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第一章 八節 報酬と休日

 夕暮れの町。

 電車の踏切の音。

 商店街の中を走る子供たち。

 小さいコンクリートのビル。

 知っている風景だ。

 そう、いつものあの場所。

 少し安心する。

 ……そこで、ハッと目が覚めた。

 そうだ、寝袋で寝ていたんだ。

 そして、ここはヨドの家。

 こっちに来てから目まぐるしく変わった生活のせいで頭の片隅に追いやられていた現実世界の事。

 そういえば、みんなあの後どうなったんだろう。 

 ……イタタタ

 寝袋とはいえ、床で寝ていたので少し身体が痛い。

 痛む体を起こす。

 足もまだ少し痛い。

 何かパチパチという音が聞こえる。

 ラフな格好をしたヨドがキッチンに立って何かを作っているようだ。

「あ、ヨド、おはよう。」

「お、起きたか。コユキ、おはよう。」

 ヨドは一瞬だけ私の方を向き、また視線をコンロに戻す。

 私はそんなヨドについ見とれてしまった。

 鎧を着てても分かっていたけど、ラフな恰好をしているヨドの身体の線が引き立っていた。

「コユキ、悪いが寝袋を片づけて、立ててあるテーブルと椅子を準備してもらえるか?」

「あ、うん、わかった。」

 寝袋をくるくる巻いて、壁に寄せておく。

 立ててあるテーブルを「よっ!」と言いながら使える状態にする。

 椅子も二つテーブルの横に付ける。

「出来たぞ。」

 そう言ってヨドが皿二つをテーブルに持ってくる。

 ……ん……?

「ヨド、これって……」

「焼いたパンと干し肉だ。」

 思わずガクッとうなだれる。

「また干し肉ぅ?」

「そうだが、何か問題あるか?水もちゃんとあるぞ?」

「えーっと……作ってもらってる身分で申し訳ないんだけど、せめて卵か果物ないの?」

「買い出しに行ってないから保存出来るものしかないぞ。」

 ……こりゃ、ダメだ……

 これ以上文句言っても仕方ないので食べ始める。

 モソモソとモソモソ。

 たまに水で口を潤す。

 ……

 ……無理。ヨドのこの感覚は無理……

 もう口の中の水分が全部持っていかれる。

「あ、コユキ。食べ終わったら街道組合に行くぞ。」

 ……え?この食事だけ終わったらまた仕事!?

 ……無理。精神的に無理……

 鉛でも食べてるかのような感覚に襲われながら、なんとか食べ終わる。

 皿を片付けようとするヨド。

 私はそれを止めた。

「せめて、私が片づけるよ。」

 ウプッと来る感覚を抑えて言う。

「どうするか分かるのか?」

 いや、分からない。

「じゃぁ、教えて。」

 ヨドが私をキッチンに促す。

「ここが排水溝だ。瓶の水とそこの粉を使って皿を洗うんだ。その後棚に置いておけば良い。」

「わかった。やるよ。」

 ヨドに教えて貰った通りにやる。

 瓶は重かったが、皿は二つだけなので楽なものだ。

「終わったか。ありがとう。では支度して街道組合に行くぞ。」

 少し憂鬱な気分で行く準備を始める。

 昨日貰った短剣とホルダー付きベルトも忘れずに。

「今日は報酬が貰える日だ。私もこの日が来ると安心する。」

 ヨドは少し嬉しそうだ。

 ……お給料日だ!

 ……あ……あたしまだほぼなんもやってない……

 二人でテクテク歩いて街道組合に着いた。

「おー、おはようさん。お二人さん。」

 マヤトは相変わらずごつい顔と声で歓迎してくれる。

「おはようございます。マヤトさん。」

 少し元気のない声で言った。

「マヤト、早速だが頼む。この一枚だけコユキの分として頼む。」

 ヨドが鞄から何枚かの紙を出し、マヤトに渡す。

「おう、もうそんな日か。少し待ってくれよ。」

 マヤトが奥に居る眼鏡をかけたニャルメルの女性にその紙を渡す。

 しばらく待つと、女性から二つの袋をマヤトが受け取って持ってきた。

「小さい方がコユキの分だ。」

「助かる。」

 短くヨドがそう言って、小さい袋を私に手渡した。

 中身を見ると少ないがチャリチャリと硬貨が入ってる。

「え?ヨド、私何にも出来てないから悪いよ。」

「お前は報酬も無く労働をするつもりか?取っておけ。お前の分だ。」

 その小さい袋を胸にギュッと抱きしめる。

「ヨド、ありがとう……」

 ……お金だ。使えるお金が手に入った!

 正直ものすごく嬉しい。

 ヨドは私を見て少し微笑んでいる。

 そしてヨドは再びマヤトへ向き直る。

「さて、今日の依頼はなんだ?」

「おお、実はそれなんだが、本当は届くはずの物がまだ出来てないらしく、今日中には無理だそうだ。すまんが、今日の所は依頼がない。」

「そうか。わかった。」

 ヨドはしばし下を向いた後、私を見る。

「だそうだ。今日は仕事がない。自由にしていいぞ。」

「え?お休み!?ラッキーー!!」

「そんな悠長な事言って良いのか?仕事が無いって事はその分報酬が減るって事だぞ?」

 ヨドは至極まっとうな事を真顔で言う。

「ちょっとくらい息抜きしないと疲れるよー。」

「まあ分からんでもないけどな。」

 ヨドが腕を組んで顎を支えて、すこし考えている。

「そうだ、少し稽古をつけてやろうか?」

 ……ギクッ!

「い……いやー……。ちょっと今日は良いかなぁ……。ちょっと休憩したーい!」

 ヨドの眼が私を少し鋭く見つめる。

 そして少しため息をついた。

「わかった。先に自由にしていいと言ったのは私だ。ゆっくりするが良い。」

「ヨド、ありがとーーー!」

 ヨドは少し微笑んでいる。

 ……そうだ!お金入ったことだし!

「ヨド、ちょっと買い物に行きたい。案内してよ。」

「良いが、何を買うんだ?」

「ちょっと、日用品とか食べ物を見たい。」

「わかった。ではマヤトまたな。」

 私たちは踵を返す。

 マヤトはニッカリ顔で手を振っている。

 私は袋を握りしめながら、ルンルン気分で街道組合を後にした。


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