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デスゲームに巻き込まれたと思ったら天国だった件〜きままな無人島サバイバルライフを満喫します〜  作者: 亀丸物産


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十七話 十二日目ーー森の洗礼

 夜が、うるさい。

波音は遠い。

代わりに聞こえるのは、葉擦れ、羽音、何かが這う気配。


――ぷぅん。


「……最悪」


 耳元をかすめる高い羽音。

頬を叩くが空振り。

みんなお馴染み、蚊だ。

海岸ではそれほど気にならなかった虫も、森では話が違う。


 湿気が多く、日陰も多い。

火があるとはいえ、一晩中薪をくべ続けることはできない。

炎が弱まるたびに、奴らは容赦なく寄ってくる。

足首が痒い。

首筋も。


 朝になり腕を見ると、小さな赤い腫れがいくつも並んでいた。


「大丈夫だと思ったんだけどなぁ……」


 派手な痛みではない。

けれど、確実に精神を削ってくる。

しかも蚊は、世界で最も多くの人命を奪っている生き物だ。

どんな病原体を持っているか分からない以上、放置するわけにはいかない。

さらに問題は蚊だけではない。


 蟻だ。

ヤシの実を割り、甘い果汁や果肉を残しておくと、気づけば小さな蟻が列を作っている。


「……あちゃー」


 地面に置けば、それはもう”ご自由にどうぞ”と言っているようなものだった。

食料は吊るして保管する必要がある。

虫除けも強化したい。

森は海より静かだ。

その代わり、生き物の気配が濃い。


◇


 ふと、昔見たサバイバル動画を思い出す。


「煙は蚊除けになる」


 さらに、クスノキ科の葉を燻すと効果がある――そんな話だった。


「それっぽい木……あるかな」


 森を歩く。

本州とは植生も違う。

半信半疑だった。

だが、しばらく歩いた先で、それらしい木を見つけた。

厚みのある濃い緑の葉。

葉先は丸みを帯び、どこか見覚えがある。


「たぶん……これ」


 確信はない。

でも、試す価値はある。

湿った葉を数枚採り、熾火の上へ乗せる。

しばらくすると、白い煙がゆっくり立ち上った。

風向きを読み、煙が拠点を包むよう枝を調整する。


――ぷぅん。


 さっきまで耳元で鳴っていた羽音が、少し遠ざかった。


「……効いてる」


 完璧ではない。

それでも刺される回数は明らかに減った。

煙の向こうで火が静かに揺れている。

森は敵だ。

でも、ちゃんと観察すれば味方にもなる。


◇


「……次は蟻か」


 煙は蚊には効く。

だが、蟻は平然と歩いてくる。

どうする。

記憶をたどる。

柑橘系の香りを嫌う虫がいる、と聞いたことがある。


「柑橘……この島にあるかな」


 森を見回す。

分からない。

でも、探す価値はある。

今日はもう遅い。

探索は明日に回そう。

そう思って拠点へ戻ろうとした、その時だった。


「あれ……?」


 草が生えていない細い筋。

人が通ったように土が踏み固められている。


「獣道じゃん」


 野生動物は決まった道を繰り返し歩く。

その結果、人が作った道のような跡ができる。

四日目にはヤギらしき足跡も見つけていた。

やっぱり、この島には大型の動物がいる。

夜に感じていた視線も、気のせいではなかったのかもしれない。


 海はしゃがみ込み、土を眺めた。

新しい足跡。

古い足跡。

何度も通った形跡がある。


「……肉、食べたいなぁ」


 ここ最近の食事は、貝やカニ、小魚ばかり。

悪くはない。

でも、身体がもっと大きなタンパク源を求め始めている。

海は獣道の先を見つめた。


「明日は、少し追ってみようかな」


 森の奥で葉が揺れた。

風か。

それとも――。


 十二日目。

森は厳しい。

だが同時に、新しい恵みへの入口も隠していた。

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