十二話 七.五日目――1週間レポート
「――一週間が経過しました」
帝愛グループ本社、地下モニタールーム。
壁一面に並ぶ十枚の大型モニター。
三十日間無人島サバイバル。
参加者十名の様子が映されるはずのモニター。
しかし、そのうち二枚の画面は黒く落ちていた。
「現在の生存者は八名です」
「脱落二名。脱水症状一名、急性パニック障害一名」
「救助は?」
「完了しております」
報告は淡々と進む。
誰も驚かない。
誰も拍手をしない。
ここでは、生き残ることも脱落することも、数字でしかない。
「腕輪データを表示します」
モニターが切り替わる。
心拍数。
体温。
血中酸素濃度。
睡眠時間。
ストレス指数。
参加者全員の生体情報がリアルタイムで並んでいく。
腕に装着された銀色のブレスレット。
あれは拘束具ではない。
参加者の身体と精神を、二十四時間監視するための観測装置だった。
「島番号三」
画面が切り替わる。
男が砂浜へ座り込み、ただ海を見つめている。
焚き火は消え、食料もない。
「睡眠不足三日目です」
「ストレス指数、危険域」
「時間の問題ですね」
再び画面が変わる。
「島番号五」
女性参加者が空になったペットボトルを抱えたまま眠っていた。
「基礎体温低下」
「栄養不足が進行しています」
部屋の空気は変わらない。
事実だけが積み重なっていく。
「島番号七を表示します」
画面いっぱいに映し出されたのは、焚き火の前で空き缶を見つめている山田海だった。
鼻歌交じりに缶を洗い、時折ひとり言をつぶやいている。
「安定していますね」
「初日のストレス指数は参加者中最大でしたが、水源確保後から急激に改善しています」
「睡眠も平均六時間半を維持」
「独り言は増加していますが、自己対話の範囲内です。精神状態に問題はありません」
「通常なら三日目あたりから精神が崩れ始める頃ですが……」
一人の研究員が感心したように息をつく。
「火の確保が二日目」
「拠点完成が三日目」
「島全域の地形把握が四日目」
「食料の安定確保が五日目」
「水源の発見が六日目」
「漂流物の再利用による生活基盤強化が七日目」
資料をめくる音だけが静かに響く。
「判断が早いですね」
「無駄な行動がありません」
「資源の転用能力も高い」
「そして――」
一人がモニターを見つめたまま言う。
「パニックが、一度もありません」
部屋が静かになる。
画面の中では海が貝のスープを飲みながら、小さく笑っていた。
「本人は楽しんでいるようにも見えますね」
「恐怖より好奇心が勝っているのでしょう」
「孤独への耐性も高い。自己対話によって精神を安定させています」
モニターの中で海が空き缶を掲げる。
『やっぱり文明って、最高だね』
その映像を見て、部屋のあちこちから小さな笑いが漏れた。
「現時点での参加者で生存率が高いのは?」
誰かが尋ねる。
担当者は即座に答えた。
「第一位は島番号七。山田海です」
「次に……」
その瞬間だった。
モニタールーム後方の扉が静かに開く。
黒いスーツ姿の男たちが一斉に姿勢を正す。
「代表」
空気が変わる。
白髪交じりの老人がゆっくりと部屋へ入ってきた。
誰も顔を上げない。
老人は一言も発さず、山田海の映像を見つめる。
焚き火。
空き缶。
シャコガイ。
ペットボトル。
どれも本来なら価値のないものばかりだ。
だが彼女は、それらを当然のように使いこなしている。
数秒の沈黙。
やがて老人は小さく口を開いた。
「……いい」
それだけだった。
老人は踵を返し、そのまま部屋を後にする。
扉が閉まる音が響いたあとも、誰もすぐには動かなかった。
「今の……」
一人の若い社員が小さく呟く。
「代表が、人を褒めた……」
誰かが小さく息を吐く。
「これは、面白くなりそうですね」
再び視線はモニターへ戻る。
画面の中では、山田海が焚き火の前で満足そうにスープを飲んでいた。
本人だけが、まだ知らない。
このゲームで、自分が最も生き残る可能性が高いと評価されていることを。
七日目終了。
ゲームはまだ、始まったばかりだった。




