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secret.5 信頼

本日ちょいと遅れました。


認めたくはないが、ゼクスのお陰で色々と吹っ切った俺の元に、頼んでもいないのに部下達からシャーロット嬢に関する様々な報告が上げられた。


その内容は主にどの様な性格なのか?何が好みなのか?趣味は?といった内容で、俺が一方的に知っていいものなのかと悩みつつも、結局聞いてしまうという…まんまと部下達に乗せられている状態になってしまっていた。


シャーロット嬢は図書館で読んでいた本からも分かる通り、遺跡等が好きらしい。

これはユーリからの報告でわかった。


「シャーロット嬢はやはり遺跡が好きらしく、『ミステリーをハントしたいわ…。でも貴族の生まれじゃ難しいわね』と、常々仰っている様ですよ。長ならその夢を叶えてあげられますね!あと、長は何ヶ所もの遺跡の復元にも携わってますから、お名前もご存知かもですね!」


これを聞いた俺は顔が緩むのを抑えきれず、城内に秘密裏に作られた俺の執務室の机に突っ伏した。


吹っ切った後の俺が、何度目かに図書館にいるシャーロット嬢を見た時、ふと気付いた。

シャーロット嬢は侯爵家の令嬢なのに、護衛がいないのだ。

俺が慌ててそれについて探ろうとしたら、タイミング良く報告が上がった。


「どうやら、シャーロット様は御自身で作られた魔道具で身を守ってらっしゃるようですわ。後、ワタクシが確認した所、少なくとも4体以上の精霊と契約されていらっしゃるようです。彼等の守りもあるようですわ」


と、オネェ口調の、見た目も女性にしか見えない部下の1人であるミルカから聞かされた。

ミルカは通常隠されている魔法や、姿を隠している精霊を見ることが出来る。

ヴァロワ侯爵家は元々攻撃魔法に強く、シャーロット嬢のお父上である侯爵も魔法省のトップを務めているほどのゴリッゴリの攻撃魔法を得意とする魔法師なのだが、夫人のシャーナ様は精霊魔法師の家柄だ。

なので4体以上もの精霊とは、さすがヴァロワ侯爵夫人のご息女だなと感心してしまった。

これだけでも相当なのに、その後のミルカからの追加の報告で、『さらに1体確認しましたわ。あと、おそらく5体とも上位精霊でしたわ』と聞き、さらに驚いた。


そんな才気溢れるシャーロット嬢ならば、素晴らしい魔道具を作る才能があっても不思議ではないが、やはり心配で、女性に一切興味のないミルカに護衛を頼んだ。



そんな、かなり自己満足な日々を過ごしていた俺の元に、シリウスから久々に会いたいという連絡が来た。


「長、ご無沙汰しております」


深々と頭を下げるシリウスは、先代、つまり俺の父親の部下だった。

身を隠しての密偵の仕事と執務能力に長け、密偵業の傍らシュヴァリエの執事をしていたのだが、孫が生まれたのを機に引退し、ちょうど『戦える執事はいないか?』とシュヴァリエに声を掛けてきていたヴァロワ侯爵に紹介し、無事、転職したのだ。


「シリウス、久しぶりだな。家族は元気か?」


俺は久々に飲む紅茶のカップをソーサーに戻し、何の用事で来たのかわからないシリウスを探るように、まずは世間話を始めた。


「ええ、お陰様で、皆元気にしております」


ニコリと微笑んだシリウスは、現役時代と変わらぬ鋭利な魔力で身を包んでいる。

全く衰えていないな、と感心していた俺に、シリウスが思いもしない言葉を口にした。


「どうですか?我が主の愛娘様は」


要件はそれか!

というか、なぜ、バレてる…?

…いや、あれだけ部下達が情報を探っていれば、シリウスが気付いてもおかしくないか。

俺としたことが、そんな単純な事を見落としていたとは…。


「あのな、シリウス…俺は」


「お嬢様、可愛らしいでしょう?」


「うっ、いや、俺はだな」


「可 愛 ら し い で し ょ う ?」


圧が凄いぞ、シリウス!

しかも何処と無く殺気が混ざってないか…!?

これは隠しきれる気がしない。

というか、多分バレてるな…。


「あ、ああ、そうだな、とても可愛らしいと…思う」


俺の答えに満足したのか、殺気を消し、再びニコリと笑顔を見せた。

困った、シリウスの考えている事がさっぱりわからない。


「では長は、いつ頃ヴァロワ侯爵家にお嬢様宛の釣書を送る予定で?」


再び紅茶を口にしていた俺は、思わずブフォっと吹き出してしまった。


「つ、釣書ってお前、自分が何を言ってるか、分かっているのか?」


「ええ、もちろん。むしろ長こそ…なぜ、その様に取り乱しておるのです?」


「え、いや、だって…。シャ…、ヴァロワ侯爵家のお嬢様はシリウスにとっても、大切なんじゃないのか?」


「ええ、お嬢様はとても大切でございます」


「なら何で」


「ですが長…カインズ様も、わたくしにとっては大切な存在でございます」


カシャン。

持ち上げかけたカップから、力の抜けた指が離れる。

ゆっくりとシリウスの目を見てみれば、そこには幼い頃に見た優しげな光があった。


「わたくしとしては、シャーロットお嬢様とカインズ様は、とてもお似合いだと思うのですよ」


「俺が、彼女と…お似合い?」


「ええ。ご存知かとは思いますが…お嬢様はあの年齢で、既に才能の塊です。その才能とあの美貌ゆえ、幼い頃から王家にも狙われており、旦那様と奥様が昔から必死に守ってこられました」


「…王家というより、王妃か?」


シリウスが頷くのを見た俺は、脳内で息子に甘い王妃と脳足りんな王子2人を思い浮かべ、想像の中で殴り飛ばしていた。


「幸い、お嬢様も王家との関わりを避けており、お嬢様曰く「あの王子達は嫌です。頭も性格も根性もよろしくなさそうですもの」との事で、嫡男のアンリ様も「可愛いロティがあんなのの婚約者になんてされたら、王家滅ぼすよ、僕」と。なのでお二人共王家とは距離を置いておられます」


相変わらず声真似が上手い様だが、元々シャーロット嬢とアンリの声を知らない俺としては、なんとも言えないので、そこには触れずに置いた。

本来、ヴァロワ侯爵家の嫡男ともなれば、王子の側近をやっていてもおかしくない。

しかしその王子が脳足りんなせいか、自分より賢い者を遠ざけているとの報告が来ていた。

アレン王子より賢くない貴族令息となると、探す方が大変なのでは?と言っていたのは部下のうちの誰だったか。


「なるほど…ご令嬢を守るという面で、似合いという事か」


「それもあります。旦那様が奥様に良く似たお嬢様を溺愛されてますので、自分より強い奴でなければ娘は渡さん、と仰っておりますから」


「…そんな奴、いなくないか?」


魔法省の演習を警護していた時、侯爵が普通ならば木が1本折れる程度の初級の攻撃魔法を放ち、着弾した場所に観劇のホールくらいのデカさのクレーターが出来ていたのを思い出した俺は、若干遠い目になっていた。


「そうですねぇ、攻撃魔法に関しては旦那様と張り合える者はアンリ様くらいでしょう」


「ほう、そこまで優秀なのか」


「ええ、アンリ様は旦那様に生き写しでございます。外も中も。まぁ、この様な御家族に、お嬢様はそれはもう溺愛されておりますので…普通の貴族の坊ちゃんでは、お嬢様どころか、まず旦那様に相手にされません」


うん、そうだろうな。

だがしかし、それは俺もかわらないのではないか?

むしろ影を担っている様な家に、愛娘を嫁がせるわけが無いと思うのだが。

俺の顔からその考えを読み取ったのか、シリウスがニタリと笑った。

うわ、久々に見たな…怖。


「実は旦那様と奥様は、ことのほかカインズ様を気に入っておられます」


「…は?俺を?何でだ?俺が侯爵と話したのなんて、お前を紹介する時と、侍女を紹介した時…後は数回だけ、魔法省の魔術師を影に引き取った時くらいしかないし、夫人に至っては1度夜会で挨拶を交わしたくらいだぞ?」


「その通りでございます。その数回で、気に入られた様ですよ」


「意味が…わからん」


俺はついこの間まで、あまり人に好かれる等という事には感心が無かった。

なので好かれようと努力したこともないし、好意を向けられようが嫌われようが、なんとも思っていなかったわけで、侯爵に会った時も好かれたい等と考えていなかった。


「旦那様は裏表の無い方を好まれます。しかし貴族など、裏表しかございません。カインズ様はその点、全く裏がございませんから」


「それは、そうかもしれないが…仕事に裏がありすぎるだろう」


俺自体が裏表がなくとも、影の頭領という立場は裏しかない。


「戦える侍女を紹介して頂く際、わたくしが旦那様になぜシュヴァリエ家に紹介を頼むのか聞いたのですが、魑魅魍魎蔓延る貴族社会にどっぷり浸かっている貴族に比べ、シュヴァリエ家の教えと訓練を受けた侍女ならば信頼出来るからな、と仰っておいででした。ちなみにカインズ様の紹介した元影の侍女のうち、セリが奥様、ロアーがアンリ様、エッタがお嬢様の筆頭侍女です」


「そうなのか」


筆頭となれば、家令の中でもかなり地位が高い。

元部下が信頼され、大切にされているのは嬉しい。


「旦那様は侍女達からカインズ様に情報を流されるという心配など、一切されておりません。もちろん、契約時にその為の誓約を結んだというのもあるでしょうが、単純に、カインズ様を信頼されているのですよ」


「そう…なのか。シュヴァリエにとって信用は何より大切だが、信頼というのは、なんというか、嬉しいものだな」


俺がそう答えると、シリウスが嬉しげに目を細めた。


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