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secret.3 燦爛


王家から与えられる主な任務は、潜入から諜報、裏工作や暗殺。

その方法も、姿を完全に隠しての密偵業から変装での潜入、ハニトラ、等様々。


そして今現在のシュヴァリエ家の影の頭領である俺の部下の数は、悲しい事に300人を超えた。

そう、300人もの人間が、闇に紛れて国内外に潜んでいるのだ。

シュヴァリエ家が代々王家の影を担っている事は知っていても、まさかそんなにも多い『影』が居るという事実は、一部を除いて知っている貴族は少ない。


ちなみにこの人数についてロティに伝えた時、ロティは目を瞬かせて一言、「そんな沢山の部下を支えていらっしゃるカイン様は凄いんですのねぇ」で受け入れた。

俺の妻、純粋に凄いと思う。

そして愛しい。愛しすぎる。間違いない。


話は逸れたが、その『知るもの』の一族の二つが、偶然にもロティの親友であるソフィア嬢とミーシャ嬢の家…ミーゼス伯爵家とクルーゲル伯爵家だ。


ミーゼス伯爵家は実力主義の騎士団で、代々実力で団長を務めている。

そしてクルーゲル伯爵家は、こちらも実力で代々近衛師団長を務めていた。

そんな両家は昔から仲が良く、頻繁に合同演習を行い、騎士達を鍛え上げたり、お互いの隊の隊員の向き不向きに応じて、移籍させ合ったりと助け合ってきた。


騎士団と近衛という立場は、かなり王家に近い。

しかも代々務めているというだけあって、王家からの信頼も厚い。

ぶっちゃけ、伯爵家という家格は低すぎるくらいだ。

伯爵位は一応高位貴族には含まれるが、伯爵位の中での上下がかなり極端に別れている。

その為、伯爵位でも子爵家並の落ちぶれかけの家も有れば、先程の両家のような侯爵並の家もある。

なので一概に『高位貴族』と括るのが難しい。

たしかロティも以前、『1歳の誕生日に、ヴァロワ家が侯爵家だと知って安心しましたの。小説でも伯爵家は歴史があるだけで貧乏とかいう設定が良くあったので!』と言っていたが、まさにその通りなのだ。

そんな中で、クルーゲル伯爵家とミーゼス伯爵家は、叙爵を拒否していた。


理由としては、侯爵という完全な高位貴族の仲間入りをしてしまうと、社交面で色々と面倒なのがひとつ。

両家の当主が騎士と近衛ということは、パーティーや夜会では、先頭に立って護衛につく立場だ。

それが侯爵となると、護衛の仕事よりも客として参加する事を義務付けられる。

それは、両家の当主共望んでいない。


ふたつ目に、伯爵から侯爵になる事で、あまり真面目でない部下が爵位に擦り寄ってきたり、同じ侯爵家や伯爵家の妻以外の令嬢を、愛人や側室として宛てがわれそうになったりする。

「跡継ぎは何人いてもいいでしょう?」とかいう理由をつけて。

この点においては、伯爵家である今ですら既にあるらしく、両家の当主や嫡男は家系なのか一途な者が多いため、かなり迷惑しているらしい。

これについては、実際俺も…現在進行形で被害にあっているため、物凄く分かる。

いつか両家の当主と酒を酌み交わしながら愚痴りたいくらいには、理解している。


しつこく娘をゴリ押ししてくる様な家で、マトモな家はほぼない。

そしてその殆どがシュヴァリエ家の影の有能さを理解していない。

していれば、影に目をつけられる様な事は避けるだろうが、していない為、薮蛇になる。

つまりアホな当主の家が多いわけだが、そんな所の娘など、見合いすら願い下げだし、そもそもロティ以外は俺の人生に必要ない。


また少し話がズレたが、この両家とシュヴァリエ家がどう関わっているのかというと、先程少し述べた、『隊員の向き不向きでの移籍』にある。


何人もの人間がいれば、同じ訓練をしても、段々と向き不向きは分かれてくる。

体格の差や、生まれ育った環境、元々の素質、そもそもの性別の違い…それは当たり前の事だ。

基本的には騎士団であれ近衛であれ、殆どの者がどちらかで『騎士』に育つ者が多いのだが、稀に『どう考えても隠密や暗殺向きの特技を持つ者』が出てくる。


例えば『気配隠すのが上手すぎて、居ることに気付かれない者』とか『毒が効かない体質の者』とか…そういう密偵向きの素質や体質を持つ者は少なからずいて、そういった団員を、我がシュヴァリエ家が受け入れているのだ。


そして気付けば300人。


彼らの殆どが元々平民で、元奴隷も多い。

彼らは普段、任務外ではシュヴァリエの領地で一般人に紛れて暮らしているのだが、随分と大所帯になってしまった。

そんなにも多い部下に、様々な秘密を抱えさせてしまう事、対象の命の責任を負わせる事が、辛い。


その日、部下に仕事で暗殺の指示を出して帰宅した俺は、ロティに暗殺の事は伏せつつもポロッと心情を漏らしてしまった。

それに対し、ロティは真剣な顔をしながらこんな事を言ってくれた。


「わたくしのいた前世の国ではハッキリと諜報を行うと明言していた組織は多分存在していなかったのですけれど、他国にはいましたわ。名称はCIAとかMI6とか、そんな名前の。まぁ、196もの国があったので、その様な組織は山ほどありましたの。一般人だったわたくしは、その名称すらほぼ知りませんけれどね?」


「196!?そんなに国が?なるほど、それなら密偵も多そうだね…」


「ええ。一桁じゃあ足りないのではないかしら…正確には分かりませんけれど。わたくしがいたその世界は、この世界と違って魔法はなくて、代わりに科学という技術がとても発展しておりました。なんて言うのかしら…例えば魔法で水を出し、冷たい風で凍らせ、氷を作る魔法具がありますでしょ?それには魔力を使うわけですけれど、その世界での魔力の代わりとなるのが…危なくないようにした雷のチカラ…かしら…。伝えにくいのですがそんな世界だったので、情報という形ない物も、国を跨いで飛び交っていたのですわ。そうですわね…見えない通信網の様な…かなり遠くまで繋がる念話…というとわかります?それを使えば情報は即座に他国に流せましたわ。ここよりは遥かに情報を得ることが容易い世界でしたの。そんな世界でしたから、重要な機密は漏れないように守られていて、手に入れるのは大変だったと思いますわ」


「凄いな…そんな進んだ情報のやり取りが出来る世界でも手に入れにくい情報となると、やっぱり…戦争とか?」


「ええ…そうですわね。悲しい事に戦争はわたくしの世界でもありましたから。あとはおそらく国政に関わる事でしょうか。何にせよ、情報入手の容易い世界でも、シュヴァリエ家の様に潜入してまで情報を得る組織が存在していたということは、その存在が必要という事ですわ。そして私の拙い知識ですが、そういった組織に在籍されている方々は、家族にも自分が諜報員であることや仕事内容を明かせないのだそうです。仕事で抱えた秘密を、彼らは墓場まで持っていくのですわ。それに引替え、カイン様は話せる事はわたくしに話してくださる。だからわたくしもカイン様とカイン様の苦しみを分け合える。それが嬉しいですわ。確かに命の危険はついてまわるでしょうし、それは間違いなく恐ろしく思います。暗殺…などもカイン様の仕事ではあるのでしょうし」


「ロティ…暗殺の仕事のこと…知ってたの?」


「ええ、まぁ。あ、でも誰かに聞いたとかではありませんのよ?『王家の影』と称されるからには、そういった仕事もあるだろうな、と考えたのですわ」


「軽蔑…しないの?俺の仕事の事…というか、俺の事」


「え?カイン様を軽蔑?なぜですの?カイン様は嬉々としてターゲットの命を奪われている訳では無いのでしょう?仕事と割り切って、命を奪う方の運命を背負ってらっしゃる。そんな方を軽蔑するはずがないではありませんか」


「…ありがとう。そう言って貰えると…ずっと重かった心が、少し軽くなった。本当にありがとう、ロティ」


「いいえ…わたくしはお仕事のお手伝いは出来ませんが、これからもカイン様が抱えきれない秘密は共有し、一緒に背負いますわ。あ!もし部下の方で潰れそうというか…秘密に耐えかねて逃げ出したそうな方がいたら、わたくしで良ければお話を聞くくらいなら出来ますので、言ってくださいましね?勿論2人きりなどなれませんし、エッタには聞かせられませんから、カイン様も一緒ですけれどね?」


そう言ってはにかむ妻は、聖母の様だった。

俺は影という闇の一族に生まれたが、ロティという俺だけの光を手に入れたのだな、と心から幸せを感じた。


その後ロティが真面目な顔で「わたくしも早く影になる勉強をしませんと」と言い出し、俺は全力で止めた。

しかし諦める気はないらしく、どう諦めさせるかが最近の悩みなのだが…「影になれば、カイン様と共にいる時間が増えるのかなって思いましたの」と言われ、心が揺れ動いたのは秘密だ…。


誤字報告助かります、┏○)) アザーーース!

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