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デスゲームに巻き込まれたと思ったら天国だった件〜きままな無人島サバイバルライフを満喫します〜  作者: 亀丸物産


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二十一話 十五日目ーー成功と黒い影

 朝。

台風の接近など知る由もない海は、朝食もそこそこに森へ向かった。

目指すのは鳥罠。

頭の中は、ただ一つ。

肉が食べたい。


「今日はどうかなぁ……」


 朝露に濡れた草を踏み分けながら、一つ目の罠へ向かう。

そして、足が止まった。


「……え?」


 枝が倒れている。

支えにしていた石も落ちている。

胸が高鳴る。


「まさか……!」


 駆け寄る。

落ち葉の上に、小さな羽。

さらに目を凝らすと、石の端に翼を挟まれた小鳥がもがいていた。

逃げようとしている。

必死に羽ばたいている。

海は思わず息を呑んだ。


「……ごめん」


 小さく呟く。

生きるためだ。

そう言い聞かせながら、両手で包み込む。

震える身体。

温かい体温。

ナイフを握る手にも力が入らない。

それでも目を閉じず、一息で止めを刺した。

静かになった。

海はしばらく、その小さな命を見つめていた。


「……ありがとう」


 誰に教わったわけでもない。

自然と、その言葉が口をついて出た。


◇


 二つ目の罠。

こちらも作動していた。

同じように一羽。


「……嘘」


 思わず笑みが漏れる。

昨日まで何も獲れなかった罠。

今日は二羽。

森が、ようやく応えてくれた。


◇


 続いて山羊の罠を確認する。

一箇所目。

輪はそのまま。

二箇所目。三箇所目。

どれも変化なし。


「……まぁ、そう簡単にはいかないか」


 起動した形跡すらない。

でも落胆はしなかった。

今日は十分すぎるほど成果があった。


◇


 拠点へ戻る。


小鳥の羽をむしり、皮を剥ぐ。

思っていた以上に小さい。

食べられる肉は本当にわずかだった。

それでも、一本の枝を削って串を作る。

火にかざすと、じゅっと透明な脂が炭へ落ちる。

煙が立ちのぼる。

鼻をくすぐる香ばしい匂い。

この島へ来て十五日。

初めて嗅ぐ、本物の肉の香りだった。


「……すごい」


 思わず笑ってしまう。

ゆっくり口へ運ぶ。

歯応えがある。

筋も多い。

決して柔らかくはない。

味付けもなく、塩すらない。


 それなのに。

噛むほどに旨味が滲み出る。

身体が歓声を上げる。

タンパク質を。

脂を。

待ち望んでいた栄養を。

全身が吸収していくのが分かった。


「美味しい……」


 目を閉じる。


「……美味しい」


 その一言だけで十分だった。


 十五日目。

初めて、自分の力だけで獲った肉。

量ではない。

この一歩が大きい。


◇


 夕方。

興奮も落ち着き、海は岩場へ向かった。

潮は引き始めている。

カメノテ。

ムラサキイガイ。

カサガイ。

いつものように採取していく。

肉を食べられたからといって、安定した食料源を手放す理由はない。

サバイバルは、慢心した瞬間に終わる。

しゃがみ込み、ナイフを岩へ滑らせる。

ぱき。

手慣れた音。

もう最初の頃のように手間取ることはない。

ふと、顔を上げた。

水平線の向こう。

黒い雲が積み重なっている。


「……あれ」


 ただの積乱雲じゃない。

横へ、どこまでも広がっている。

雲の底は低く、重たい。

風向きが変わる。

ぬるく湿った空気が頬を撫でた。

海は空を見つめたまま呟く。


「……台風?」


九月の沖縄近海。

来ても何もおかしくない。

頭の中で、拠点が浮かぶ。

屋根。

火。

乾かしてある薪。

鳥罠。

山羊罠。

湧き水の取水装置。

積み上げてきた十五日間。

もし暴風が来れば――

全部、失うかもしれない。

さっきまで胸を満たしていた達成感が、静かに薄れていく。

自然は与えてくれる。

だが、それ以上に容赦なく奪う。

海は黒い雲から目を離さなかった。


 十五日目。

初めて肉を手に入れた日。

そして。

この島が本当の牙を剥こうとしていることを、初めて知った日でもあった。

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