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第一章 九節 買い物と料理

 ヨドに案内してもらって少し賑わいのある通りに来た。

 果物や野菜を置いている店。

 肉をぶら下げている店。

 鍋やヤカンを置いている店。

 様々な店が連なっている。

 私は八百屋らしき店の前で立ち止まった。

 緑色のトマトのようなもの、赤いバナナのようなもの、黄色い苺のようなもの。黒いキャベツのようなもの。

 ……何を選んだら正解なの!?

「ねえヨド、何買ったらいいの?」

「好きな物買えばいいだろ。」

 ヨドらしい答えだけが返ってきた。

 ……そうじゃない。

 よくわからない物に目移りしながら、何を買えば良いか困惑してしまう。

 とりあえず、緑色のトマトのようなものをじーっと見つめる。

「それが欲しいのかい?」

 おそらく店主であろうチマッコの女性が話しかけてきた。

「すみません。これってどんな味なんですか?」

「それは少し酸っぱくて爽やかな味がするよ。」

 説明を聞くが、結局どんな味かは食べてみないとわからない。

 意を決して、緑色のトマト、赤いバナナ、白い瓜、黒いキャベツを注文する。

「はいよ、全部で二十ディルね。」

 ……二十ディル

 袋の中を見て硬貨をジャラジャラ触る。

 ……どれで払えばいいんだろ?

 ……というかあたしいくら持ってるの?

 思わずヨドの顔を見て目をウルウルさせてしまう。

 ヨドは困ったような微笑みでため息をついた。

「この赤みのあるやつが十ディルで、この輝いてる白が百ディルだ。」

「ありがとう。」

 袋の中の硬貨を一つずつ確認しながら、持っている金額を計算する。

 ……四百八十ディル

 多いのか少ないのかわからない。

 とりあえず、赤みのある硬貨を二枚チマッコの女性に渡す。

「ありがとうよ。」

 そう言って、買った物を渡してくれた。

 両手にいっぱいの荷物になった。

 ……袋欲しい……

「ほら。」

 ヨドが腰の鞄から大き目の革袋を出した。

「ヨド、ありがとう。」

 少し涙目になりながらその袋に買った物を入れる。

 涙を拭く。

 気を取り直して、今度は肉屋さんへ行く。

「いらっしゃーい。」

 今度はゴレドンの店主が声をかけてくる。

 棚にずらーっと並んでいる色々な干し肉。

 ぶら下がっている丸鶏の肉。

 ふと視線を落としたカウンターの奥。そのすぐ横に、銀色の大きな縦長の箱がドーンと圧倒的な存在感で置かれているのが見つかった。

 ……ん?あれって……

「あれって何ですか?」

 思わずそれを指さして店主のゴレドンに尋ねる。

「ん?保冷器だが。どうかしたか?」

 ……冷蔵庫あるじゃん!

「ちょ……ちょっと……ヨド、あれ欲しいっ!」

 私は興奮気味にヨドに言った。

「バカ言うな。あれ買うには数十万ディルは要るぞ。」

 ヨドが少し怖い顔をして言った。

「ガッハッハ、お嬢ちゃん面白いこと言うな。こういう仕事していると必需品だが、持っていると色々と大変だぞ。浪費した冷却用魔法石の交換なんてかなりの額になるしな。ほんと勘弁して欲しいよ……」

 ゴレドンの店主は最初は豪快だったが、だんだん意気消沈していった。

「なんか、ごめんなさい。」

「あ、いや、こっちの話なのにすまんな。では気を取り直して。何がいるんだい?」

 改めてお店に置いてあるものを見直す。

 丸鶏は要らないけど、焼いたお肉が食べたい。

 更に横を見渡すと様々な大きさの卵が置いてある。

 ……よし、卵とこのロースっぽいお肉にしよう。

「この卵2つと、このお肉二百グラムください。」

「二百グラム?」

 店主のゴレドンは不思議な顔をしている。

「あっ、ごめんなさい。えーっとこれくらいください。」

 手のひらでだいたいの大きさを見せた。

「よっしゃ、わかった。今包んでやる。」

 ヨドはその様子を冷静に見ている。

「全部で四十六テルだ。」

 ……テル

 ……なんだっけ?

「五ディル渡せばいい。」

 横のヨドが言った。

 袋からお金を出そうとする。

「ヨドー、1ディルどれー?」

「くすんだ銀色のやつだ。」

 青っぽい銀色の硬貨を五枚取り出し、恐る恐る店主に渡す。

「まいどありがとうな。」

 店主から、肉と卵、それと鈍い黒い硬貨を四枚受け取る。

 肉と卵は大きい革袋に、受け取った硬貨は財布用の袋に入れる。

 ……卵大丈夫かな

 肉屋を離れて、ふと雑貨屋に目が止まる。

 タタタっとその雑貨屋に入り、調味料コーナーに立ち止まる。

「ヨド、おうちに調味料あるよね?」

「塩ならあるぞ。」

 ……塩だけかい!

 調味料コーナーの棚には何種類か何かが乗っている。

 けど、よくわからない。

 言葉は通じるのに文字が読めない!

 大きな口が開いている袋が二つあり、中はどちらも白い粒状の物だ。

 多分、どっちかが塩でどっちかが砂糖だ。

 そのまま二つの袋としばらく睨めっこを続ける。

「塩ならこっちだ。」

 ヨドが右の袋を指さす。

「じゃぁ、こっちが砂糖であってる?」

「ああ。」

 塩と砂糖の存在を確認した。

「すみませーん。砂糖ください。」

「はいよ、どれくらい要るんだい?」

 ヒュマの男性の店主が聞いてきた。

 ……えっと、グラムは通じないんだった

「これくらい」とまた手を広げて店主に見せる。

 店主は少し首を傾げたが、小さい麻のような袋を広げてそこに砂糖を入れていく。

 そして、袋に紐をくるくると巻いて締めていく。

「はいよ、二ディル貰うよ。」

 今度はスッと硬貨を出すことが出来た。

「また来ておくれよ。」

 その声を背後にお店を後にする。

 結構袋がパンパンになってきた。

 とりあえず、こんなものでいいか。

「ヨド、一旦帰ろう。」

「もう買い物は良いのか?」

「もう、持てないよー。」

「わかった。帰るとするか。」


 十五分ほどの徒歩でヨドのねぐらに着いた。

 荷物をドサッと床に置く。

「お昼は私が作る!」

「コユキが作ってくれるのか?」

 ヨドは少し驚いた顔で私を見る。

「私、料理は得意なんだー。ヨド楽しみに待っていて!」

 そしてキッチンに赴く。

 キョロキョロ辺りを見渡す。

「ヨドー、まな板と包丁は?」

「料理屋じゃあるまいしそんなものはないぞ。」

 ……ないんかーい!

「いつもはどうしてたの?」

「そこの台に置いて切ってるぞ。」

 一応石の台はある。

「何で切ってるの?」

「短剣で切ってる。」

 ……短剣?

 ……衛生面ダメじゃん

 ……包丁無いのか

 ……短剣……短剣ね

 自分の腰に付いてる短剣を抜く。

 瓶の水を使って短剣を洗う。

 タオルに水を染み込ませて石の台を拭く。

 そこに買ってきた肉を置く。

 そして切る。

 ……スパッ

 ……めっちゃ切れ味いいじゃん!

 どんどん肉を切っていく。

 脂身は少しよけておく。

 今度は野菜。

 黒いキャベツを四分の一に切る。

 そして千切りにしていく。

 少しだけ摘まんで口に入れる。

 シャクシャクで結構美味しい。

 今度は白い瓜を細切りにしていく。

 それも一口食べる。

 瑞々しくて美味しい。

 棚に置いてあるフライパンの様な鍋を取る。

 赤い魔法石の上に置き、気合を入れて〇印に指を当てる。

 魔法石が少し光り出す。

 手をかざすと熱を感じる。うまくいきそうだ。

 フォークを使ってフライパンに取っておいた油身を置く。

 ジューッと良い音が鳴る。

 ……よしよしうまくいってる。

 油をひいていく。

 肉を入れる。

 塩もパラパラと入れて肉と炒める。

 火が通り出して良い匂いがしだした。

 そこに千切りした黒いキャベツを投入。

 更に細切りの白い瓜も投入。

 それを炒める。

 ジャーッと良い音が鳴る。

 そこに卵を割り入れる。

 今度はジュワーっと鳴る。

 最後に砂糖も少々入れる。

 完成した野菜炒めを二つの皿に分ける。

 軽く鍋を水で洗う。

 今度は鍋に少し水を入れる。

 そこにパンを二つ放り込み少し多めに砂糖をかける。

 しばらくするとパンが水と砂糖を吸い込み柔らかくなった。

 いい感じだ。

 パンを取り出し一つずつお皿に置く。

 〇印に軽く触れる。

 赤い光が消えていく。

「かんせーい!」

 もうお昼時だ。

 丁度少しお腹が空いてきた。

「ヨドー、食べよう!」

「あ、ああ。」

 ヨドが私の勢いに少し引けている。

 二人でテーブルに着く。

「いただきまーす。」

「ああ、いただく。」

 野菜炒めを口に放り込む。

 火が通って野菜に甘味がついて美味しい。

 しっとりとした肉も美味しい。

 パンも千切って口に入れる。

 甘くて美味しい。

「うまいな、これ。」

 ヨドもむしゃむしゃ食べている。

「知らない食材だったから不安だったけど、うまくいって良かったー!」

 そういう私の横でヨドが一心不乱に食べている。

 私も食が進む。

 むしゃむしゃ。

 むしゃむしゃ。

 ……

 ……完食!

「ごちそうさまでした。」

「コユキ、うまかったぞ。」

 ヨドが笑顔で手で口を拭いている。

「喜んでくれて良かったよー。これからは私がご飯作るからね。」

「任せて良いのか?」

「うん、喜んで作るよ。」

 ……正直、モソモソのパンと干し肉はなるべく食べたくないし

「わかった。頼む。」

 ヨドが満足げに私の目を見る。

 そうして二人の昼食は終わった。

 ……でも、調理器具が欲しい……


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