第一章 四節 旅支度
…チュイチュイチュイ。
…シーッチョ。
鳥の鳴き声だ。
眠たい目に窓からの日差しがやたらと刺さる。
隣のベッドに目を移す。
そこにヨドは居なかった。
トイレに行くため、体を起こしてベッドから足を下した瞬間だった。
「っ!」
足と腕がずきりと痛む。
その痛みを我慢して、立ち上がる。
ヨロヨロと部屋を出て、共同のトイレに向かった。
ふいにトイレの扉が開いて、そこからヨドが出てきた。
「コユキ、おはよう。よく眠れたか?」
柔らかい表情でヨドが話しかけてきた。
「ヨド、おはよう。良くは眠れたんだけど、その…身体がバキバキで……」
「あー、コユキ全然筋肉無さそうだもんな。二、三日もすれば治るんじゃないか。」
「う……うん。まぁ、そうなんだろうけどキツイなぁ。」
少し崩れた笑い顔で応える。
「とりあえず、軽く身支度を整えろよ。朝飯行こうぜ。」
私はうなずいてトイレに入る。
……あ、そうだ。下着要る。
結構重要。
ヨドと宿を出た。
すぐ横からパンを焼いているような甘い匂いがする。
めちゃくちゃいい匂い。
私たちはそのお店に入った。
中に入ると、朝だというのに席がほとんど埋まっている。
厨房ではチマッコが忙しそうに動き回っている。
セルフサービスのようで、カウンターには目を見張るような色々な料理が置かれている。
ヨドは干し肉、パン、何かの乳、リンゴのような果物ひとつをトレイの上に乗せる。
……朝から干し肉なんてよく食べるな。
そう思いながら私はゆで卵、パン、バナナのような果物1本を選んだ。
レジでヨドがまたお金を支払ってくれて、申し訳ない気持ちになる。
……もっとしっかり貢献できるようにしないといけないな。
このままじゃ完全にお荷物だ。
空いてるテーブルを見つけてそこに座る。
よく見ると、取ったゆで卵が割と大きい。
……何の卵だろうこれ。
とりあえず齧り付く。
黄身がやたら濃厚で美味しい。
いや、食事に夢中になっている場合じゃない。
ヨドにちゃんと相談しておかないと。
「あの、ヨド、申し訳ないんだけど……」
「ん?なんだ?」
ヨドは干し肉を噛みながらこっちを見る。
「下着が欲しい。」
「なるほど。じゃぁ、私の替えで良ければ……」
ヨドが私の体を見ながら言葉に詰まる。
「すまん、買いにこう。」
「ごめん……」
食事を済ませて外に出た。
「とりあえず衣料品店に向かうか。」
「うん、ありがとう。」
ヨドが先導して私はまだ痛い足を庇いながらぴょこぴょこついていく。
石材のビルが連なる大通りに出た。
服がずらっと並んだ五階建てのビルに入った。
昨日の夜の食べ物屋とは違い、落ち着いた「いらっしゃいませ。」という声が響く。
声の主は落ち着いた服を着た綺麗なエルムの女性だ。
ヨドがフロアマップを確認し、そのまま小部屋に入る。
そこは、壁に青い石がいくつか埋め込まれているだけの、何もない部屋だった。
ヨドが石に手をかざす。
……ゴゴッ。
低い振動音とともに部屋が動く感じがする。
扉が開くと、そこにはさっきとは違う景色が広がる。
……エレベーターだ!
降りたそこはヒュマ用フロアだった。
私はきょろきょろと辺りを見渡しながら下着のコーナーを見つけた。
一通り眺める。
茶色。
茶色。
茶色。
「ヨド、これ、この色しかないの?」
「ん?下着なんてほとんど見えないから色なんてなんでもいいだろ?」
「えー……可愛くない……」
無理。
これではテンションが上がらない。
「下着に可愛さって必要か?」
ヨドが真顔で言う。
「そうだよ、重要だよ!可愛い下着は女の子の戦闘服なんだよ! ……あ、いや、こっちの戦闘服じゃなくて、気持ちを上げるための……」
「よくわからんが、お前が戦うのは気持ちじゃなくて肉体だぞ。」
そうじゃない。
どうやらヨドにはこの感覚は通じないらしい。
仕方がないので、今は自分に合うサイズだけ合わせて選ぶ。
本当はもっとこう……色々欲しい。
自分で払えればいいけど、今はどうしようもない。
……色んなデザインの下着があれば、この世界でもウケると思うんだけどなぁ。
「そういや、コユキ用の鞄も要るな……。」
ヨドがため息まじりに言う。
「いろいろごめん。ありがと。」
「いいから。コユキは自分の荷物は自分で持てた方がいい。」
「うん……」
ぐうの音も出ない。
……ちゃんと自分でも稼げるようにならないとな。
鞄が置いてあるコーナーに来た。
サイズは色々あるけど、やはりここも茶色っぽい物ばかりだ。
肩からかけられるやや大きめの鞄を選ぶことにした。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。」
店員のその声を背中に受けて、衣料品店を出た。
「ヨド、いろいろありがとう。」
「まぁ、最初は準備に色々必要だからな。仕方ないさ。」
「うん。今はお世話になりっぱなしだけど、私、頑張るからね。」
「おぅ、その勢いで頑張ってくれると助かる。」
ヨドが少し笑う。
その顔を見て、ちょっとだけ安心する。
「よし。最低限揃ったみたいだし。一旦街道組合に向かうか。」
「うん。わかった。」
……まずは、この足なんとかしよう。
街道組合に着いて、ヨドは先日のエルムの女性と話をしている。
私は窓際の椅子に座ってそれを見ている。
話を終えたヨドがこちらへ戻ってきた。
「次の荷物を取りに行くぞ。着いて来い。」
先を歩くヨドたちの後ろを付いていく。
エルムが石扉を開いて棚に乗った石材を指す。
ヨドが棚に積まれていた灰色の石材を二つの袋に分けていく。
あっという間に大きい袋と小さい袋が出来上がり、ヨドが私に小さい袋を手渡した。
今度は落とさないように受け取った。
「鉄よりは軽いぞ。今度はヤルクへ届けるんだ。昨日立ち寄った所だ。」
「わかった。」
私は小さい袋を担ぎながら、心の中で決めた。
……ちゃんと戦力になる。
そうして、私たちはテノジンを後にした。




