二十四話 十八日目――停滞
朝。
昨日一睡もしていない影響か、少し寝落ちをしてしまった。
目を覚ました瞬間、耳を澄ませる。
……風。
昨日ほど暴れてはいない。
けれど、まだ止んではいなかった。
一定の強さで吹き続ける風が、岩壁の外を撫でていく。
柵の隙間から覗く空は、鉛色。
細かな雨粒が風に乗り、霧のように流れている。
「……まだ終わってないか」
思わず、小さく息を吐いた。
台風は確実に遠ざかっている。
だが、安全と言えるほどではない。
焦る理由はない。
ここまで耐えたのだから、最後まで耐えればいい。
◇
まず確認するのは火。
灰をそっとどける。
赤い炭が、静かに息をしていた。
細い枝を一本。
ゆっくり乗せる。
ぱちっ。
小さな炎が立つ。
「よし」
暗く湿った空気の中で、その小さな明かりだけが変わらずそこにある。
それだけで、不思議と心が落ち着いた。
煙も問題なく外へ流れていく。
換気も大丈夫。
何度も確かめたことを、今日もまた確かめる。
退屈な作業。
でも、生き延びるためには必要な作業だ。
◇
しばらくすると、眠気が押し寄せてきた。
当然だ。
昨日は、一睡もしていない。
今日も少ししか寝ていない。
風が鳴るたび目を覚まし、火を確認し、煙を見て、また目を閉じる。
その繰り返しだった。
「……眠い」
壁にもたれ、目を閉じる。
十分も経たないうちに、突風の音で目が覚める。
火を見る。
炭は生きている。
また目を閉じる。
その繰り返し。
まともに眠れない。
それでも、焦りはなかった。
◇
昼。
風はさらに弱まった。
……ように感じる。
だが、その直後。
ゴォッ――。
強い突風が森を揺らした。
枝がぶつかり合う音。
遠くで何かが倒れる音。
海は立ち上がりかけた足を止めた。
「……行かない」
外が気になる。
旧拠点はどうなっただろう。
鳥罠は。
山羊罠は。
湧き水は。
確認したいことはいくらでもある。
でも。
今は違う。
情報より、安全。
今日一日待ったくらいで失うものはない。
焦って怪我をすれば、それで終わる。
そう思うと、迷いは消えた。
◇
夕方。
風の音が変わる。
唸るような音ではなく、森を抜けていく音。
空気の重さが、少しだけ軽い。
入口から外を見る。
厚い雲の切れ間が、ゆっくりと流れていた。
「……抜けたかな」
確信ではない。
でも、自然がそう教えてくれている気がした。
海は火を少しだけ大きくする。
濡れた枝を少し離して乾かす。
明日から動けるように。
少しずつ準備を始める。
今日は、まだ出ない。
それが今の最善だ。
◇
十八日目。
何も進まなかった一日。
いや――違う。
無理に進まなかった一日だ。
生き残るためには、進む勇気だけじゃ足りない。
立ち止まる勇気もいる。
海は火を見つめながら、ゆっくり目を閉じた。
今度は、少しだけ深く眠れそうだった。
明日。
嵐が去った島と、もう一度向き合うために。




