七話 四日目――拠点
朝、目を覚ますと背中が痛かった。
「いたた……」
岩肌へ寄りかかったまま眠ったせいだ。
身体を起こし、大きく伸びをする。
火を見る。
灰の下には赤い火種が残っていた。
「よし」
昨日の炎は生きている。
小枝を足すと、ぱちぱちと音を立てながら再び燃え始めた。
思わず頬が緩む。
火を一から起こさなくて済む。
それだけで心の余裕が違った。
「今日は家を作ろう」
火は手に入れた。
水分も少しは確保できた。
次に必要なのは、安心して眠れる場所だった。
今の寝床は地面そのまま。
湿気があり、岩は硬い。
これでは体力が削られる一方だ。
「まずは床だね」
森へ入り、太めの枝を集める。
長さを揃え、地面へ並べる。
その上へ細枝を敷き詰め、さらに乾いた葉を重ねていく。
試しに横になる。
「……おっ」
昨日よりずっと楽だ。
岩の硬さも感じない。
「文明レベル1、達成!」
一人で小さく拍手した。
次は屋根。
岩壁だけでは横殴りの雨を防げない。
ヤシの葉を切り落とし、骨組みに重ねていく。
ツタを裂いて縄代わりにする。
結ぶ。
引っ張る。
ほどける。
「あーもう!」
もう一度。
今度は固く。
歯まで使って締め直す。
ようやく固定できたと思った瞬間。
ばさっ。
葉が落ちた。
「……」
思わず空を見上げる。
深呼吸。
「焦るな、焦るな」
失敗したなら直せばいい。
もう一度組み直す。
今度は葉を重ねる向きを変え、雨が流れる角度を意識する。
ツタも二重に巻く。
何度も引っ張って確認する。
今度は落ちない。
「よし!」
拠点を少し離れて眺める。
岩壁。
屋根。
床。
火。
横にはヤシの実。
思わず笑ってしまった。
「……家じゃん」
三日前。
砂浜で目を覚ました時は、何もなかった。
それが今は違う。
眠る場所がある。
火がある。
食べ物も少しだけある。
人は、こうやって暮らしを作るのか。
頭上でドローンがゆっくり降下してきた。
拠点の周囲を一周する。
海は腰に手を当てた。
「どうですか?」
「内見の感想、聞かせてもらえます?」
返事はない。
「……ですよね」
苦笑しながら、屋根の結び目をもう一度締め直す。
妥協はしたくない。
今日の手抜きは、明日の自分を苦しめる。
夕方。
完成した床へ横になる。
「……全然違う」
身体がほどよく沈みクッション性がある。
岩の冷たさも伝わってこない。
火の温もりが心地いい。
波の音は相変わらず響いている。
でも、もう怖くはなかった。
ここは自分の場所だ。
まだ小さい。
まだ不完全。
それでも。
確かに自分が作った家だった。
ヤシの実を一つ割り、果肉を口へ運ぶ。
「……さすがに飽きてきたな…」
思わず苦笑する。
火がある。
寝床もある。
でも、水源はまだ見つかっていない。
食料も足りない。
このままでは三十日は越えられない。
海は炎の向こうに広がる森を見つめた。
まだ足を踏み入れていない島の奥。
あの先にきっと、水がある。
食べられるものもある。
「元気なうちに探索かなぁ…」
それが次の目標だ。
闇がゆっくりと島を包み込む。
だが、その闇はもう恐怖ではない。
帰る場所がある。
火が待っている。
海は静かに目を閉じた。




