第28話「公開議会」
北方へ向かう前に、もう一度だけ議会が開かれた。
王命は下った。だが反対派は沈黙していない。
ロドルフ・グラナード公爵は、公然と発言の機会を求めた。
「北方交渉全権を一領主に委ねる。前例のない賭けだ」
低く重い声が議場に響く。
「成功すれば良い。だが失敗すれば、王威は地に落ちる」
軍派が頷く。
「その時、剣を抜く覚悟はあるのか」
視線は王太子へ。
レオハルトは動かない。
代わりにアリアが立つ。
「失敗を前提に軍を準備するなら」
静かな声。
「交渉は最初から破綻しています」
「理想論だ」
ロドルフは即座に返す。
「国家は最悪を想定する」
「だからこそ」
アリアは言う。
「武力以外の最悪回避策が必要です」
議場がざわめく。
「辺境伯が求めているのは独立ではありません」
「なら何だ」
「尊重です」
その一言に、数名の貴族が顔をしかめる。
「尊重で国境は守れぬ」
「尊重がなければ、国境は裂けます」
ロドルフの目が鋭く光る。
「君は国家を甘く見る」
「いいえ」
即答。
「国家を壊したくないだけです」
沈黙が落ちる。
「北方は財政負担を抱え、軍事の最前線に立ち続けた」
アリアは続ける。
「それに対し王都は十分な説明をしてこなかった」
「説明?」
「なぜ負担が必要なのか。何を目指しているのか」
ロドルフは腕を組む。
「説明で兵が動くか」
「納得で兵は動きます」
議場の空気が変わる。
軍派の一人が低く呟く。
「……一理ある」
ロドルフはアリアを見据える。
「では問う」
低く。
「辺境伯が王都の権限縮小を求めたらどうする」
核心だ。
中央の権限。
そこに触れれば、貴族社会は揺れる。
「再設計します」
ざわめきが爆発する。
「地方分権か!」
「王威の後退だ!」
ロドルフは手を上げ、静める。
「再設計とは何を意味する」
「責任と権限の再配分です」
アリアは言う。
「中央がすべてを握るのではなく、負担に応じて裁量を与える」
「王国の一体性が失われる」
「いいえ」
視線を逸らさない。
「形式的な一体性より、実質的な統合を」
沈黙。
レオハルトが初めて口を開く。
「グラナード公爵」
静かな声。
「軍を動かせば、北方は従うだろう」
「その通り」
「だがその後、信頼は残るか」
ロドルフは答えない。
「私は王国を、恐怖で束ねたくはない」
議場が静まる。
「フェルンベルク公爵令嬢に託す」
明確な支持。
ロドルフはゆっくりと息を吐く。
「王太子殿下」
低い声。
「失敗すれば、私は軍を進言する」
「当然だ」
短い応酬。
視線が再びアリアへ。
「猶予はどれほどだ」
「三十日」
即答。
「三十日以内に暫定合意を結びます」
「できなければ」
「軍議を受け入れます」
重い条件。
議場がどよめく。
ロドルフはしばらくアリアを見つめ、やがて言った。
「良いだろう」
その一言で空気が決まる。
「三十日だ」
公開の場での約束。
退路はない。
議会が閉じられる。
廊下に出ると、リュシアンが待っていた。
「大胆でしたね」
「時間を区切らなければ、疑念は消えません」
「三十日で国家の裂け目を縫う」
薄く笑う。
「困難ですね」
「承知しています」
アリアは言う。
「困難でなければ、意味がありません」
王都の塔を背に、出立の準備が整う。
三十日。
合意は国家規模で試される。
失敗すれば、軍が動く。
成功すれば、王国は変わる。
期限が、物語を加速させた。
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