第一章 七節 短剣とねぐら
ヨドと私はヨスミシの街道組合に戻ってきた。
「それは大変だったな。うーん、街道通るならやはりコユキも一応剣くらいは持たしておいた方が良いんじゃないか?」
マヤトが心配して言う。
「しかし、コユキの今の体力じゃ荷物と武器の両方を持つのは難しいと思っているんだが。」
ヨドが難しい顔をして言う。
私はむっとしながらその話を聞いていた。
「悪いことは言わん。剣じゃなくてもいい。最悪、自分の身を守れる物だけでも持っておけ」
マヤトが威圧感を感じさせる真剣な顔で言う。
しばし沈黙が流れる。
「私は……今の足手まとい状態じゃ嫌。ちゃんと……ヨドに迷惑かけないようにしたい。」
「だからといって、私はコユキに剣を持たせるのは反対だ。」
「お願い、武器を持たせて。」
思わず口から出た。
「ダメだ。今のコユキじゃ剣に振り回されるだけだ。」
ヨドの言うことは正論だ。
でも、気持はそれでは収まらない。
「だって私が戦えないとまたヨドに怪我させちゃう……。何も持たないまま逃げるだけなの、もう嫌……。軽い剣だけでも良いから持たせて……お願い。」
「なら短剣だな。腰に下げるだけなら邪魔にもならん。」
マヤトが頷く。
「わかった……。短剣くらいならいいだろう。」
ヨドが渋々承諾してくれた。
私は唾を飲み込み、涙を拭いながら深く頷く。
マヤトは一度奥に引っ込み、ゴソゴソと何かを探し始めた。
そして何かを持って戻ってきた。
「なら、これをやろう。」
マヤトがテーブルの上に置いたのは、短剣とホルダー付きベルトだった。
「え?」
「構わないさ。コユキに使って貰えるなら喜んで譲るぞ。」
「マヤト、それ、本当に良いのか?」
「あぁ、良いんだ。」
マヤトは何故か神妙な顔つきで頷いた。
「本当に良いんですか……?」
「もちろんだとも。」
持ちたいとは言ってしまったけど本当に良いのか迷ってしまった。
……いや、ここはマヤトさんの好意に甘えて今後しっかりしないと。
決心をした。
「ありがとう。マヤトさん。私……戦えるように頑張ります!」
マヤトは嬉しそうに何度も頷いていた。
「さっそく付けてみて良いですか?」
「おう、付けてみろ。」
私はさっそくそのベルトを腰に付けようと手にした。
腰に回す。
……カチャカチャ
あれ?はまらない?
「貸してみろ。」
ヨドが私のベルトを掴んで留め具を閉めてくれた。
「あ……ヨド、ありがとう。」
……あれ?軽いとは言われたけど軽すぎない?
……これ皮だよね?
「え?これ、軽すぎませんか?」
「そいつはトビヒッポの皮で出来てるんだ。軽くて当然だ。それに短剣の刃は軽銀で出来ている。軽いが切れ味は抜群だぞ。」
……トビヒッポ?なんだそれ?
……まぁ、いっか。
たどたどしい指で安全フックを外す。
ゆっくり短剣を抜いてみる。
白っぽい刃が光をキラリと反射する。
思っていたよりずっと鋭そうで、思わず息を吞む。
……間違えて指を切らないようにしないと。
再び鞘に短剣を戻し、安全フックを止める。
「……怪我だけはするなよ。」
「うん、気を付けるよ。」
私は真剣な顔でヨドを見つめ返した。
マヤトは肩の荷が下りたように小さく微笑んだ。
その横でヨドは、覚悟を決めたように静かに息を吐く。
「今日も色々あって疲れただろうし、身体を休めるか。」
ヨドが先ほどの緊張を解いて、私の顔を見る。
「うん、今日も疲れたよぉ。休もうー。」
ヨドが首をかしげて何か考え事をしている。
「ヨド、どうしたの?」
「いや、今日はねぐらに帰ろうと考えていたんだが……」
「え?ヨドのおうちあるの?ちょっと行きたいかも……」
ヨドの家がどんなのかに興味が沸いた。
「ベッドがひとつしか無いから、どうしたもんかと……」
言いづらそうにするヨドの言葉を遮るように、私は言った。
「え?床でも全然平気だよ?今日はもうクタクタだし。」
「は?コユキ、床で眠れるのか?」
「うん、私は布団をひいて寝てるし、下手したらゲームしながら床で寝落ちしてたりするから。」
私は思わず笑ってしまう。
「そういう事ならこいつを持っていきな。」
マヤトが後ろの棚からゴソゴソと寝袋を出した。
「ちゃんと虫干ししてるし、綺麗だから安心しな。」
「寝袋!?私寝袋使うの初めてなんだよ。ちょっと楽しみ!」
「今夜は私のねぐらで決定だな。」
ヨドは少し嬉しそうにため息をついた。
「じゃぁ、行くか。マヤト、世話になったな。また何か依頼があれば頼む。」
マヤトがごつい笑顔で私たちを見送った。
私は寝袋を抱えながら、ヨドと一緒にねぐらへ向かった。
私はどんなねぐらなのかとウキウキしていた。
着いたそこは岩を器用にくり抜いて作られた住居だった。
扉を開くとキィーという金属音が響いた。
少しひんやりとした空気が漂う。
ヨドが先に入り、私はその後ろに続いて入る。
「お邪魔しまーす。」
ヨドが壁に備え付けられた石の灯り入れに火を灯す。
続けて他の灯り入れにも火を移していく。
部屋の中が明るくなった。
部屋には装飾品などは無いにしても、シンプルで清潔な部屋で、そこにベッドが一つある。
小さいながらもキッチンもある。
小さい戸を開くと、そこはトイレになっていた。
「お風呂は無いの?」
「ないぞ。身体を綺麗にしたいのなら湯をわかすから待ってな。」
……お風呂無いんだ……仕方ないか。
ヨドはキッチンの横の床に並んでいる大きい鉄瓶をひとつ取り、中身を鍋に注ぐ。
鍋を石で出来た広い台の上に乗せる。
台の上には、赤い石が円を描くように並べられていた。
ヨドが台の手前にある〇印に指をかざすとフォーンっと音が鳴り始めた。
……これも魔法石なんだ。
……ていうか、これほぼIHじゃん。
「あれ?でも部屋の灯りは火だよね?灯りも魔法石使えばいいんじゃないの?」
「魔法石製は高いんだ。必要最小限しか買ってない。」
「まぁ便利なものは高いよね。どこも一緒だー。」
ヨドが沸いたお湯を鉄バケツに入れ、そこに残りの水をいれて熱さを調整する。
「そういや、このお水はどうしてるの?」
「ヨスミシの水汲み場に行けば売ってくれる。」
「ふーん、水も高いの?」
「さすがに水は一瓶1テルだから高くない。」
「テル?ディルじゃないの?」
「10テルが1ディルだ。」
……お金の単位が二つあるんだ。
「こんなもんだろ。先に拭け。」
そういってヨドがタオルを差し出してくれる。
……今日もお風呂無しかぁ。仕方ないな。
ヨドが自分の分のお湯を沸かしている間に、後ろで身体を拭いた。
私は新たな下着に着替えて、寝袋の準備を終え、中に潜り込む。
そうしてる間にヨドも身体を拭き終わった。
「ヨド、明日から頑張るね。おやすみなさい。」
「コユキ、おやすみ。」
ヨドは私を見て柔らかな表情で言った。
そして部屋の灯りを消した。




