三話ーールール説明
「……本当に、参加するんだよな、私……」
海が連れられてきたのはどこかの大きなホールだった。
会社から出たあと目隠しをされ、車に乗せられ今に至る。
不思議と恐怖はなかった。
サバイバルができるーーワクワクの方が大きかった。
海は会場のドアの前で深呼吸した。
目の前には、全員黒一色のスーツを着た運営スタッフ。
制服のように統一され、感情のない視線をこちらに向けている。
ドアを開けると大きなホールに十一名ほどの男女が座っていた。
皆静かに座り、ざわつきはほとんどない。
「山田海さんですね?」
スタッフに名前を呼ばれ、指定された席に着く。
他の参加者も突然招集されたのだろうか。
周りを見渡すと、顔色の悪い参加者もいれば、余裕そうな表情を浮かべる者もいる。
やがて、奥の壇上に1人の男が現れた。
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。
先ほど、担当よりご案内しました通り、皆様には
無人島サバイバルイベントに参加していただきます」
「前方のスクリーンをご覧下さい、ルール説明を行います。なお、説明終了まで皆様の発言は認めませんためご了承ください」
スクリーンに大きく文字が映し出される。
ーーーーーーー
期間 三十日間。
生活場所 無人島。
持ち込み 百円ショップの商品三点のみ。
他参加者との接触禁止。
ーーーーーーー
会場がざわついた。
「三十日……」
三十日なら、不可能ではない。
火は起こせる。
魚も釣れる。
問題は――島だ。
どんな島なのか。
それ次第で難易度は大きく変わる。
「衣類はこちらで用意いたします」
「撮影のため島内にはカメラとドローンを設置しております」
そこまでは、まだよかった。
イベントだと思えば納得できる。
だが、次の一文で空気が変わる。
⸻
リタイア可能。
ただし――
リタイアした参加者は社会的に抹殺します。
⸻
「……は?」
誰かが声を漏らした。
説明役の男は表情一つ変えない。
「社会復帰は不可能と思ってください」
冗談には聞こえなかった。
笑う者は一人もいない。
(……何、それ。)
海もさすがに眉をひそめる。
サバイバルイベント。
そう思っていた。
違う。
これは…
「続いて報酬です」
スクリーンが切り替わる。
⸻
三億円相当。
⸻
息を呑む音が聞こえた。
三億。
山どころか無人島だって買える。
夢が、一瞬だけ現実味を帯びる。
その直後だった。
「ふざけるな!!」
一人の男が立ち上がる。
「拉致しておいてゲームだぁ!? 警察呼ぶぞ!」
「お座りください」
スタッフが静かに告げる。
「断る!」
一歩。
男が前へ出た。
その瞬間。
スタッフの手がジャケットへ伸びた。
(え……。)
乾いた破裂音。
男の身体がゆっくり崩れ落ちる。
床へ広がる赤。
誰も悲鳴すら上げられない。
静まり返った会場で、スタッフだけが淡々と言った。
「勝手な発言は認めておりません」
運営が男を運び出していく。
血だけが残る。
海は目を逸らせなかった。
(……本物だ。)
怖い。
心臓が嫌になるほど速く脈打っている。
それなのに、胸の奥で別の感情が顔を出す。
(本物のサバイバル。)
テレビじゃない。
動画でもない。
命を懸ける。
本物。
(私……)
最低だ。
人が死んだのに。
少しだけ。
本当に少しだけ。
胸が高鳴ってしまった。
「説明は以上です」
スタッフは何事もなかったように一礼する。
「これより皆様には持ち込み品を選んでいただきます」
案内された先は、巨大な百円ショップだった。
棚一面に並ぶ商品。
ロープ。
鍋。
ライター。
釣り具。
バケツ。
ナイフ。
ありとあらゆる道具が並んでいる。
「制限時間は十分」
「選べるのは三点のみです」
三つ。
たった三つ。
その選択が、生死を分ける。
海は棚を見渡した。
恐怖は消えていない。
だが、それ以上に。
(やっと来た)
自然と口元が緩む。
(ずっと夢見てた、本物のサバイバル)
「……さて」
海は最初の棚へ足を踏み出した。




