episode.17 Pathetic transfer student.
庭がよく見えるらしい1階の客室に案内され、窓からこっそりと見てみれば。
あら、あらあらあら!
やだ、ミーシャったら、とっても乙女な顔じゃない!
今すぐぎゅってしたくなる可愛さだわ!
わたくしでも可愛さに悶絶してしまうのだから、きっと隣を歩いてるユーリは必死に堪えてるわね…ふふふ。
「ロティ、ちょっと魔法使うよ」
カイン様がニヨニヨしていたわたくしの耳に触れた瞬間、2人の会話が聞こえるようになったわ。
「ユーリにこっそり魔法をかけておいたんだ」
そう言って悪戯っ子の様に笑うカイン様…やだ、素敵!
って、今はミーシャよ!
『クルーゲル嬢』
『は、はい!』
照れるミーシャの目の前に、跪くユーリ。
ミーシャったら、顔真っ赤!可愛い!
そしてミーシャの華奢な手を取ったわ。
これは…!!!!!
思わずカイン様と目を合わせ、にんまりと笑い合う。
『ラ、ランダル様!?』
『学院でずっと、貴女を見ていました』
『えっ』
キャー!!!
『いつも親友のお2人をとても大切にされていて、そのお2人のためならば王子にすら怒る貴女が、とても、とても美しくて…気付けばいつも目で追っていました』
「仕事しろよ」
「カイン様、しーっですわ!」
ぼろりと上司としてのコメントを突っ込んだカイン様の口を塞ぐわたくし。
『そっ、そんな所まで見られてましたの…?やだわ、恥ずかしい…』
『いいえ!とても素敵でした!これからは…貴女にも私を見て欲しい。どうか…私と結婚して頂けませんか』
『ランダル様…はいっ!わたくしこそ、よろしくお願い致します!』
『ほ、本当ですか!?では、これからは是非、ユーリと!』
『わ、わたくしの事も、ミーシャと…呼んでくださいませ。ユ、ユーリ様』
『嬉しいです、ミーシャ嬢!必ず、必ずミーシャ嬢を幸せにすると誓います』
『嬉しいですわ、ユーリ様』
キャーーーーーーー!!!!
やるわね、ユーリ!!!
見た目、声、だけじゃなくて、プロポーズまでもミーシャ好みだわ!
近いうちにソフィアも誘って祝いしなきゃ!
1人でキャーキャーと声にならない声で悶えているわたくしの手を、ペロリとカイン様の舌が舐めたわ!キャーって、わたくしカイン様のお口を塞いだままだったわ。
慌てて離そうとしたら、その手を掴まれて指にキス。
もう!ここ、他家なのに!
後ろの侍女さんが真っ赤な顔をしているじゃないの!
「上手くいってよかったね」
「はい!わたくしもう、嬉しくて!」
「あ、2人が戻ってくるよ、俺達も戻ろうか」
この後、無事にミーシャとユーリの婚約が成立。
改めてミーシャの意見を聞いた上で、ユーリは今のまま影として働く事になったわ。
ミーシャとユーリの婚約が成立した数日後、シュヴァリエ家でお祝いパーティーを開いたの。
少し前に、ミーシャとユーリと、ソフィアとソフィアの婚約者さんも一緒にお祝いはしたのだけれど、シュヴァリエ家の頭領の妻として、ユーリのお祝いがしたいって、わたくしが言ったの。
「長、奥様、お二人のおかげです、ありがとうございます!それに俺なんかの為にこんなパーティーまで…!」
「あら、俺なんかなんて自分を卑下してはだめよ。ユーリはカイン様の大切な部下で、わたくしの親友の夫になるのだから!」
「ロティの言う通りだ。結婚はミーシャ嬢が卒業してからだったな。結婚に関する事で休みが必要な時は調整はするから、気兼ねなく言えよ」
「長…奥様…!本当にありがとうございますっ!俺、長の下で働けて幸せです!」
「ははっ、影の仕事で幸せなんて、初めて聞いたぞ」
そんな微笑ましいやり取りを見て、思わずふふっと笑ってしまったわたくしに、カイン様が首を傾げたの。
「いえ、カイン様が部下の方に好かれてるのが嬉しくって。誇らしいですわ」
「ロティ…」
「奥様、奥様の仰る通り長は皆に尊敬され、好かれております!そしてそんな長を癒していただける奥様に、俺たちはとても感謝しているんです!」
ユーリの熱弁に、ユーリと仲のいい部下数名が同意の声を上げたの。
「「その通りです!」」
「あら、嬉しいわ、ありがとう」
にこりと笑ってお礼を言ったら、ユーリ以外の部下の方達が照れるように赤くなって、なんだか弟みたいだわ〜なんて微笑んでいたわたくしの腰を、カイン様の手がぎゅっと抱き寄せたの。
お顔を見上げてみれば、あらまぁ、黒い笑顔が張り付いていたわ…。
「お前たち、ロティが最高に可愛いのは仕方ないが、長生きしたければロティに頬を染めないように」
「え、ちょ」
「「申し訳ありませんっっ!!!」」
なんだか悪いことをしてしまったわね…。
その後は和やかに食事を終えたのだけれど、その後喜びでお酒を飲みすぎたのか、カイン様に飲まされたのか、皆さん潰れてしまって…最後には死屍累々だったわ。
カイン様は「これくらいで潰れるとは…再教育だな」なんて呟いていたわ。
そんなゾンビの様な彼らにはシュヴァリエ家に泊まってもらったわ。
カイン様って凄くお酒が強いから、全く酔わないのよね。
そういうのも影には重要らしくて、毒に耐性を付けるのと似た感じだと仰っていたわ。
かく言うわたくしも、カイン様と結婚した後、かなり飲んでも酔わない事が発覚。
前世でもそれなりに飲めたけれど、ここまでザルではなかったはず…。
でもわたくしがお酒に強いことは、カイン様にとっては安心材料だったみたい。
『酔わされて攫われたりする心配がないから、良かった』って言っていたわ。
そういえば、その時話の流れで『わたくしも毒に慣れたいですわ』って言ってみたら、真っ青なお顔で『ダメ』って言われてしまったのよね…少し興味がありましたのに!
それから数日後の夜のこと。
少し帰りが遅かったカイン様を玄関ホールでお出迎えしたのだけれど、わたくしの姿を視界に入れた途端、上着も脱がずにわたくしにぎゅううっと抱きついてきたの。
「お帰りなさいませ、カイン様」
「ただいま、ロティ」
「どうされました?お仕事で何か問題でも?」
「…うん、そんなとこ、かな…はぁ」
こんなに疲れているというか、元気の無いカイン様は久しぶりだわ。
夕食は要らないとの事で、何故か疲れきっているはずのカイン様に軽々とお姫様抱っこされ、リビングへ。
そしてそのままの体制でソファに座ったかと思うと、わたくしを横抱きにしたまま、カイン様の麗しいお口から盛大な溜息が漏れたわ。
「はぁぁぁぁぁ〜…」
どうしたのかしら?無敵なカイン様でも、この様子は流石に心配だわ。
「カイン様?どうなさったのです?わたくしが聞いても問題無いのであれば、お聞かせくださいませ」
カイン様の本業(王家の影)に関しては、わたくしが知ったらダメな内容もわんさかだから、何でも話して?とは言えないのよね。
溜息の後、しばらくわたくしの肩におでこを乗せていたカイン様は、ゆっくりとお顔を上げてから話してくれたの。
「最近、学院の方が終わった後、例の桃色編入生の件の事後処理をしてたんだけどね」
ああ、そんな事もありましたわね!
って、わたくしあれだけ怯えていましたのに!
解決した安心感と、その後すぐにミーシャとユーリの事があったからか、頭からすっこ抜けてたわ!
「え、ええ、どうなりましたの?」
「もしかして、忘れてた?王家に全く興味のないロティ、流石だよ、ふふっ」
「うぅ、わたくしがお願いしたのに、ごめんなさい…。学院から桃色編入生が居なくなって安心してしまって…!王子の事はその…普段わたくしの頭から消えてるというか…」
「うん、ロティの頭には俺だけ置いておいてくれたら良いよ。で、そのキース王子なんだけど、いよいよ廃嫡になりそう。王子ね、魅了にかかってなかったんだよね」
へっ?マジですの!?
ソッコーでかかりそうなのに…!
「ニセモノ…擬似魅了魔法だったからですの?」
「いや、多分…キース王子は全くあの編入生に興味なかったんじゃないかな。キース王子って、自分が大好きで他はどうでもいいっていう性格だから。しかも王子ってマザコンでさ。王妃に恋人は作るなって言われてたから、婚約者以外は作らないって決めてはいたらしいんだけど、なんせあのおツムでしょ。周りから恋人だと見られるような異性との距離感も知らないし、婚約者探しはしていたけど、見た目が好みな女性に片っ端から『お嫁さんにしてあげる』って宣ってたくらい、中身とかどーでもいいんだよね」
ああ…うん、凄く説得力があるわ…。
王子の僕かっこいい!自分大好き!って全身から滲み出ているもの。
で…、そんな王子からしたら、桃色編入生は見た目も好みじゃなかったから魅了にかからなかった、と…。
「そ、そうなのですね。それはなんと言うか…」
何だか…あのアホなキース王子を魅了出来なかったという事実を聞いてしまうと、途端に桃色編入生が不憫に思えてきたわ…。
遠い目になっていたであろうわたくしを見て、カイン様が頷いた。
「うん、ロティの考えてる事はわかるよ…流石に俺も、ちょっと不憫に思った」
「…ですわよね。なんと言うか、アレ(王子)に負けたと言うのが何とも…」
「うん…。で、まぁ、魅了にかかってなかったなら、あの距離感は何なのだ!と国王がキレてね。国王もさ、あまりにキース王子が手当たり次第に口説いたり、女生徒を侍らせてることに関して止めろって散々苦言を呈していたんだよ。で、元々女性関係に厳しかった王妃も、アレン元王子の事もあったからか今回はキレてさ。おそらくキース王子も北の塔行きかなってなったんだけど」
なるほどなるほど。
まぁ、アレが王太子にならなかった事は、この国にとっては僥倖ね!
…ん?
となると、誰が王太子に?理事長やってる王弟?
「そうなりますと、やはり王弟殿下が王太子になりますの?」
「そこなんだよねぇ〜…」
んんんん?
何やら面倒事の予感!ですわ。
誤字報告助かっております!
ありがとうございます!




