episode.21 Chevalier's talented people.
『ロティー、調べたよー!』
カイン様の帰宅が遅くなると連絡を受け、1人で夕食を済ませて部屋に戻ったわたくしの目の前にワサワサした黒い闇が現れ、そこからアインスが姿を見せてすぐに声を上げた。
直後、床のカーペットがモコっと膨れ、モグラの様に土精霊のヌルが飛び出したわ。
「アインス、ヌル、おかえりなさい。早かったわね、ありがとう」
『ロティに言われてすぐに僕の魔力を追ったんだけど、1人が見つからないなぁって思ってたらさ、ちょうどロティの側にいたフュンフが「さっきロティにちょっかいかけて、カインに吹っ飛ばされた」って聞いたよー、大丈夫だった?』
あら。あの時フュンフが側にいたのね、気付かなかったわ。
「ええ、大丈夫よ。カイン様がすぐに転移して来てくれたから。あの王子は脱落したみたいだから、除外していいわ」
『フュンフから、ちっちゃい元第一王子みたいだったってきいたよぉ。シャーロット、怖かったでしょぉ?』
まったり口調のヌルが、心配そうにわたくしの頭を小さな手でポテポテと撫でてくれる。
うーん、いつ見てもヌルは可愛いわ!
見た目がなんて言うか、小人?ドワーフ?
白雪姫に出てくる7人の小人の髭無しバージョンみたいな。
隣にいるアインスも童顔で可愛いのだけど、快活なアインスに比べてヌルはぼんやりさんだからかしら?余計可愛い。
「大丈夫よ、ありがとうヌル。さて、報告を聞かせて──」
「お話し中の所申し訳ございませんが奥様、間もなく旦那様がお帰りになられます」
部屋に控えていたエッタに言われ、「あら」と立ち上がるわたくし。
エッタからカイン様の帰宅を予告されるのは当たり前になっていて、いつもスルーしていたわたくしなのだけれど、ふと疑問が湧いたの。
「エッタ、今まで疑問に思った事は無かったのだけど、何故いつもカイン様の帰宅に気付くの?魔道具か何かで連絡でも来てるの?」
わたくしが『別に変な疑いは無いのよ』という思いを込めて、極めて普通にこてん、と首を傾げれば、向かい合っているエッタも、こてん、と首を傾げたの。
あら?何か変な事を聞いたかしら…?
不思議な空気の中、何かに気付いたらしいエッタが「…あぁ、そっか、話してないのか」と呟いた。
話してないって何のことかしら?と反対側にこてん、と首を傾げたけれど、窓の外から馬車の音がして、とりあえずお出迎えしなきゃ、と1階に降りることにしたの。
「アインス、ヌル、少し待っててくれる?お菓子とか食べてて良いから」
『『おっけ〜』だよぉ』
玄関ホールに着いたわたくしに、エッタがこそっと「先程の事は旦那様に聞いてみて下さい」って囁いて、一歩下がったわ。
頭に疑問符が浮かびまくったけれど、分からないものは分からないし、エッタに言われた通りカイン様に聞きましょう!と納得して頷いた。
シュヴァリエの執事のセバスチャンがドアを開けると、わたくしの姿を見て笑顔になったカイン様が邸に入ってきた。
そう、シュヴァリエの執事、セバスチャンて言うのよ!
彼は白髪混じりの髪をピシッと後ろに流した、細身でにこやかな老紳士って感じの執事で、もちろん執事御用達(?)のモノクル着用。
シリウスより、これぞ『執事のセバスチャン』!って感じの執事なの。
「「おかえりなさいませ、旦那様」」
「おかえりなさいませ、カイン様」
エッタとセバスチャンが声を揃えるのとほぼ同時に、わたくしも愛するカイン様を笑顔でお出迎え。
コートと手袋と鞄をセバスチャンに渡したカイン様が、わたくしの目の前まで来てぎゅうっと抱擁し、おでこにキスをくれるのが日課。
はぁ、幸せだわ!!!
「ただいま、ロティ」
「旦那様、お夕食はどうされますか?」
セバスチャンがニコニコと微笑みながら問いかければ、カイン様はわたくしを抱きしめる力を緩めてちょっと考えてから「軽くつまめるものを部屋に頼む」と答えて歩き出した。
セバスチャンはすぐに「かしこまりました」って答えて、キビキビと厨房へ。
いや〜出来る執事って感じだわ〜。
そして何処と無く、シリウスに似てるのよねぇ。
笑顔の裏で纏っている鋭利な魔力の質とかそう言うのが。
そして1口サイズのサンドイッチを摘んでいるカイン様に、何の気なしに先程エッタに向けた疑問を問いかけたら…あらまぁ、思わぬ答えが返ってきたのよね…。
「あれ、もしかしてロティはエッタがウチにいたの知らなかった?」
へっ?ウチって、シュヴァリエ?
「ええと…エッタはヴァロワ家に来る前はシュヴァリエの侍女をしていたのですか?」
「あー、違う違う。エッタは元シュヴァリエの影だよ」
はいぃぃぃぃぃぃぃ!?
「えっ、うそ、えっ!?」
あまりの衝撃的事実に、壁際に控えているエッタとカイン様を交互に見るわたくし。
「くっくっ、ほんと可愛いなぁ、ロティは。エッタもそう思うだろ?」
「はい、奥様は目に入れても痛くない程可愛らしいです」
ちょ、そんな事、初めてエッタに言われたわよ!?
思わずぱちぱちと目を瞬かせていると、コメカミの辺りにちゅっと口付けられ、ぶんっと振り向くと破顔しているめっさ可愛いカイン様が。
…ヤバい、胸きゅんした、鼻血出るっ!
咄嗟に両手で鼻を押さえたわ…鼻血は出ていないわね、良かった…。
「え、ええと、ええと…えぇぇ?エッタが、元影って、本当に?」
「本当だよ。何年か前に義父上に頼まれて、戦える執事と使用人と侍女を紹介したんだ」
戦える執事と侍女…って…。
「まさかシリウスもですの!?」
「うん。シリウスに聞いたけど、義母上と義兄上の筆頭侍女も元影の侍女らしい」
「えっ、セリとロアー!?」
「そうそう。他にも3人居るはずだけど、私はどいつが何の仕事に就いてるかまでは分からないんだよね」
あらー、確かにあの2人は物凄く優秀だったけれど、想像以上に凄い侍女達だったのねぇ〜…なんて関心していたら、エッタが一歩前に出たの。
「私から宜しいでしょうか」
「え、ええ、どうしたの?」
「シュヴァリエからヴァロワ家に入った他の3人は、1人がシェフ、1人が御者、1人が侯爵様の補佐として働いております」
まぁ…なんて事!?
「そうだったのか。…あ、そういえば会ったかも。あいつ、リンクだったのか。変装ばっかり見慣れてたから気付かなかったな〜」
リンクって、リンクって!
お父様の有能過ぎる補佐じゃないの!
「ヴァロワ家はシュヴァリエ家から有能な影さん達を雇っていたのですね…感謝してもしたりませんわ」
「んー、雇ってるわけじゃないよ。彼等はそれぞれの事情から引退を考えていて、転職した形だからね。だから雇い主は既に義父上になっている。エッタはロティに着いてきてくれたから、またシュヴァリエに雇われてるけどね」
「そうだったのですか。びっくりですわ…あっ、エッタが元影さんなら、カイン様の帰宅を気配とか何かそういうので察知しているということ?凄いわ!あなた凄いのね、エッタ!」
エッタに尊敬の眼差しを向けると、珍しく頬を染めるエッタ…可愛いかよ!
「エッタが照れてるとか、初めて見たな…さすがロティ。でもあんまりエッタばっかり見てないで、こっち向いて?」
ぐいん、と身体ごとカイン様の方に向けられ、勢いの余り「うぇっ!?」と変な声が…うぅ、恥ずかしい。
と、顔を真っ赤にした直後、視界の隅でモソモソとお菓子を貪るアインスとヌルが…2人のこと、すっかり忘れていたわ。




