表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王冠を拒んだ改革者 〜婚約破棄された私ですが、領地経営から始めて王都の政治をひっくり返します〜  作者: 神代ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/30

第21話「森の火」

 火は、夜に起きた。


 南東部の森。


 商人連合が管理する木材集積所から、赤い炎が上がった。


 最初の報せは、深夜に城へ駆け込んできた伝令によるものだった。


「集積所が炎上! 延焼の恐れあり!」


 アリアは寝台から跳ね起きる。


「被害は」


「現在、騎士団が消火に向かっています!」


 セルマはすでに武装を整えていた。


「令嬢は城で待機を」


「現場へ行く」


 即答。


「危険です」


「象徴だからこそ行く」


 森は契約の象徴。


 管理権を貸した森。


 その火は、単なる事故ではない。


 馬を飛ばす。


 夜の森は赤く染まっていた。


 炎は集積所の一角を焼いているが、森本体への延焼はまだ防げる。


 騎士団が必死に水を運ぶ。


 商人側の管理責任者も蒼白な顔で立っている。


「放火の可能性が高い」


 セルマが低く告げる。


「油が撒かれていた」


 アリアの胸が冷える。


 事故ではない。


 意図だ。


 火はやがて鎮火した。


 被害は限定的。


 だが象徴は焼けた。


 夜明け前、現場に集まった村人たちがざわめく。


「商人が自作自演では」


「契約を破棄する口実だ」


「いや、反商人派の仕業だ」


 疑念が広がる。


 それは炎よりも速い。


 アリアは焦げた木材に触れる。


 黒く炭化した表面。


 均衡が焼かれたように見える。


「犯人は」


「まだ不明」


 セルマの声は硬い。


「足跡は複数」


 複数。


 計画的。


 城へ戻ると、すでに噂が広がっていた。


 城下町では商人への非難。


 森の村では「公爵家の失策」との声。


 鉱山町では「独立すべきだ」という囁き。


 エドガーの言葉が思い出される。


 力を均せ。


 商人を不要に。


 それが過激な形で現れたのか。


 執務室で緊急会議。


「商人側は契約違反を疑っています」


 ミレイユが報告する。


「安全管理義務の不履行だと」


「責任転嫁か」


 セルマが吐き捨てる。


「あるいは牽制」


 アリアは静かに言う。


「契約破棄の口実にする可能性も」


 沈黙。


 もし契約が破棄されれば。


 鉱山町との価格保証も揺らぐ。


 財政は再び崩れる。


「犯人の特定を急ぐ」


 セルマが言う。


「内部か、外部か」


「内部なら厄介」


 ミレイユが付け加える。


 教育で芽吹いた思想。


 若い理想。


 それが暴走した可能性。


「エドガーは」


「今のところ姿は見える」


 だがそれが安心材料になるとは限らない。


 夜、アリアは一人で焦げ跡を思い出す。


 火は象徴だ。


 合意は紙。


 だが炎は紙を焼く。


「急いでいない」


 自分に言い聞かせる。


「止まってもいない」


 だが均衡は揺れている。


 翌朝、商人側から正式な抗議文が届く。


『安全管理の責任を明確にせよ。再発防止策が示されぬ限り、契約の一部履行を停止する』


 予想通りだ。


 圧力。


 セルマが拳を握る。


「これは挑発だ」


「ええ」


 アリアは静かに答える。


「だが感情で返せば、相手の思う壺」


 火は消えた。


 だが疑念の火は燃えている。


 森の焼け跡は黒い。


 均衡は、目に見えぬひびを抱えた。


 アリアは深く息を吸う。


「調査を公開で行う」


「公開?」


「隠せば疑われる」


 再び、透明性という刃を握る。


 だが今回は、相手も刃を持っている。


 森の火は、小さな炎だった。


 だがその影は、領地全体に伸び始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ