二十話 十四・五日目ーー2週間レポート
帝愛グループ本社、地下モニタールーム。
壁一面を埋め尽くす巨大なスクリーン。
十の無人島。
十人の参加者。
それぞれの人生が、小さな映像として映し出されている。
静寂を破るように、オペレーターが報告した。
「十四日経過時点、生存者数を報告します」
画面が切り替わる。
生存者――五名。
半数が脱落した。
誰も驚かない。
代表席に座る男は、静かに頷くだけだった。
「追加リタイヤは三名です」
オペレーターが資料を開く。
◇
ケース01
画面には一人の男性。
足首が大きく腫れ上がっている。
「島内探索中、ハブに咬傷」
「救命を最優先し、血清投与後に回収しました。」
映像が止まる。
代表は淡々と言った。
「島を歩くなら、島の住人に挨拶くらい覚えるべきだったな」
誰も笑わない。
◇
ケース02
痩せ細った女性。
乾いた唇。
焦点の合わない瞳。
「水源確保に失敗」
「脱水症状が深刻化したため、ゲーム続行不可」
担架に運ばれている女性を映した映像が流れ画面はブラックアウトした。
「水は誰にも平等だ」
代表が呟く。
「見つける者だけが飲める」
◇
ケース03
岩場。
崖下には転落した男性が映し出されている。
右脚が不自然な方向へ曲がっている。
「探索中に滑落」
「右脚複雑骨折」
「続行不能と判断」
モニターが静かに切り替わる。
自然は殺意を持たない。
だが、容赦もしない。
◇
画面中央に映し出されたのは島番号07。
山田海。
森の中。
煙が細く立ち上る。
彼女は火を見つめながら、何かを煮込んでいる。
「対象07」
「火、水源、拠点を完全確保」
「食料も安定」
「精神状態も極めて安定しています」
別画面には腕輪から送られるデータ。
心拍。
体温。
睡眠時間。
ストレス指数。
どれも安定域を維持していた。
「現在は狩猟フェーズへ移行」
「自発的に罠を増設しています」
若い職員が感心したように言う。
「ここまで順応するとは思いませんでした」
代表は映像から目を離さない。
「違う」
静かな声。
「彼女は順応しているんじゃない」
一拍置く。
「楽しみ始めている」
モニターには、失敗した鳥罠を見て笑う海。
青パパイヤを料理に使おうと試行錯誤する海。
シークワーサーを見つけて子どものように喜ぶ海。
代表は口元だけを僅かに上げた。
「自然を敵だと思っているうちは、生き残れない」
「自然を教材だと思えた者だけが、その先へ進める」
モニタールームが静まり返る。
そのとき、別のオペレーターが顔を上げた。
「本部」
「気象衛星データ、更新しました」
メインスクリーンいっぱいに、巨大な渦が映し出される。
濃い赤。
黄色。
渦巻く雲。
「台風です」
「進路予測出ます」
「沖縄周辺海域を四十八時間以内に通過」
室内に小さなどよめきが走る。
全参加者共通。
逃げ場はない。
代表は静かに立ち上がり、巨大な台風の映像を見つめた。
「ここからが、本番のようじゃな」
その一言だけ残し、部屋を後にする。
誰も口を開かなかった。
モニターの中では、海が新しい拠点の屋根を補強している。
まだ知らない。
数十キロ先の海で、生まれた巨大な暴風を。
自然は平等だ。
だからこそ、美しい。
そして――
容赦がない。




