その1 ずっといっしょ。なんて夢物語。
★宇宙防衛隊コズブレジェンダーズ!
第二話『ブルームアップ・ブレイブアップ!』
その1 ずっといっしょ。なんて夢物語。
teller:犬丸=スプリングフィールド
◆
「……お犬よぉ、おまえ、クビ言い渡された身だって忘れてたろ……」
「う……狼兄ちゃん……めんぼくない……」
宇宙災害指定クリーチャー【ヴァーミリア】による戦艦ファンタジア襲撃……が、一応は収束して。
現在おれ、犬丸=スプリングフィールドは、戦艦内の尋問室で待機中。
営倉行きじゃないだけマシ……なんだろうけど、そう、そうだった。
穂祈ちゃんと、ヴァンガード……ヴァン。
二人との出会いが嬉しすぎて忘れてたけど、おれ、コズブレをクビになって……戦艦ファンタジアを追い出される予定なんだった。
尋問、というか、おれが戦艦の隠し部屋で何を見たのか、【ヴァーミリア】との戦闘で何が起きたのか。
艦長の千永ちゃん筆頭の、コズブレの偉い人たちから聞かれた質問には一応、全部答えたつもり。
……おれにわかる範囲で、だけど。
だから今は、狼兄ちゃん……優しい兄貴分の、狼月=ブラッドレイさんが、おれのそばについてくれてる。
清掃のお仕事が終わってヒマだから、って狼兄ちゃんは言ってたけど……狼兄ちゃんが、おれのことをとても良く気にかけてくれていること、おれは知ってるつもりなんだ。
「……謝んなら、おまえの……嫁さん、に言ってやんな」
狼兄ちゃんが溜息混じりに吐いた言葉に、おれはぎくりとする。
おれの事情聴取は終わった、けど。
穂祈ちゃんは、まだ聴取が長引いているらしい。
もう半日も、おれはこの尋問室の住人だ。
穂祈ちゃんとは会えてないし、ヴァンがどうなってるのかもわからない。
……穂祈ちゃん、ヴァン。
大丈夫、かな。
穂祈ちゃんのこと、おれまだ何も知らない。
だから知りたいって思うし、何より一緒に居たいんだ。
……大好き、なんだ。
「……おれがきみをいつだって守るって……宇宙一幸せにするって……おれ、穂祈ちゃんに言った、のに……」
「……お犬?」
俯いてぶつぶつ呟き始めるおれの顔を、狼兄ちゃんが心配そうに覗き込もうとして――。
おれはおれで、ばっと、物凄い勢いで尋問室のパイプ椅子から立ち上がった。
「うおっ!? あっぶねーな!? 頭突き喰らうとこだったろうが!!」
「ろ、ろろろ、狼兄ちゃん!!」
「な、なんだよ……落ち着けよ……」
「ち、近くの星に! おれでも働けそうな仕事場あるかなあ!?」
「は、はあ?」
「は、働かなきゃ……! ま、まずお金! 穂祈ちゃんを守らなきゃ、養わなきゃ! あああっ、でもおれこんなだしドジだし仕事すら……うああああ~~! どうしよ、このままじゃ生活すらまともにできない! 穂祈ちゃんを不幸にしちゃうよ~~!」
「だああ! 落ち着けって! お犬は【ヴァーミリア】を撃退してっから、今はそこまでクビの心配はしなくても――っつーかなあ、ツッコみたかったけど、おまえ結婚って……!」
「――何を騒いでいるのですか、犬丸隊員、狼月」
静かな声が、尋問室に響いた。
狼兄ちゃんとわちゃわちゃもみくちゃ大騒ぎ状態になってたから気付かなかったけど、尋問室の扉は開いていて。
入り口のところに、艦長の千永=バイアットちゃんが、立っていて――。
――車椅子に座った穂祈ちゃんも、そこに居た。
「穂祈ちゃんっ!!」
たまらず、おれは駆け出して。
穂祈ちゃんに、抱きついていた。
おれよりも小さな身体を、存在を確かめるようにぎゅーっと抱き締める。
「犬丸くん……よかった。また、会えたね」
穂祈ちゃんも、可愛くはにかんでから――そっと、おれを抱き締め返してくれる。
許してもらえたような、この感覚。
これはおれにとって、あまりにも心地良すぎて。
穂祈ちゃんのことを、また好きになる。
「……ぁ……だ、だだ、大丈夫だった!? 聴取長かったけど、具合悪くなんなかった!?」
「うん、私は大丈夫だよ。……私、記憶ないから、あまりうまく質問に答えられなくて。それで、時間とらせちゃったけど……ごめんなさい」
穂祈ちゃんが、千永ちゃんに頭を下げて。
千永ちゃんは、気にするなとばかりに小さく首を横に振って。
――そしておれは、フリーズしていた。
「……犬丸くん? どうしたの……? 大丈夫……?」
「…………穂祈ちゃん、記憶、ないんだっけ?」
「う、うん……自分の名前と、あと、不思議な歌……くらいしか……思い出せなくて……ご、ごめんね、ちゃんと言ってなかったっけ……?」
……言われてたっけ? どうだっけ?
ど、どうしよう。
出会った瞬間のどきどきとか、穂祈ちゃんへの『好き』が大きすぎて、おれの記憶まで細かいところトんでる。なんてこった。
でも。
おれは穂祈ちゃんを抱き締めていた手を解いて、今度は穂祈ちゃんのちんまりとした両手を、きゅっと優しく握る。
「……ごめんね。おれ、これからは穂祈ちゃんの話ちゃんと聞くし、穂祈ちゃんのことちゃんと全部おぼえるから。いっぱい知りたいし、いっぱいわかりたいから、これからいっぱい話そうね!」
「犬丸くん……ありがとう……私も、犬丸くんともっとお喋りしたいな……」
「――お二方。この部屋には私と狼月も居ます。お忘れなきよう」
「あだっ! ご、ごめんなさい、千永ちゃん……」
「『艦長』と呼べと、以前から言っているはずですが」
「す、すみません……かんちょー……」
……千永ちゃんに叱られた。
頭、はたかれた……。
そ、そうだ、反省……。
クビのこととか、聞かなきゃいけないんだった……。
はあ、と大きな溜息を吐いた千永ちゃんが、おれの右腕を強く掴む。
急に穂祈ちゃんと引き離されて少しわたわたしていると、千永ちゃんは無表情のまま淡々とおれの手首に何かを装着していく。
……取り付けられたのは、青いような、緑色のような優しい色のブレスレット。
なんだろ、これ。
ヴァンの機体の色に似てるなあ、と思った丁度その時。
『――少年。穂祈=トロイメライかラ、速ヤカニ距離ヲ取レ。今後はワタシがこノ形態デ、あなたヲ監視さセテもらウ』
――装着されたブレスレットから、ヴァンの声がした。
「えっ、えっ……!? ヴァン!? なんでブレスレットから声……え、ブレスレットの中……に、いるの?」
『本体ハ格納庫ダ。今のワタシは、コズブレジェンダーズの技術班ニ、意識データをブレスレット型の端末ヘト転送さレた状態だ。少年、コレであなたはワタシの監視下ニ――』
「え、すっげー! じゃあ、これでずっと一緒だね! ヴァン!! えへへ、嬉しい!」
『ナ……ナゼ喜ブ……? 監視ダト、既に二回モ告ゲタ筈ダガ……? あ、あなたハ本当ニ、対話トイウ文化ヲ知ラナイのカ……?』
ヴァンの意識が入ったブレスレット型端末がとてもかっこよく思えて、おれは嬉しくって右腕をぱたぱた動かす。
あ、でもヴァンがそもそもすっごくカッコいいもんね。そりゃそっか。
「――犬丸=スプリングフィールド隊員」
「うえっ、はっ、はいっ! かんちょー! ……あ、あれ? おれ……まだ、隊員でいて、いいんですか……?」
千永ちゃんに厳しめ低めのトーンで名前を呼ばれ、おれは咄嗟に姿勢を正す。
……もしかして、今からおれの処遇が発表されちゃうんだろうか。
緊張しながら千永ちゃんの言葉を待っていると、千永ちゃんは一度穂祈ちゃんに視線をやり、それからブレスレットモードのヴァンを見つめ、最後におれをじろりと睨み――。
「……営倉を勝手に抜け出したペナルティは後々付けさせてもらいますが……クビ、は一時撤回です。犬丸隊員が、その少女――穂祈=トロイメライさんと共にアプローズ『ヴァンガード』に乗り込んで【ヴァーミリア】を撃退させたことは事実」
「え」
「……それに少し、穂祈さんとヴァンガード殿の事情にはコズブレジェンダーズとしても思うところがあります。犬丸隊員、貴方の処遇ですが」
「は、はい!」
「……貴方は今日から、穂祈=トロイメライさんと二人一組の特殊戦闘員です。二人の搭乗アプローズはそのまま、ヴァンガード殿のお役目としてお願いします。配属先の小隊については後ほど連絡します。今後はより一層、気を引き締めなさい。……では穂祈さんは医務室へ。貴方の身体や脚は、リハビリが必要ですから」
…………クビ、撤回。
穂祈ちゃんとヴァンと一緒に、がんばれる。
憧れの、コズブレの隊員として――。
「…………っっ、穂祈ちゃーーん!! おれ、がんばる!! きみのこと、全力で守るよ!! ずっとずっと一緒だからね!」
「犬丸くん……! うん、嬉しい……一緒にがんばろ?」
『少年!! 穂祈=トロイメライかラ離レロ!! 艦長ノ話ヲ聞イテいナカッタのカ!? 穂祈=トロイメライの身体ハ弱ッテいル、無闇ニ抱きツクナ! 今は医務室ニ――』
嬉しいことがいっぱいで。
良い意味のどきどきが頭を占めすぎて、ひたすら笑ってはしゃいで、そればかりになっていた、ばかなおれには、この時。
「…………記憶喪失で、脚不自由で身体弱くて……そういう女を、守って幸せにするって……簡単なことじゃ、ねえだろ……」
そんな、狼兄ちゃんの――これ以上ないほどに深刻そうな声で呟かれた言葉は、耳に入らなかったんだ。
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