四話ーー相棒選び
巨大なフロアいっぱいに、百円ショップの商品が並んでいた。
見慣れた日用品。
便利グッズ。
文房具。
食器。
掃除用品。
どれも普段なら気にも留めない。
だが今は違う。
ここに並ぶすべてが、生き残るための道具だった。
「制限時間は十分です」
「選べるのは三点のみ」
壁の大型モニターがカウントを始める。
09:59
(焦るな)
(欲しいものを選ぶんじゃない)
(生き延びるための相棒を選ぶ)
海は静かに歩き出した。
最初に向かったのは工具コーナーだった。
ロープ。
ノコギリ。
折りたたみナイフ。
アルミシート。
一つひとつ手に取り、重さを確かめる。
(ロープは便利)
(でも代用品はいくらでもある)
ツル。
木の皮。
漂着したロープ。
自然には代わりがある。
その時だった。
棚の一番奥に、一本のナイフを見つけた。
ステンレス製の固定刃。
飾り気はない。
だが十分だ。
海は迷わず手に取る。
(これがなきゃ始まらない)
木を削る。
魚を捌く。
罠を作る。
火種を削る。
ナイフは武器じゃない。
文明そのものだ。
買い物かごへ入れる。
07:43
二つ目は火。
ライター。
マッチ。
着火剤。
どれも便利だ。
だが。
(壊れたり濡れたら終わり)
視線を滑らせる。
細長い一本の棒。
ファイヤースターター。
何度も練習した。
最初は火花すら飛ばなかった。
でも今なら。
(これなら一ヶ月戦える)
二つ目を手に取る。
05:11
残るは一つ。
棚を歩きながら考える。
鍋。
便利だ。
煮沸も料理もできる。
……でも。
(壊れたら意味がない)
戻す。
缶詰。
三日は生きられる。
でも四日目は?
戻す。
寝袋。
快適だろう。
でも快適なだけだ。
戻す。
その時。
棚の下段に透明なボトルが並んでいた。
二リットルの飲料水。
(少ない)
普通ならそう思う。
海は違った。
(二リットルもある)
水源を探す時間。
拠点を作る時間。
焦らないための保険。
飲み終わったボトルも使い道はいくらでもある。
これだ。
迷いはなかった。
02:09
周囲を見る。
ロープを抱える男。
缶詰ばかり選ぶ女性。
寝袋を離さない青年。
全員、自分なりの正解を信じている。
(間違いじゃない)
(でも私は…)
ナイフ。
火。
水。
生きるための土台だけを選ぶ。
00:31
スタッフが歩み寄る。
「以上でよろしいですか」
「はい」
海は頷いた。
ナイフを腰へ。
ファイヤースターターをポケットへ。
水を抱える。
三つだけ。
たった三つ。
それでも、不思議と不安はなかった。
「それでは、こちらへ」
案内され歩き出す。
一度だけ振り返る。
棚いっぱいに並ぶ無数の商品。
選ばれなかった道具たち。
(必要なのは数じゃない)
(使いこなせるかどうかだ)
巨大な搬出口のシャッターがゆっくりと開く。
外では大型ヘリが轟音を響かせて待機していた。
吹きつける風に髪を押さえながら、海は思わず笑う。
(やっとだ)
(本物のサバイバルが始まる)
胸の高鳴りを抑えきれないまま、海はヘリへ向かって歩き出した。




