その2 喪服の英雄
★宇宙防衛隊コズブレジェンダーズ!
第二話『ブルームアップ・ブレイブアップ!』
その2 喪服の英雄
teller:狼月=ブラッドレイ
◆
着慣れちまった、漆黒の作業着を纏ったまま。
――来慣れちまった、倉庫の扉に寄りかかる。
格納庫ではない。
戦艦ファンタジア内で、俺だけが、狼月=ブラッドレイだけが鍵を持つ小さな倉庫。
厳重に封鎖された扉に寄りかかり、少しタバコをふかしてから――俺は、扉の向こうに語りかける。
「……なぁ。少し聞いてくれや、『相棒』」
返事は無い。
そんなの知ってた。
ずっと昔から、テメェはそうだ。
俺が何度語りかけても、テメェは俺と同じ言葉を、声を一度だって返しちゃくれなかった。
だけど、俺たちは分かり合いながら長いこと共に戦ってきた。
ずっと繋がり合ってた。
そして今も、俺らの間の繋がりは切れてない。
俺はそう信じてるんだぜ、相棒。
どの口が言うんだって、テメェはぶち切れてるかもしれねえけどさ。
「……お犬のやつがさ、ちょっと危ねえ感じなんだわ。変なトコまで昔の俺に似ちまいやがった」
お犬。
犬丸=スプリングフィールド。
俺にとって、色んな意味でほっとけねえ弟分。
そして、お犬が戦艦ファンタジアの隠し部屋で見つけたとかいう謎の嬢ちゃん・穂祈=トロイメライ。
あの嬢ちゃんの正体とやらは、鬼艦長……千永=バイアットが心当たりあるんだろうけど、今はそれよりも。
お犬は穂祈嬢ちゃんに惚れちまったようで、二人はいきなり相思相愛で、考えなしに結婚するとか言い出しやがった。
恋を知らなかったモン同士が、初めての恋っていう劇薬にやられてる。
運命っていう熱に浮かされ侵されている。
「……身体弱い女に惚れて、惚れた女のことになると前見えなくなっちまうなんて。ほんと、変なトコばっか似ちまいやがって」
タバコの煙と一緒に吐き出した笑いは、俺にしては弱々しいもんで、きっと自嘲が混じってて。
くそったれなセンチメンタルを、無性に蹴り飛ばしたくなる。
こんなにタバコの匂いに塗れといて、俺がいつも思い出すのは、つまんねえ薬品の匂い。
あいつの、木乃香=レインズフォードの匂い。
俺の恋人。幼馴染。初恋。
今は、コズブレの栄養士。
そして、治んねえ病に蝕まれて、あの白い、白い、温室じみた病室にギリギリ命を繋ぎ止められている女。
木乃香は昔から身体が弱かった。
俺は最初から、ずっとずっと木乃香を愛してるくせに、色々間違えて、あいつに迷惑ばかりかけて、あいつを最悪の形で追い詰めて――今に、至る。
今も俺は、きっと木乃香を追い詰めている。
だけど狂おしいまでに木乃香だけを愛してる俺は、絶対に木乃香を手放してやれない。
手放せない。何があっても。
いつか俺たち双方の命が尽きても、ずっとだ。
初めての恋っていう劇薬にやられた末路が、今の俺だ。
「……お犬には……俺みたいになってほしくねえんだ。釘、刺してやんねえとな。俺はもう、とっくに大人なんだもんな」
俺は昔、自分を叱ってくれる奴らの言うことなんざ聞かなかった。
耳を傾けなかった。
だから、間違えた。
お犬には、俺みたいに落ちぶれてほしくない。
あんなにまっすぐに夢を語ってたあいつには、何の曇りもなく夢を掴んでほしい。
惚れた女と、何の悔恨もなく真っ当に幸せになってほしい。
俺はあいつが夢に辿り着くその日まで、なるべく傍で見守ってやりたい。
だって。
「……あいつに夢を見せたのは、英雄デイブレイカーだ。……夢を見せちまった側の責任ってやつは、やっぱさ、あると思うんだよな」
コズブレジェンダーズ歴代最強のパイロットにして、宇宙最強のヒーロー・【デイブレイカー】。
サングラスがトレードマークの、大胆不敵傲岸不遜の、ヒーローと呼ばれるにゃガラの悪かった男。
英雄デイブレイカーの搭乗アプローズの名は、【スターゲイザー】。
デイブレイカーのコズブレ入隊から引退まで、ずっと変わることのなかった――たった一体の愛機で、無二の相棒。
――タバコを吸い終わり、俺は倉庫の扉から背を離した。
お犬に、俺の言いたいことを伝える為に。
ふと、お犬が隠し部屋で穂祈の嬢ちゃんともども見つけたらしいアプローズを思い出す。
名前は確か【ヴァンガード】。
人語を喋るアプローズ。
同じ言葉で、声で、搭乗者とコミュニケーションを取れる存在。
現状で一番お犬の傍にいて、現状で一番お犬を叱ってくれそうなやつ。
なんだかまた笑えてきて、俺は最後に後ろ手で、倉庫の扉にそっと触れた。
「……テメェとは大違いだな。――【スターゲイザー】」
名残惜しく、その名を呼んで。
俺は今度こそ、歩き出した。
戦艦ファンタジアの、小さな倉庫。
この俺だけが鍵を持つ、その狭っ苦しい空間に。
――俺の人生で、ただ一体の相棒が、ずっとずっと眠ってる。
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