第24話「選択」
夜は長かった。
若者三名は城内の仮牢に収容されている。
商人側は正式な処罰を求め、騎士団は治安維持のための厳罰を支持する声が強い。
城下では、すでに噂が二分していた。
「若気の至りだ」
「いや、契約破壊の重罪だ」
アリアは執務室で一人、帳簿と契約書、そして王国法典を並べていた。
理屈なら重罪。
情で見れば未遂。
だが政治は、そのどちらでも決まらない。
扉が叩かれる。
セルマだ。
「商人代表が面会を求めている」
「通して」
管理責任者は険しい表情で入室する。
「今回の件は重大な契約侵害です」
「承知しています」
「厳罰を求めます」
「具体的には」
「王都への身柄引き渡し」
空気が凍る。
王都裁判にかければ、若者は見せしめになる。
領地の主導権も揺らぐ。
「過剰です」
アリアは即答する。
「二度と起きぬ保証は?」
「私が出します」
静かな声。
「保証とは?」
「森の治安維持を、騎士団と村代表の共同管理に改める」
管理責任者が眉をひそめる。
「商人の権限が削られる」
「削るのではなく、共有する」
言葉を選ぶ。
「疑念を断つためです」
沈黙。
管理責任者は低く言う。
「若者の処罰は」
「領地内で行います」
「軽い処分では納得できない」
「軽くはしません」
アリアは視線を外さない。
「だが、未来を奪う罰は出さない」
しばしの沈黙の後、管理責任者は言う。
「三日以内に具体案を」
去っていく背中。
重い。
翌朝、エドガーが呼び出される。
目は赤い。
「……止められなかった」
「知っている」
アリアは言う。
「責任をどう取る」
沈黙。
「俺も処罰を受けます」
「襲撃はしていない」
「思想を広げた」
その言葉に、アリアは微かに息を吐く。
「思想は罪ではない」
「ですが」
「だが、行動を止められなかった責任はある」
エドガーは頷く。
若さの熱は、今は痛みに変わっている。
午後、城下広場で公開裁定が行われた。
商人、騎士、村人、若者たち。
全員の前で。
アリアは壇上に立つ。
「森の襲撃は重罪です」
静まり返る。
「契約を壊しかけた」
若者三人が前に出される。
「法に従えば、王都送りも可能」
ざわめき。
「だが」
声を強める。
「彼らは森を守ると信じていた」
商人側がざわつく。
「だから許すのか?」
声が飛ぶ。
「許さない」
はっきり言う。
「一年間の労役。森の復旧と共同管理に従事」
沈黙。
「給与は支払う。ただし罰金を差し引く」
騎士団がざわめく。
「さらに」
アリアは続ける。
「共同管理制度を導入する」
商人と村代表、騎士団が参加する評議会を設置。
「森は、誰か一人のものではない」
静かな声。
「守る責任も、共有する」
管理責任者が険しい顔で見つめる。
だが拒絶はしない。
若者たちは頭を下げる。
「処罰を受けます」
エドガーが前に出る。
「俺も評議会に参加させてください」
ざわめき。
「監視役として」
アリアは彼を見る。
理想は削られた。
だが折れてはいない。
「参加しなさい」
静かな決断。
群衆の空気がゆっくり変わる。
怒りは完全には消えない。
だが爆発もしない。
均衡は、形を変えて再構築された。
夜、執務室。
「甘いと批判されます」
ミレイユが言う。
「厳しいと離れる者もいる」
セルマが腕を組む。
「だが血は流れなかった」
アリアは静かに頷く。
「理想を一つ削った」
王都送りにすれば、秩序は強まった。
だが領地は割れた。
合意を選んだ。
重い選択。
窓の外、森は静かだ。
火の跡はまだ残る。
だが新しい芽も出始めている。
「王都へ行く」
アリアは小さく言う。
「この形を持って」
急がず。
だが止まらず。
第2章は、痛みと共に幕を閉じる。
合意は守られた。
だが理想は、少しだけ削られた。
それでも彼女は進む。
国家を作るという、終わりなき均衡の道を。
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