待ち合わせるのとは、やはり違う。自分だけが浮いてしまわないか、会話についていけるだろうか。そんなことが頭をよぎってしまう。


 けれど、拓海君は私の緊張を気にする様子もなく、すぐに話を進めた。


「じゃあ、行こうぜ! 今日はボウリングで勝負だからな!」


 ボウリング場に向かいながら、拓海君は楽しそうに話し続けた。


「せっかく四人いるんだから、チーム戦にしようぜ」


「なるほど。じゃあ、どう分けます?」


 清水君が尋ねると、拓海君は得意げに指を一本立てた。


「俺と清水。浅桜さんと直樹でどうだ?」


「えっ、私と直樹君?」


 思わず聞き返すと、直樹君が穏やかに頷いた。


「よろしくお願いします。僕もそんなにうまいわけじゃないですけど」


「い、いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 慌てて頭を下げると、拓海君が楽しそうに笑った。


「おいおい、そんなにかしこまらなくても大丈夫だって。遊びなんだからさ」


「拓海の言うとおりですよ。気楽にやりましょう」


 清水君も優しく笑ってくれた。


 私はようやく肩の力を抜き、三人と一緒にボウリング場へ向かった。


 ボウリング場に着くと、受付を済ませて靴を借り、四人でレーンへ移動した。


 周囲では、学生らしいグループや家族連れが楽しそうにゲームをしている。ボールがピンを倒す音や、誰かの歓声が響いていて、思っていた以上に賑やかだった。


「よし、じゃあ先攻は俺だな!」


 拓海君が勢いよくボールを選び、レーンの前に立った。


「見てろよ。華麗な一投を見せてやるからな!」


「はいはい。まずはちゃんとピンまで届かせろよ」


 直樹君が冷静に返すと、拓海君は振り向いて抗議した。


「お前、俺を何だと思ってるんだ!」


「口だけは一流のやつ」


「ひどくない!?」


 三人のやり取りを見て、私は思わず笑った。


 拓海君が投げたボールはレーンの中央を進み、勢いよくピンにぶつかった。倒れたのは六本だった。


「おっ、悪くないだろ!」


「最初にしては上出来ですね」


 直樹君が拍手を送ると、拓海君は満足そうに胸を張った。


「だろ? さあ、次は清水!」


 清水君は苦笑しながらボールを選び、レーンの前に立った。構えは落ち着いていたけれど、投げたボールは少し左に逸れ、ピンの端をかすめて五本を倒した。


「あー、惜しい!」


 清水君が悔しそうに眉を寄せると、拓海君がすぐさま声を上げた。


「おいおい、清水! さっきの勢いはどうした!」


「まだ一投目だろ。お前だって六本だったじゃないか」


「俺は六本、お前は五本。つまり俺の勝ちだな!」


「一投だけで勝負を決めるなよ」


 そんな二人のやり取りに、直樹君が苦笑しながら私を振り返った。


「次、浅桜さんですよ」


「う、うん」


 私はボールを選んだ。


 久しぶりなので、どれくらいの重さがいいのかも、いまひとつ自信がない。とりあえず持ちやすそうなものを選び、レーンの前に立つ。


 ボールを両手で持ち、狙いを定めた。


 大丈夫。落ち着いて投げればいい。


 そう思いながら腕を振ったけれど、ボールはレーンの端へ向かい、そのまま溝に落ちてしまった。


「あ……」


 ピンは一本も倒れなかった。


「……ごめんなさい」


 私は思わず直樹君を振り返った。


「せっかくチームなのに、いきなりガターで……」


「いえいえ、まだ一投目ですから。気にしなくていいですよ」


 直樹君は穏やかに笑い、手を軽く振った。


「それに、僕も最初からうまくいくとは思ってませんでしたし」


「そ、そうだよね」


 私は苦笑したけれど、内心では少し悔しかった。


 せっかくなら、ちゃんと投げたかった。直樹君にも迷惑をかけたくなかったし、清水君たちにも楽しんでもらいたかった。


 そんな気持ちが顔に出ていたのか、清水君がこちらを見て声を掛けてくれた。


「優里恵さん、そんなに気にしなくて大丈夫ですよ。最初から思いどおりに投げられる人ばかりじゃないですから」


「……うん。ありがとう」


 私は小さく頷き、もう一度ボールを持った。


 今度は力を入れすぎないように気をつけて、ゆっくりと腕を振る。


 ボールは先ほどよりも真っすぐ進み、ピンにぶつかって四本を倒した。


「あっ、倒れた!」


 思わず声が出た。


 すると、隣で直樹君が嬉しそうに頷いた。


「いい感じでしたね。次もその調子でいきましょう」


「うん!」


 私は勢いよく頷いてから、はっとした。


 少し大きな声を出しすぎたかもしれない。そう思って三人を見ると、拓海君は楽しそうに笑い、清水君も優しい表情を浮かべていた。


「おっ、浅桜さん、今のいいじゃん!」


 拓海君が親指を立てる。


「次はスペア狙いだな!」


「えっ、そんなの私には難しいよ」


「何言ってんだよ。まだ始まったばかりだぞ!」


 その言葉に、私は思わず笑ってしまった。


 確かに、まだ一ゲーム目の途中だ。最初に失敗したからといって、そこで諦める必要はない。


 その後もゲームは続いた。


 拓海君は調子よくピンを倒しては大げさに喜び、清水君は安定した投球を見せながら、ときどき思いどおりにいかず悔しそうな顔をする。直樹君は派手さこそないものの、着実にピンを倒していった。


 私もガターを出すことはあったけれど、最初のように失敗を気にし続けることはなくなっていた。直樹君が「惜しいですね」と声を掛け、拓海君が「次こそいける!」と盛り上げてくれる。そのやり取りが楽しくて、次の投球が待ち遠しくなっていた。


「よし、今度こそ!」


 私はボールを持ち、狙いを定めた。


 今度は、さっきよりもうまく投げられた気がする。


 ボールはレーンの中央を進み、ピンにぶつかった。


 倒れたのは七本。


「やった!」


 思わず両手を握りしめて喜んでしまった。


 その瞬間、三人が一斉にこちらを向いた。


「おおっ、やったじゃん、浅桜さん!」


 拓海君が自分のことのように喜んでくれる。


「今のはよかったですね」


 直樹君も笑顔で頷いた。


「うん。すごくよかったですよ」


 清水君までそう言ってくれたので、私は急に恥ずかしくなった。


「あ、ありがとう……」


 頬が熱くなる。でも、不思議と嫌ではなかった。


 失敗したときも、うまくいったときも、三人は同じように声を掛けてくれる。上手にできるかどうかより、一緒に楽しむことが大切なのだと、少しずつ分かってきた。


 その後も何度か投げたけれど、最後のスコアは拓海君と清水君のチームが勝利。私と直樹君のチームは負けてしまった。


「いやあ、勝った勝った!」


 拓海君が大げさに両手を上げて喜ぶ。


「まあ、俺の活躍が大きかったな!」


「清水君も頑張ってたでしょ」


 私が言うと、拓海君は一瞬だけ口をつぐみ、それから笑った。


「まあな。でも、俺も頑張っただろ?」


「はいはい。そういうことにしておくよ」


 直樹君が苦笑しながら返す。


 私も笑いながらスコア画面を見つめた。


 負けたのは悔しい。もう少しうまく投げられたら、直樹君と一緒に勝てたかもしれない。


「……もう一回やりたいな」


 思わず口からこぼれた言葉に、三人がこちらを向いた。


「おっ、浅桜さん、やる気じゃん!」


 拓海君が嬉しそうに声を上げた。


「次は負けないからね!」


 私も思わず言い返していた。


 言ってから、自分でも驚いた。


 いつもの私なら、負けたことを笑ってごまかし、こんなふうに悔しがる姿を見せなかったかもしれない。けれど、今は不思議と気にならなかった。


 拓海君が楽しそうに笑った。


「いいねえ! その意気だよ、浅桜さん!」


 直樹君も穏やかに頷く。


「次は、僕たちのチームが勝ちましょう」


「うん!」


 私は笑顔で答えた。


 そのとき、清水君が少し驚いたような顔で私を見ていたことには、まだ気づいていなかった。


 ボウリングを終えた私たちは、近くのファミリーレストランへ向かった。


 席に案内されると、拓海君はメニューを広げながら、さっそく今日のゲームを振り返り始めた。


「いやあ、楽しかったな。清水もなかなかやるじゃん」


「そっちこそ、思ったよりうまかったですよ」


「思ったよりって何だよ!」


 拓海君が大げさに抗議すると、清水君が笑った。


 直樹君はメニューから顔を上げ、二人を見ながら小さくため息をついた。


「二人とも、さっきからずっとその話だな」


「だって勝ったんだから、喜んで当然だろ?」


「はいはい」


 三人のやり取りを聞きながら、私はメニューを眺めていた。


 何を頼もうかと考えているのに、なかなか決められない。普段ならすぐに決められるはずなのに、今日は妙に周りが気になってしまう。


「優里恵さん、決まりました?」


 隣に座っていた清水君が、私の手元をちらりと見ながら尋ねた。


「ううん、もう少し考えようかなって」


「ゆっくり選んでいいですよ。僕もまだ決まってないので」


 清水君がそう言ってメニューを開き直したので、私はほっとした。


 しばらくして、それぞれ注文を済ませると、拓海君が私の方へ身を乗り出した。


「浅桜さんって、ボウリングは久しぶりだったの?」


「うん。子どもの頃に家族と行ったことはあるけど、最近は全然」


「そうなんだ。最初は緊張してる感じだったけど、途中からすごく楽しそうだったよな」


 その言葉に、私は少しだけ照れくさくなった。


「……そう見えた?」


「うん。最後なんか、すごく悔しそうだったし」


「そ、それは……」


 私は言葉に詰まった。


 悔しかったのは本当だ。でも、最初は清水君の友達に失礼のないようにしようとか、ちゃんとした彼女だと思ってもらおうとか、余計なことばかり考えていた。


「……最初は、ちょっと緊張してたの」


 私はメニューを閉じて、膝の上で両手を重ねた。


「清水君の友達だから、ちゃんとしなきゃって思って。変なことをしたらどうしようとか、失礼なことを言ったら嫌だなとか……」


 話しているうちに、少し恥ずかしくなってきた。


「でも、みんなが普通に話しかけてくれたから、だんだん楽しくなってきて。それで、負けたら悔しくなっちゃった」


 最後は思わず笑ってしまった。


 直樹君は、私の話を聞いて穏やかな表情で頷いた。


「そうだったんですね。でも、気を遣ってくれてたのは分かりましたけど、無理にしっかりしようとしなくても大丈夫ですよ」


「え?」


「僕たちも、ただ一緒に遊びたかっただけですから。楽しんでくれるのが一番ですよ」


 拓海君も、うんうんと頷いた。


「そうそう。最初からすごく丁寧に話してくれるから、こっちもちょっと緊張しちゃったくらいだしな」


「えっ、拓海君も?」


「そりゃ、清水の彼女だし。変に失礼なことを言ったら、あとで清水に文句を言われそうだろ?」


「お前、最初から失礼なことばかり言ってただろ」


 清水君が呆れたように突っ込むと、拓海君は声を上げて笑った。


「まあ、それはそれ!」


 その言葉に、私も思わず笑ってしまった。


 私だけが緊張していたわけではなかったらしい。そう考えると、なんだか急に気持ちが楽になった。


「……ありがとう。次からは、もう少し普通にするね」


「はい。その方が僕たちも嬉しいです」


 直樹君が笑顔で頷いた。


 清水君も、隣で私を見ながら優しく笑っていた。


「僕も、今日の優里恵さんを見られてよかったです」


「え?」


「ボウリングで失敗したときは申し訳なさそうにしてたのに、途中からは本気で悔しがってましたよね。最後に『もう一回やりたい』って言ったときなんか、すごく楽しそうでした」


「……そ、そんなに?」


「はい」


 清水君は少し照れくさそうに笑った。


「いつもの優里恵さんとは少し違うところが見られて、嬉しかったです」


 その言葉を聞いた途端、頬が熱くなった。


 清水君に、自分のそういうところを見られるのは恥ずかしい。でも、それを嬉しいと言ってもらえるのは、もっと嬉しかった。


「……もう。そういうこと、さらっと言わないでよ」


 私が小さな声で抗議すると、清水君は困ったように笑った。


「すみません。でも、本当にそう思ったので」


「……うん」


 私は照れ隠しに水のグラスへ手を伸ばした。


 その様子を見ていた拓海君が、にやにやと笑い始める。


「いやあ、いいねえ。清水がそんなこと言うようになるとはなあ」


「お前、またそうやって……」


「だって、昔は女子と話すだけでも――」


「拓海!」


 清水君が慌てて遮ったため、拓海君は楽しそうに声を立てて笑った。


「はいはい、分かったって!」


 直樹君も笑いをこらえながら、拓海君の肩を軽く叩いた。


「その辺にしておけよ。清水が本気で困ってるだろ」


「へいへい」


 そんなやり取りを見て、私はまた笑ってしまった。


 清水君が友達といるときの顔は、二人きりのときとは少し違う。でも、どちらも清水君なのだ。


 優しく接してくれるところも、友達にからかわれて慌てるところも、悔しそうにボウリングのスコアを見つめるところも。


 知らなかった一面を見つけるたびに、清水君という人が少しずつ近くなっていくような気がした。


 食事を終えた私たちは、会計を済ませて店を出た。


 駅へ向かう途中、拓海君が手を振りながら言った。


「いやあ、今日は楽しかったな! また四人で遊ぼうぜ!」


「うん。私も楽しかった」


 今度は、迷わず答えることができた。


「次はボウリングで勝つからね!」


「おっ、言ったな、浅桜さん! 次も勝つのは俺たちだからな!」


「その前に、次もチームが同じとは限らないだろ」


 直樹君が冷静に指摘すると、拓海君は一瞬考え込み、それから笑った。


「じゃあ、次は個人戦でもいいぞ!」


「まだやるつもりなんだ……」


 清水君が苦笑したので、私もつられて笑った。


 駅に着くと、拓海君と直樹君はそれぞれ別の方向へ帰るため、改札の前で別れることになった。


「じゃあな、清水! 浅桜さんも、またな!」


「今日はありがとうございました。また遊びましょう」


 直樹君も穏やかに笑い、二人は手を振って人波の中へ消えていった。


 私と清水君は、同じ方向の電車に乗るため、並んで改札を通った。


 さっきまで四人で賑やかに過ごしていたせいか、二人きりになると、少しだけ静かに感じる。


「……今日は、楽しかったですね」


 清水君が私の方を向いて笑った。


「うん。最初はすごく緊張してたけど、思ってたよりずっと楽しかった」


「そう言ってもらえてよかったです」


「清水君の友達、二人ともいい人だね」


「はい。あいつらとは長い付き合いですから」


 清水君は少し懐かしそうに目を細めた。


「優里恵さんが一緒に楽しんでくれて、僕も嬉しかったです」


「……私も、清水君と一緒に遊べて嬉しかったよ」


 言い終えてから、私は少しだけ照れくさくなった。


 今日は、清水君の友達に好かれようと考えるあまり、最初は少し頑張りすぎていた。


 でも、実際に一緒に遊んでみたら、失敗しても笑ってもらえたし、悔しがっても一緒に盛り上がってくれた。最後には、もう一度遊びたいとまで思えた。


 最初から、そんなふうに気楽に考えていればよかったのかもしれない。


「ねえ、清水君」


「はい?」


「次も、みんなで遊びに行こうね」


「もちろんです。また拓海たちに相談してみます」


「うん」


 私は頷き、清水君の隣を歩いた。


 そして、少しだけ迷ってから、そっと彼の手に自分の手を重ねた。


 清水君が驚いたようにこちらを見たので、私は恥ずかしくなりながらも、小さく笑った。


「……今日は、ありがとう」


「こちらこそ、ありがとうございました」


 清水君は優しく笑い、私の手を握り返してくれた。


 清水君の友達と過ごした休日は、思っていた以上に楽しかった。


 ちゃんとした彼女でいようと頑張らなくても、失敗しても、悔しがっても、一緒に笑ってくれる人たちがいる。


 そして、その中には、私のそんな一面まで嬉しいと言ってくれる清水君がいる。


 そう思うと、胸の奥が温かくなった。


 これからは、清水君のことをもっと知っていくだけでなく、自分のことも、少しずつ知ってもらえたらいい。


 そんなことを考えながら、私はつないだ手に、ほんの少しだけ力を込めた。

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