episode.12 I talked about the previous life.
「ロティ、最近元気ないよね?家でも学院でも考え込んでる事が多いし、何かあった?」
新学期に入って初めてのカイン様とのランチで、わたくしはカイン様からそんな事を聞かれてしまった。
「え。そんなことありませんわ?毎日充実しておりますわよ?」
「嘘つかないで、話して」
うっ…そんなにバレバレでした?
実はわたくし、例の編入生の存在が怖すぎて、初めて精霊さん達にお願いをしたの。
この世界の精霊さんは、祝福を受けた時にあらわれてくれた子達と生涯に渡る契約を結ぶのだけれど、常に側にいなきゃいけない訳では無いの。
まぁ精霊側が契約する人間を選んでるわけで、そのお気に入りの人間が望めば、ある程度側にいてくはくれるらしいし、それはそれで良いとは思う。
でもわたくしは精霊さん達にだって都合があるんじゃないかしら?と思ったから、わたくしと契約している6体の精霊さんには自由にしてもらっていたの。
精霊さん達は人間が魔法を使う時に手助けをしてくれるから、そういう『契約』ありきの隣人みたいな感じで接していたのだけど、精霊さんとしてはお気に入りの人間のために何かをしたい!って思う子が多いらしくて、自由にしてもらってる割には、気付くといつも側に誰かしら居てくれて、わたくしもよく『なんかして欲しいこと無い?』って聞かれていたのよね。
その溜まりに溜まった欲求が、わたくし達の結婚式に発揮されたわけなのだけれど。
それを思い出したわたくしは、精霊さんたちに、例の編入生の見張りをお願いしたの。
そうしたら案の定というか…まさに『ヒロイン』だったのよ…!!
精霊さんたちの話だと、転生者かは微妙らしいのだけれど、転生者じゃない無意識なヒロインも中々の強者な気がするわ…前世で読んだ小説からの知識だけど。
そしてそのヒロインが、カイン様を見る目がね…精霊さん達曰く『猛禽類が狙いを定めた時のアレ』らしいの!
その報告を聞いたわたくし、戦慄したわ。
でも、だからって、カイン様になんて言えばいいの?
「もしかして…俺の事、嫌いになった?それとも、何か俺に対して不満な事とかある?あ…やっぱり、さすがに毎日は辛い…とか?」
「えっ!?そんなわけありませんわ!わたくしがお慕いしているのは、今までもこれからも、ずっとカイン様だけですわ!不満なんてありません!それに毎日カイン様に愛されて、わたくしとても幸せです!」
わたくしがまごついていたら、カイン様が不安そうな目でそんな事を仰るから、わたくし慌ててカイン様のシャツをギュッと掴んで声を上げてしまったの。
自分の言葉が後から脳を駆け巡って、途端に頭から『プシュー』と音を立てて湯気が出そうな程顔が熱くなってしまったわたくしは、慌てて両手で顔を覆ったのだけれど、そのままカイン様にぎゅうっと抱きしめられたの。
「良かった…俺の愛情は重すぎかなって思ったりもしていたんだ。いや、実際重い自覚も…ある。だけど…ごめん、ロティが隣にいると抑えられなくて。俺もこれからもずっと、愛してるのはロティだけだし、ロティを悩ませる何かがあるなら、全て俺が取り除く。だからロティが不安そうな顔をしている理由を聞かせて」
先程まで不安で揺らいでいたカイン様の瞳が、いつもわたくしを見る時の様に段々と熱を帯びていく。
そのままわたくし達は、お互いを安心させるように抱き締め合った。
「わたくしカイン様を不安にさせてしまっていたのね…ごめんなさい」
「ロティの気持ちが今も私にあるとわかったから、大丈夫だよ。理由は…やっぱり私には話せない事なのかな」
カイン様は先程の焦った様子はなくなったけれど、心底心配そうに、気遣わしげに、泳ぎまくっているであろうわたくしの瞳を覗き込んだ。
そのお顔、ワンコっぽくて撫でたくなるわ…わたくし猫派ですのに…じゃなくて。
どうしよう、カイン様に、話してみる?
精霊さん達の話しか聞いていないから、もしかしたら前提から勘違いかもしれないけど…でももし本当にそうなって、もしもわたくしがこのまま何も言わずにいる事で、さらに拗れてしまったりしたら、きっとわたくし、ものすごく後悔するわ。
だって、ヒロインのカイン様に対する視線は、猛禽類のアレ、らしいし。
前世で読んだ小説でも、「なんでここで正直に話さないの!?話しておけば拗れないのに!」って叫びたくなるストーリーが、よくあったもの。
「カイン様、少し長い話になると思いますの。ですので…今日帰ったらお話を聞いて頂けますかしら」
「うん、もちろん!今日は何も無いから、一緒に帰ろう。教室で待ってて」
「はい!放課後、お待ちしてますわ」
あ、待って…これから帰宅するまでの短い間に、何か起こる可能性はあるのかしら?
だってそういうの、あるあるな展開じゃない!?
ああ、不安でわたくしのへっぽこな心臓が軋むわ。
「あのっ」
「ん?」
「カイン様に…お願いが、ありますの」
「ロティからお願いなんて、珍しいね?なに?言って?」
「あの…わたくしの一学年下の編入生がおりますわよね?あの方に、出来るだけ関わらないで頂きたいの…変なお願いでごめんなさい」
「編入生…ああ、あの桃色髪の生徒か。わかった、関わらないようにするよ。他には何かある?」
わたくし、かなり勇気を振り絞って無茶なお願いをしたのに、カイン様は呆気なく了承してしまった。
「ありませんが…あの、できますの?」
先生なのに?
「うん?編入生と関わらないようにだろう?もちろん。滅多にないロティのお願いなら、何としても聞かないとね」
いったいどの様にして関わり合いを避けるのか、わたくしには全く見当もつかないけれど…申し訳ないとは思いつつも、とても安心したわたくしがいたわ。
カイン様はもう一度わたくしを抱きしめて、「少しだけロティを補充出来た」って嬉しそうに、でも寂しそうに教員室に戻って行った。
わたくしを補充って、毎日会ってるし、なんなら一緒に住んでますのに…でも、わたくしもカイン様を補充できましたし、お互い様でしたわね。
そして放課後、シュヴァリエ家の馬車に2人で乗って帰路へ。
馬車の中でも隣同士でいつもくっついていて、ゼロ距離なのだけど、なぜか未だにドキドキしてしまうの。
この事をエッタに話したら、「いつもあんなにいちゃついておりますのに、何を今更!?」って呆れられてしまったのよ…!
そうよね、エッタには結婚前にイチャついていたのも、いつも見られていたのだったわ。
でもあの頃はエッタがあまりにも気配を消すのが上手すぎて、忘れてしまってたのだもの!!
きっとあれはシリウス仕込みだと思うの。
馬車から降りて、夫婦の寝室の隣のリビングへ。
カイン様が、「話の前にちょっとだけ」って、わたくしに膝枕をご所望したの。
サラサラな黒髪を撫でていると、不思議とわたくしの心が穏やかになっていく。
お昼休みから、今日は帰ったらカイン様に前世の記憶について話さなきゃって、緊張していたのだけれど、ちょうどよく肩の力が抜けたみたい。
もしかしたら、カイン様はわたくしが緊張していた事に気付いていたのかもしれないわね。
まず、何から話せばいいのかしら?
気付いたらベイビーだったとこから?
上手く伝えれるかしら?
ああ、また緊張してきたわ。
わたくしが小さく深呼吸したら、カイン様に見られてしまったみたい。
「…ロティ、もしかして緊張してる?」
「へぁっ!?」
うあぁぁ、変な声が!へぁって何よへぁって!
今こそ穴が必要だわ!
恥ずかしさMAXで顔を覆えば、そのままカイン様にぎゅうっと抱きしめられて、耳元でカイン様が囁いた。
「はぁ、本当にロティは可愛いな…」
「うぅ〜今のは聞かなかったことにしてくださいませ〜」
「そんな勿体ないことしないよ。でもね、ロティ。今日はまだ襲わないつもりではいるけど、あんまり可愛いと俺の理性が持たないかもだから、それ以上煽らないで…最近本当に、ロティが可愛過ぎて辛いから」
わたくしも!!!
わたくしもカイン様がカッコよすぎて!!
色気がダダ漏れすぎて!!
もう!!色々辛いです!!!
結婚しても胸きゅんが止まらなくて!!!
心臓が痛いです!!!
でも『勿体ない』の意味は理解不能です!!
「…ロティ?」
わたくしが心臓痛すぎて何も答えずにいると、腕を少し緩めて顔を覗き込もうとするカイン様…無理。
今のわたくし、絶対真っ赤だもの!
きっと茹でダコよ!見せられないわ!
いや、それ以上にもうあれこれ見られてるけども!
「ちょっと、今は見ないでください、恥ずかしいの」
「見せて」
「…だめ」
「見たい」
あれよあれよとソファに押し倒され、無理やり顔を覆う手を退けられれば…目の前に熱に浮かされたカイン様の顔があった。
「ロティ…なんでそんな可愛いの?」
そんな事言われましても、と言う暇も無く、両腕をソファに縫い付けられたわたくしは、カイン様に唇を貪られていた。
わたくしいつも通り腰が砕けてしまって。
ていうか、キスだけでこれって、前世でのキスって、あれキスじゃなかったのかしら。
なんなの、この差は!?
そういえば、前世で読んだこの手の小説でもよくある描写だったわね…口付けだけで立っていられなくなるとか、腰が砕けるって…「まっさかぁ」って思ってたけど、コレなのね…ごめんなさい、過去のわたくしが読んでいた小説の書き手さん達、心から謝るわ。
「んっ…はぁ…」
「ごめん、大丈夫?」
全然大丈夫じゃないけれど「大丈夫」と言って、こくこくと頷く。
カイン様にキスされると、脳味噌が溶けるのよ、わたくし。
そのうちシナプスまでも溶けて、バカになってしまうんじゃないか心配な程よ。
「でも、襲わないって言ったのに…はぁ、ダメだな本当。いつも求めてしまってごめん」
も、求めてしまってとか!?
口にされると恥ずかしいのだけど!?
「わ、わたくし!カイン様なら嬉しいですから!…って、何恥ずかしい事を言ってるのかしら!?もう…わたくしのバカ…!」
「ふっ、ロティ…ありがとう、嬉しいよ」
わたくし結婚前…というかカイン様と婚約した当初は、前世の35年分の記憶があるものだから、すっかり自分が純潔という事を忘れがちだったのに、間違いなく今のこのシャーロット・シュヴァリエは、ちょっとのことで恥じらってしまう乙女なのよね!!
やっぱり転生特典かしら!?
って、そんな事を脳内で叫んでいる場合じゃないわ!
今はイチャイチャしてる時では無いのよ!
落ち着くのよシャーロット!!
深呼吸よ、シャーロット!!
ふぅ。
「あの…カイン様、えっと、お話をよろしいかしら」
「そうだね、ごめん、今日はまず君の話を聞くって言ったのに」
眉を下げるカイン様も、なんとまぁイケメン!
きゅんてしたわ…じゃなくて。
カイン様…その色気をしまってくださらないと、わたくし色々辛いですわ…。
特に、心臓のあたりが。
カインズがここまで甘いのはシャーロット限定です。
ついでにシュヴァリエの関係者以外の人間は性別関係無く全て『哺乳類』と括っています。
ぶっちゃけシュヴァリエとロティとロティの周りの数人(家族とか友人とか)以外はどーでもいい。
くっそ重いカインズの愛情に、ロティが同じだけの愛情を返してくれるので、ヤンデレまでは行かずギリギリで踏み止まれたイケメン。




