38話 敵意を見せるもの
世間は動く死骸の事で持ち切りだ
その噂もまっとうなものから、尾ひれ背びれのついた話までもう収拾がつかない
その話を聞き流しながら、ティタンのテーブルにはいつもの三人の姿があった
何食わぬ顔でシャウンを頬張るロタ
恥ずかしそうにドライフルーツを頬張るカレン
ドライフルーツにすら手を付けず突っ伏して爆睡するシルフィーネ
三人三様の姿で他の客の目を引いていた
暫くして・・・・
ガコン!!!
左側頭部への強い衝撃がシルフィーネを襲う
”ロタ・・・・利き・・手で・・・投げた・・・わ・・・ね・・・”
カレンの慌てた表情を見ながらシルフィーネはスローモーションのように地面に落ちる自分を感じる。
派手な追いかけっこを見て賑やかだった雰囲気が一気に凍り付いたかのような静けさとなった。
「ごめんなさい!!」
ロタの声が水辺に響いた。
シルフィーネはロタの方を向き慎重に水に入る。
「いい!そこ動いちゃだめよ!!」
なにが怖いって、ロタの仕草を確認していないと・・・
そのまましゃがみ込み頭を水で冷やす。
痛みの残る頭にひんやりとした気持ちの良い感覚があった。
サバッ!!
その時、強い水音がした。
「!!」
シルフィーネは驚いて目を見開く、鋭い目つきをしたロタがこちらへ向かって飛びかかってくるのだ
「な、何よ!!」
言う間もなく、その場から引き抜かれるように抱きかかえられると、ロタはそのまま強引に横に跳躍した
「ちょ・・ちょっと!!なに・・」
バシャーン!!
言葉を発し切る前に、勢いの良い水音が強い水飛沫と共に響く
「・・・よ・・・」
思わず言葉をなくしたシルフィーネ達の前に現れたのは、中型の猪だった
明らかに敵意を丸出しにしたその相手を見て、丸腰のシルフィーネの脳裏に「やばい」と言う警報のような言葉が空回りする
シルフィーネを背後に置き、ロタが睨みを効かせ相手を怯ませると
「カレン!!剣を!!」
カレンに向け声を出す
「・・あ・・はいっ!!」
地面に置いてあったロタのロングソードを小柄なカレンが精一杯の力を込めロタに向け放った
その剣より速く猪はロタに突進をしてきた。
剣は寸差で間に合いそうにない、
「ぐっ!」
ロタが右掌をやや引き気味に正面に向け、腰のあたりで左手を強く握り構える
猪は一直線にロタに向かってくる
「はぁっ!」
ロタが気合を込める声を上げ、左拳をアッパー気味に振り上げる
ガゴッ!!
大きな音が鳴る、ロタの拳は猪の右顎を捉えた
「グオオオオン!!」
叫び声のような鳴き声が聞こえた
ロタのアッパーで突進は弱まったがまだ勢いは止まらない、
ロタは拳が猪の突進に押し返される力を利用して体を横に回転させ右掌を張り手をするように前に出す
ガゴッ!という硬いものの感触が間に入る
カレンの投げた剣がロタの張り手と猪の顎の間に割入ってきたのだ。
ロタはそのまま剣を押し付けながら柄が内側になるように姿勢を変え、左手で柄を握った
「こんちくしょう!」
強く叫びながら右手は剣と一緒に猪を強くはじき返すように、左手は剣を鞘から抜くように動かし、流れるような動作で左手のみだった剣の柄に右手を合わせ両手持ちとする
仰け反った猪の首がロタの真正面に見え、
「はああぁぁぁ!」
と気合のこもった声と同時に猪の首を落とした。
「ふうっ」
動かない猪を見てロタは息を吐いた。
「あんた、よくあんな突進止めたわねぇ・・・」
呆れた顔でカレンが感心する
「ん?」
しかし、まだ緊張の解けていないシルフィーネの顔に気付き
「どうしたの〜フィーネ!もしかして怖かったの?」
茶化すようにシルフィーネに言うと、
「・・・血が・・・」
「ん?」
「・・血が少ない・・・」
そういえば・・・
カレンも猪からの血が少ないことに気付いた
首を落としたのだ、この大きさの獲物なら辺り一帯血まみれになって不思議ではない
「これが・・・動く死体ってことかしら・・・」
シルフィーネは緊張のある呟きをした。




