八話 四日目――島を知る
朝、目を覚ます。
視界に飛び込んできたのは、ヤシの葉で編んだ屋根だった。
「……家だ」
三秒だけ。
本当に三秒だけ、文明へ帰ってきたような気分になる。
だがすぐに波音が耳へ届き、ここが無人島だと思い出した。
火を見る。
灰の下には赤い火種。
ヤシの実は残り四つ。
ペットボトルを持ち上げる。
生きていくには心許なくなった。
「……今日が勝負だね」
火を育て、朝食代わりにヤシの実を一つ食べる。
甘い。
でも物足りない。
「肉が食べたい……」
思わず本音が漏れた。
今日は探索だ。
この島を知る。
それが目的だった。
時計回りに浜辺を歩く。
白い砂浜。
流木。
割れた貝殻。
透明な海の向こうには魚の群れ。
「そのうち絶対食べるから」
魚へ向かって宣言する。
当の魚たちは宣言などお構いなしに悠々と泳いでいる。
南側はヤシ林。
西側は森。
東へ進むと岩場が増え始める。
足元が悪い。
一歩踏み外せば海だ。
「これは危ない…」
慎重に進む。
潮だまりを覗く。
小さなカニ。
貝。
小魚。
(ここは覚えておこう)
食料候補だ。
さらに進む。
島の中央へ続く斜面を見つける。
草をかき分けながら登る。
毒を持つ生き物が潜んでいてもおかしくない。
足元を確認しながら、一歩ずつ進む。
やがて開けた岩場へ出た。
「……」
息を呑む。
島全体が見渡せた。
思ったより小さい。
いや。
かなり小さい。
「……完全に箱庭だ。」
どこを見ても海。
近くに他の島は見えない。
逃げ道なんて最初から存在しなかった。
その時。
ブゥン……
ドローンが頭上を横切る。
「ガイドさん」
「島の説明とかないんですか?」
返事はない。
「仕事しないなぁ。」
一人で笑う。
ざっと見た感じ川はなさそう。
だが、その視線の先。
中央付近に黒っぽい岩壁が見えた。
周囲だけ色が違う。
湿っているようにも見える。
(あそこ……)
湧き水かもしれない。
確証はない。
でも行く価値はある。
位置を頭へ刻み込む。
西側へ下る。
森はさらに深くなる。
その途中だった。
「……」
地面に足跡。
しゃがみ込む。
人ではない。
四足歩行。
ヤギだろうか。
野犬かもしれない。
指先で土を触る。
まだ崩れていない。
(新しい)
つまり。
今もどこかにいる。
思わず森を見回す。
静かだ。
風だけが葉を揺らしている。
「昨日の気配……これかな」
火は絶やせない。
夜に近づいてきたら森へは入らない。
心の中でルールを一つ増やした。
夕方。
拠点へ戻る。
足が重い。
思った以上に歩いていたらしい。
ペットボトルを持つ。
少しだけ口へ含む。
逆さにする。
ちゃぷん。
残りは、あとわずか。
焦る。
喉より先に心が乾いていく。
海水を飲みたくなるが、塩分が高すぎて逆に体内の水分がなくなることを知っている。
火の前へ座る。
四日目。
火がある。家がある。
ヤシの実も少し残っている。
でも、水だけが足りない。
海は黒い岩壁を思い浮かべる。
「あそこに賭けよう。」
「六日目までに、水を見つける。」
頭上をドローンが低く旋回した。
まるで。
その挑戦を面白がるように。




