episode.25 She is no longer a shocking pink.
翌日、カイン様からミランさんの仕事先を聞いたわたくしは放課後、仕事先の紅茶専門店に向かった。
「いらっしゃいませ〜」
朗らかな笑顔でわたくしを迎えてくれたのは、ドギツイピンク…では無く、薄めの金髪になったミランさんだった…え、その髪色はどういう事?
「あの、ミランさん、ですわよね?」
「え…あああっ!シャーロット様!?」
良かったわ、覚えててくれて。
ちょっと話をしたいと伝えると、もう少しで休憩時間との事で、お店の奥のテーブルで待たせてもらう事に。
それにしても、紅茶専門店だけあって紅茶は美味しいし、雰囲気も落ち着いていて良いお店だわ。
ミランさんに『良ければどうぞ』とサービスで貰ったクッキーもなかなか。
ちゃっかり紅茶とクッキーを頂いて満足していたわたくしの向かいに休憩時間になったミランさんが来て、断りを入れてから着席した。
この方、こんなに普通に礼儀を弁えれる様な方だったかしら…?と少し驚いてしまったのは仕方ないと思うのよ。
だって、初対面がアレだったから…ねぇ?
「それで、私にお話とはなんでしょうか」
え、本当にこの方、以前わたくしに『やだぁ、眉間にシワなんか寄せて、こわぁい』とか言っていた方と同一人物!?
「…シャーロット様?」
おっと、あまりにもミランさんが普通で驚きの余り返事すらしていなかったわ。
「ごめんなさい、ええとね、貴女に聞きたいことがあって」
「何でしょうか」
「話をする前に、見て欲しい物があるの」
わたくしは鞄の中からノートと筆記用具を取り出し、サラサラと文字を書いてミランさんに差し出した。
それを見たミランさんの目が、驚愕で見開かれる…うん、やっぱりミランさんは転生者ね。
「え、うそ、なんで?ま、まさかシャーロット様も…?」
ミランさんに見せたノートにわたくしが書いたのはたった一言で、その一言は『聖女』。
それも、『漢字』で書いた物。
もしミランさんが転生者じゃない場合、わたくしが話すのは危険。
じゃあどうやって確認しようかしら?って考えた時に思いついたのがこの方法だったの。
漢字はこの世界しか知らない人ならば読めるわけが無いし、読めれば日本からの転生者だと判断出来ると思ったのよ。
「ええ、そうなの」
「え、うわぁ、なんかちょっと感動!」
え、感動なの?
ガッカリされるよりは良い…のかしら。
それよりも、まず聞きたい!
「ねぇ、ミランさん。その髪色はどうしたの?前はその、かなり濃いピンクだったわよね?」
「あ〜、あれはそのぅ、ちょっと暴走した結果って言うか…あ、ごめんなさい!馴れ馴れしくしちゃって」
バツが悪そうに謝るミランさんは、以前の様な『ごめんなさいぃ、てへ☆』みたいな雰囲気は微塵も無くて、本当に無意識に砕けた口調になってしまって『うう、やっちゃった』という感じ。
こちらが本来のミランさんなら、アレン元王子の時の彼女は本当に『暴走』した結果だったのかもしれないわね…。
「そのままの口調で大丈夫ですわよ。わたくしもその方が話しやすいですし」
「そうですか…?ではお言葉に甘えて…それで、私に聞きたい事って?」
「ええとね、ミランさんてここを何かの物語かゲームの世界と勘違いしていたわよね?」
「うっ…。はい、お恥ずかしながら…。ホント、なんで勘違いしちゃったんだろって、今でも思うの」
うん、そこも聞きたい。
「きっかけとかは何かあったの?勘違いに至るような」
わたくしのこの質問に答えたミランさんの話を纏めると、こんな感じだった。
自分が転生者だと自覚したのは、5歳で神殿で祝福を受けた時。
その時光の精霊がつき、属性も光だった。
さらに所持魔力量がかなり多かったため、使徒さん達に褒められ、自分はきっと未来の聖女なのだと思い込んだらしい。
そして母親に聞いたこの国の王子2人の名が、前世で読んだ小説に出てくる名前だった上に、その小説のヒロインの聖女がミランという名前だったそうで…。
うん、そこまで被っちゃってたらまぁ、勘違いしても仕方ないわ…。
しかしそのヒロインのミランは桃色の髪だったそうで、これは大変だ!と慌てて(なぜ慌てたのか、今思えば自分で意味がわからない、とミランさんは言ってたわ)何とか髪色を変える魔法を覚えたものの、なかなか調節が難しかったらしくて、あのようなドギツイピンクになったらしい。
「じゃあ、全部、思い込みっていう事なのかしら?」
「バッサリ言わないでぇ〜!黒歴史なのよ〜!」
うん、そうでしょうね…。
わたくしでも、もし同じ勘違いしたら黒歴史だって思うもの。
「ふふ、ごめんなさい。ねぇミランさん、ここが別の小説とかゲームの可能性はないかしら?」
「えっ、別の?何でまた?」
何でと言われると…説明し辛いのよねぇ。
勘といえばいいのかしら。
「何て言えばいいのかしら…わたくしの周りを取り巻く人物が、ちょっとおかしいっていうか」
「シャーロット様の周りが?シャーロット様が主役とか、悪役令嬢ポジの小説か何かじゃないかってこと?」
「ううん、わたくしが主役とか悪役令嬢ポジは無いと思うわ。わたくしもう結婚してるし」
「えっ!?結婚?誰と!?」
え、知らなかった?
あ、そっか。
ミランさんが学院にいた時、わたくしまだ婚約すらしていなかったわ。
「シュヴァリエ先生よ。カインズ・シュヴァリエ侯爵」
「ええええ!?あの、めっちゃイケメンな先生!?」
「ふふ、そうなの」
そうでしょうそうでしょう!
わたくしの旦那様、めっちゃイケメンでしょう!
ミランさん、なかなか分かってるわね!
「あー、でも確かにシャーロット様とシュヴァリエ先生ならお似合いだし、納得だわ。アレンなんかよりずっとシャーロット様に似合う!」
「あら?ミランさんはアレン元王子の事、好きじゃなかったの?」
「んー、顔はまぁ、かっこいいなって思ってたし、今もそう思うけど…あの頃の私、暴走してたからか、アレンのおかしさに気付いてなかったのよね」
ああ…なるほど。
「冷静に振り返ってみれば、オカシイ、と」
「そうなのよ!私、アレンと一緒に黒い人達に回収されたでしょ?あの後に聴取を受けたんだけど、その時担当の人に話してるうちに、自分の事を客観的に見れたっていうか。それで気付いたのよ、アレンはバカなんだって」
ブハッ。
ちょっと、紅茶吹いちゃったじゃないの!勿体無い!
慌てたミランさんにハンカチと布巾をもらって、お代わりの紅茶を頂いて、ようやくふぅ、と落ち着く。
「で、シャーロット様はどの辺が気になってるの?」
「うーん、なんて言えばいいのかしら。どこがと聞かれたらハッキリ言えないのだけれど、どこか普通じゃないのよ。それこそ、物語の登場人物みたいなおかしさ、って言えばわかる?」
ふむふむ、と頷くミランさん。
何となくだけれど、伝わってはいるっぽい。
「あとね、桃色髪のヒロイン属性の生徒が多すぎるの」
「えっ、私以外にもいるの?」
ええ、魔法で染めてはいないと思うけれど。
「キース王子にへばりついて居たメイジーって名前の桃色髪の生徒がいたわ。あと最近わたくしに絡んできた男子生徒にへばりついていた薄桃色髪のリンダさんていう生徒もいるの。あ、この男子生徒も多分、転生者だと思うわ。設定がなんちゃらって呟いてたから」
ブハッ。
今度はミランさんが紅茶を吹き出したわ。
先程少しだけ使った布巾と、自前のハンカチを差し出すわたくし。
「あ、ありがとう。それにしても、なるほどね。それならシャーロット様がここが何かの小説とかの世界なのかもって考えるのも納得だわ。わかった、ちょっと考えてみるから、その男子生徒の名前とか、桃色髪の生徒達の名前とか、教えてくれる?あと、良く小説に出てくる有力貴族の息子の名前とか、ゲームの攻略対象になりそうな人達の名前も分かると助かるわ」
待ってました!とばかりに、パシン、とテーブルに名前がびっしりと書かれた紙を出すわたくし。
そう言われると思って!!
持ってきたのよ、リストを!!
「お、おぅ、準備周到ね…さすがシャーロット様」
ふふふ、そうでしょう?
後日また来る事を約束して、今日はお暇したわ。




