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episode.28 This intolerable air hurts.


翌日の学院。


「ロティ、あれから例の変な生徒には絡まれてない?」


ランチを終えた時、ミーシャが心配顔でわたくしの顔を覗き込んだ。


「ええ、大丈夫よ」


「ロティ、ミーシャ、変な生徒って?」


ソフィアが切れ長の黒目をぱちぱちと瞬いた。

うーん、美少女。


「一昨日わたくしとロティが放課後買い物に行ったでしょ?あの時ロティが校門で変な生徒に絡まれたのよ」


「ええ!?大丈夫だったの?」


身を乗り出して心配してくれるソフィアに、感動するわたくし。

持つべきものは友!だわ!


「ええ。ありがとうソフィア。あの日の夜のうちにカイン様にもお伝えしたし、ラルフもいるから大丈夫だと思うわ」


わたくしの後ろに居るラルフを視線で示せば、ラルフがニコリと微笑む。

その瞬間、周りの生徒の黄色い声が至る所から上がったわ。

ラルフの場合、同種の魔族しか恋愛対象になり得ないから…もしここにいる女生徒の誰かがラルフに片思いしたとしても、叶わぬ恋なわけで。

イケメンて罪よね…。


「うん、たしかにラルフは強そうよね」


ミーシャがまじまじとラルフを見て頷くと、同じくラルフを見ていたソフィアも「うん、そうね」と同意を示した。

この2人はそれぞれの婚約者にぞっこん(ぞっこんとか死語かしら)だからラルフに頬を染める事も無くて安心したわ!


「旦那様からお2人が奥様と共に居らっしゃる時はお2人の事もお護りする様言いつかっておりますので、何かあった際はお任せ下さい。あっ、勿論何も無いように予め手は打ちますので御安心を!」


あら、カイン様ったらそんな事を?

わたくしの大切な友人の事も考えてくれてるなんて、なんて素敵な旦那様なのかしら!!!


「まぁ、そうなの?頼りにしてますわ。でも何よりもロティを護ってね」


「こちらこそよろしくね、ラルフ。でもソフィの言う通り、ロティを優先してね」


かっこいいセリフを言うソフィアとミーシャ…好き!

まぁ実際この2人、どう見ても弱そうなのに実はそれなりに戦える騎士でもあるのよね。

だから自分の身は自分で守れちゃう。

家が家だから、当たり前なのだけれど。

逆にわたくしは剣術より魔法だから、接近戦は苦手なの。

わたくしも、家が家だから。


「!お嬢様方、失礼致します」


ラルフが小声でそんな事を告げた瞬間、わたくし達のテーブルを結界が囲ったわ…これは感知遮断結界と遮音結界、かしら。


「一応遮音結界も張りましたが、念の為お静かに願います。お花畑様が近付いております」


「!!」


わたくしが驚いてキョロキョロと周りを見渡せば、校舎から中庭に向かう途中あたりに見覚えのある桃色をぶら下げたお花畑様が。

おおぅ…。


「ロティ、お花畑様ってもしかして、一昨日のあの生徒のこと?」


わたくしの視線の先を確認したミーシャが一昨日見た生徒を見て、小声で問いかけてきたから、わたくしは苦笑いで頷く。


「もしかしてあの方が一昨日の?…なんだか雰囲気がアレン元王子に似てない?」


ソフィアにそんな事を聞かれて、わたくし思わず固まってしまう。

まぁ、お花畑様は金髪青眼だから…あんだけ似てたらそう思うわよねぇ…。

なんならミニアレンより似てるもの。


「確かに似てるわね。国王の庶子が学院にいるって本当なのかしら」


え。

ミーシャ、知ってたの!?

思わず目を見開いてしまったわたくしに、ミーシャがペロッと舌を出す…何その顔、可愛すぎ!


「お父様に聞いたのよ」


あぁ、そうよね…優秀な近衛師団長様だものね…たとえ陛下が隠してたとしても、気付くわよね…。


「え?あの方、そうなの?」


「多分ね」


わたくし以上に驚いているソフィアの横を、わたくし達を視認出来ないお花畑様が過ぎてい…かなかった。

運悪く、お花畑様とリンダ様がソフィアの後ろで足を止めたわ…。


『あれ、ここにいるって聞いたのになぁ』


『レグルス様ぁ、もしかしてシャーロット様を探してますの〜?』


『うん、そうだよ』


『ええ〜?何かお話でもあるんですかぁ?』


『うん、まぁね』


『…』


『なんだリンダ、拗ねてるのか?仕方ないだろう、ロティは僕と結ばれる運命なんだから』


「「「『え゛っ』」」」


有り得ない言葉に、思わずリンダさんと声を揃えてしまうわたくし達。

遮音結界があって良かったわっ!

ナイスラルフ!


「ねぇロティ…あの方、頭おかしいのではなくて?」


いつも優しいソフィアから、そんな言葉がポロリと漏れたわ…うん、わたくしもそう思う。


「あ、だからお花畑様なのね。なるほどピッタリだわ。にしても、一昨日も思ったけれど、リンダさん?て方、本来はマトモそうよね?ドン引きしてるもの」


ラルフが口にした『お花畑様』の由来に気付き、うんうんと納得するミーシャ。

そしてミーシャも言う通り、やっぱりリンダさんはマトモそう。

普通に考えて既婚者であるわたくしを『僕と結ばれる運命』とか宣う輩は頭がおかしいとしか思えないもの、ドン引きするのも当たり前だわ。


『えっと〜、レグルス様ぁ?シャーロット様がご結婚されてるって話しましたよねぇ?』


『ん?ああ、シュヴァリエ侯爵だろ?そんなの、どう考えても政略結婚じゃないか。だから僕がロティを救い出すんだよ』


『…へぇ、そうですか…』


リンダさん、お花畑の言葉にドン引きする余りに目が死んでるわ!?


「ねぇミーシャ、レグルス様ってたしかハービンジャー子爵の養子でしたわよね?」


「そうよ、レグルス・ハービンジャー子爵令息。元々良い噂は無かったけれど、かなりのお花畑っぷりだったのねぇ」


「リンダさんはメルビン男爵のご令嬢だったかしら?」


「多分そうよ。彼女の兄のメルビン男爵令息が隣のクラスにいるわ。彼は優秀だし、メルビン男爵も夫人も文官で、おそらくリンダさんも頭はいいと思うわ」


さすがソフィアとミーシャ!

名前と顔ですぐ何処の息子か娘かわかるなんて!

わたくしと違って貴族に詳しい…くっ。

もっと勉強しなきゃだわ。

にしても…なぜ賢いリンダさんがあんなお花畑にくっついているのかしら。


「ねぇ、もしかしてあの2人って婚約者とかなの?」


思い付いた事を尋ねてみれば、ソフィアとミーシャが驚いた顔で目を合わせたわ。


「確かに、ロティの言う通りなのかもしれないわ…。リンダさんならもっと賢い方と付き合えそうだもの!」


あら?恋バナ好きなソフィアが知らないという事は…。


「なら、まだ確定していないのかしら?」


「ええ、わたくし達の耳に入っていないって事は正式な婚約はまだなのかもだけれど、たしかハービンジャー子爵とメルビン男爵の領地は隣同士だから、幼なじみでの婚約は良くあるし…なんだかリンダさんが可哀想になってきたわ」


ミーシャの言葉がストンとわたくしの心に落ちたわ。

なるほど、もし2人が仮婚約している間柄ならば…お花畑は未来の婚約者に向かって、他の女が自分の運命とか言っちゃってるワケよね?

これはあれなの?


『真実の愛を見つけたから君とは婚約しない!』


とか言い出すの?

うえぇ…吐きそう。


「奥様、消してもいいでしょうか」


ちょ、ラ、ラルフぅ!?

手に魔力を集めてから聞かないで!?


「ダメよ!こんな大勢居る所で魔法なんか使ったらダメ!」


「なるほど、では後でこっそりと」


「いやいやいやいや、ダメだったら!たしかに吐きそうなくらい気持ち悪いけれど!消すのはダメよ!」


「ええ〜ダメなんですかぁ?」


きゅるるんと目を潤ませるラルフ…あなた、自分の美貌の使い方を良く分かってるわね!?


「可愛く言ってもダメ!とりあえずカイン様に報告してちょうだい。あ、カイン様にも消したらダメってちゃんと伝えてね?」


「…かしこまりましたぁ」


ぷくぅ、と頬を膨らませて口を尖らせるラルフ…子供か、子供なのか!?


「口を尖らせてもダメ!ちゃんと伝えるのよ!?」


渋々カイン様に伝える為に魔道具を取り出したラルフにホッとしたわたくしが改めてお花畑とリンダを見ると、ようやく校舎に戻って行ったわ。

気付けばミーシャとソフィアに労わるように見つめられていたわたくし…うぅ。


「「ロティも大変ねぇ」」


居た堪れない…。


レグルス・ハービンジャー子爵令息は貴族の養子になった国王の庶子の1人。

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