↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/31

第二章 三節 新しい一歩

「なるほど、そんな事になっていたのか。モグモグ。」

「しかし、あんたも大変だっただろ。コユキ体力ないしな。ハグッ。」

「いえ、こう見えて優秀な部下ですよ。うむっ、うまい。」

「でも、ちゃんと活躍してましたよ。子どもをちゃんと保護できてましたし。うにゃっ!」

「最初はどうなるかと思ったが、ちゃんと役に立ったじゃねぇか。ゴクゴクゴク。」

「でも、テングトビってこんなに旨いんですね。あんなに大量発生して困っていたのに。ムグッ。」

「はい、次揚がったよー。」

 大皿の上に大量の唐揚げを乗せてコユキが持ってきた。

 街道組合の食堂では、皆が一心不乱に唐揚げを食べている。

 その隣の台所では、コユキは次々と唐揚げを揚げていた。

「しかし、コユキ、活躍した後にすまんなー!」

 台所に向かって大声で叫ぶマヤト。

「設備が整ってるので楽しいですー!」

 小さい声が返ってきた。

「しかし、藤野の手料理食べるの初めてですが、本当に美味しいですね。」

「ああ、コユキの腕は本物だ。」

 満足そうに言うヨド。

 ……コンコン

 外から扉をたたく音が聞こえた。

「ん?誰だ?」

 マヤトが食堂から外に出るとエルムの男性が来ていた。

「なんのようだ?依頼か?」

「いや、なんか街道組合からすごく良い匂いしてるんだが、何してるんだ?」

「うちのエースがテングトビを調理して、皆で食べている。」

「え?マジか!?うちのカミさんが作ってもこんな良い匂いしないぞ?」

「なんかカラアゲとか言ってたな。初めて見た料理だ。」

 後ろからカソミツが皿にいくつかカラアゲを乗せて持ってきた。

「少し食べてみますか?一つ一テルでいいですよ。」

 エルムの男性が驚いた顔をしている。

「え?たった一テルで良いのか?是非一つくれ!」

「ありがとうございます。」

 カソミツは涼しい顔をしている。

 カラアゲに齧り付く男性。

 熱々だが、芳醇な香りがする肉汁が口の中に広がる。

「うまっ!!」

 ハフハフしながら男性が叫ぶ。

「なんだ?そんなに旨いのか。それならオレも一つ。」

 ゴルドンの男性が横から入ってきた。

「なんだこれっ!すごく旨い!」

「じゃあ、あたしにもおくれ!」

 チマッコの女性も食べる。

 ぞろぞろと人が集まってきていた。

「何をしてる……んっ!?なんでこんなに人が集まってるんだ!」

 外が騒々しく気になったのか、ヨドが出てきて驚いている。

「実演販売です。」

 しれっとカソミツが答える。

 ヨドは慌てて厨房に走る。

「コユキっ!大変な事になってるぞ!」

 コユキの揚げる手を止めて、ヨドが手を引っ張る。

「ちょっ、ヨド!」

 ヨドに連れられて外に出た。

「ええええぇぇぇっっっ!!!」

 その光景をみて絶叫してしまった。

「ここの新しい名物にしようと思いまして。」

 カソミツが冷静に答える。

「で、でもっ、私ずっとここに居れないですよ?」

「ご心配には及びません。コック長に調理方法を伝授して頂ければ。コユキさんには報酬として一万ディルをお渡ししますので。」

 いつの間にか課長も出てきていた。

「カソミツさん。失礼ですが、その一万ディルは妥当なのでしょうか?」

 カソミツが下に俯き頭の中でなにか考えている。

「失礼しました。経済効果を考えるとやはり十万ディルが妥当でしょうか。」

「ほう。きちんと根拠があるのですね。」

「はい。調理方法そのものではありません。今後何年も街道組合の名物として利益を生み続ける商品です。原価、人件費、販売見込み、観光客誘致効果を考慮しました。」

「素晴らしいです。うちに欲しい人材ですね。」

 課長は笑顔で返した。

「おい、カソミツ、まてまて!さっきの救援や物資購入で今うちに十万ディルなんて大金ないぞ!」

 マヤトがカソミツを止めようとした。

「ご心配には及びません。少々お待ち下さい。」

 カソミツは奥へ行き、何か紙を用意して戻ってきた。

「こちらの証書を大きな町の街道組合に出してください。最寄りだとテノジンになります。」

 なんだか話が、どんどん大きくなっていく。

「安心してください。後ほど原価計算して適切な価格設定にいたしますので。」

 私はその場でただ呆然と立っていた。

「藤野、今すぐ全て現金化するのは危険だ。証書は私が管理しておくから、必要な時に換金しよう。」

 課長はカソミツから証書を受け取った。

 十万ディルなんて数字、現実味がなくて何も考えられなかった。


「商談は成立したので、本題に入りましょうか。」

 受付ではまだ唐揚げは販売されていた。

「マヤトさん、カソミツさん、すみませんが再び食堂借りますね。」

「おう、好きに使ってくれていいぞ。」

 私たちは食堂に戻ってきた。

 ヨドは椅子を引いてテーブルについた。

「あ、ちょっと待って!」

 私は台所に戻った。

 油が煮えたぎっている。

 慌ててコンロの火を止めた。

 大量に残っている生肉を横目に食堂に戻った。

 椅子に座って調理頭巾を取る。

「会った時も一度言いましたが、私たちは商品企画課のメンバーの捜索の旅に出ます。」

 ……ふんふん

 ……むしゃむしゃ

「私はベッコーからここヨスミシにほぼ一直線に来ましたが、まだ他の場所に行っていません。」

「冷えてもこれ旨いな。ムシャムシャ。」

 ヨドも食べている。

「あの……聞いてます?」

 課長の確認が入る。

「聞いてます。」

「聞いてるぞ。」

 課長はおでこを押さえてため息をついた。

「しかし、その堅苦しい喋り方何とかならないか?道中その話し方だと疲れる。」

 ヨドが口を挟む。

「わかった。ではモードを切り替えよう。」

 課長は一旦息を吸った。

「俺たちは商品企画課の連中を探しに行く。ひとまずさっき話に出たテノジンとやらに向かいたいのだが、問題ないか?」

「いいと思います。」

「いいぞ。」

 課長は満足げだ。

「テノジンとやらはどれくらいで着くんだ?」

「私の足で歩いて半日弱くらいだ。」

 ヨドはそう答えて私を見る。

「がんばるよ。」

 それだけ答えた。

「では、今日はこの町で休んで明日の朝に向かう。問題ないか?」

「ああ。」

「はい。」

 課長は納得したように目を閉じた。

「では、明日の朝出発だ。各自今日は休息と準備を済ませておいてくれ。私は宿を確保してくる。」

 課長はそれだけ言って街道組合を出て行った。

 ……明日から、本当の旅が始まる。

 そう思っていると、チマッコの男性がひょっこり入ってきた。

「あのー、カソミツさんに呼ばれたんですが、カラアゲとやらの調理方法を教えて貰えって……」

 ……あっ!

「すみません。直ぐに支度します。」

 調理頭巾をかぶってチマッコの男性と台所に向かって準備する。

「えーと、このタレにこの野菜を擦って入れて……」

 チマッコの男性が説明を聞きながらメモを取る。

 ヨドがため息をついてその様子を見ていた。

 生肉は全部カラアゲに変わっていた。

 気が付けば外は真っ暗だった。

 今日も慌ただしい一日だった。

 でも、そのおかげで少しだけ、この世界が好きになれた。

 明日から、私たちは新しい街へ向かう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。