第20話「騎士の誓約」
王都への返書を送った翌日、騎士団の全体招集が行われた。
訓練場に整列する鎧姿の騎士たち。
空気は張り詰めている。
王都出仕の噂は、すでに広がっていた。
アリアは壇上に立つ。
「王都より、制度導入の提案が来ました」
ざわめき。
「私は受けます」
静まり返る。
「ですが、長期滞在はしません」
視線を一人一人に向ける。
「この領地が私の基盤です」
その言葉に、空気がわずかに緩む。
「王都に出ることで、ここが揺らぐなら意味がない」
セルマが前に出る。
「令嬢は、逃げるために王都へ行くのではない」
低い声が響く。
「守るためだ」
騎士たちの視線が揃う。
アリアは続ける。
「王都で制度が歪められれば、領地にも影響が出る」
「中央の意向が強まる可能性もある」
誰かが言う。
「その通り」
アリアは認める。
「だからこそ、監視する」
沈黙。
「あなた方に問います」
声を強める。
「この領地を、誰が守るのですか」
間を置く。
「私だけではありません」
セルマが一歩前に出る。
「騎士団は、フェルンベルクを守る」
剣を抜き、地面に突き立てる。
金属音が響く。
それは誓約の合図。
数瞬の沈黙の後、別の騎士が同じ動作をする。
次々と剣が地に立つ。
重い音が重なる。
「王都に行かれようと」
「我らはここにいる」
アリアの胸が熱くなる。
王都で得られなかった、揺るがぬ支持。
「私は、あなた方を削らない」
静かに言う。
「守る」
セルマが目を細める。
「守るだけでは足りぬ」
「ええ」
アリアは頷く。
「共に進む」
誓約は、強制ではない。
自発的な合意。
それが力になる。
夜、執務室。
「安定は増しました」
ミレイユが報告する。
「騎士団の内部支持率は過去最高です」
「数字にするのね」
「感情は測れませんが、動きは測れます」
セルマが窓辺に立つ。
「だが熱も増している」
「エドガーたちか」
「王都出仕を好機と見ている」
若い理想は中央を目指す。
「暴走は」
「まだない」
だが時間の問題かもしれない。
「王都へはいつ出立を」
「十日後」
アリアは言う。
「その間に教育講義を増やす」
「中央への期待が過剰にならぬよう」
「ええ」
窓の外、夜風が強まる。
森の方角が揺れる。
均衡は保たれている。
だが王都へ踏み出すことで、新たな均衡が求められる。
セルマが静かに言う。
「令嬢」
「ええ」
「あなたは王都で孤立するかもしれぬ」
「覚悟はしている」
「孤立すれば、領地も揺らぐ」
その言葉は重い。
アリアは微笑する。
「孤立しないわ」
「根拠は」
「あなた方がいる」
短い沈黙の後、セルマは小さく笑った。
「重い信頼だ」
「だからこそ裏切れない」
騎士の誓約は、力だ。
だが力は責任を伴う。
王都へ向かう準備が進む。
均衡は一時的に安定した。
だがその安定が、次の波を呼び寄せることを、まだ誰も知らない。
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