↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームに巻き込まれたと思ったら天国だった件〜きままな無人島サバイバルライフを満喫します〜  作者: 亀丸物産


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/36

十一話 七日目――漂流物

 朝の潮は低かった。

いつも海に隠れている岩場が大きく姿を現し、島の輪郭が少しだけ広がったように見える。

海は焚き火の熾を整え、岩壁に設置した取水装置を確認する。

ロープを伝った水滴が、ヤシ殻へぽたり、ぽたりと落ちていた。


「よし、今日も働いてるね」


 ペットボトルに水を移し、火の様子を確かめる。

火がある。

拠点がある。

水も確保できる。

最低限、生きるための土台は整った。

だから今日は、少しだけ余裕を持って島を歩いてみることにした。


「何か使えるもの、流れてきてないかな」


◇


 岩陰で最初に見つけたのは、一本のペットボトルだった。

透明な樹脂は日に焼け、ラベルはほとんど剥がれている。

それでも、一目で何か分かった。


「……文明だ」


 思わず笑ってしまう。

拾い上げる。

空っぽ。

でも、それでいい。


「軽い」


 水を運べる。

雨水を貯められる。

切ればコップにもなる。

小物入れにもなる。


「万能か?」


少し考えて、


「……万能だ」


 思わず一人で頷いた。

文明、強すぎる。

さらに歩く。

今度はアルミ缶が転がっていた。

少し凹んでいるが、穴は開いていない。


「鍋だ…」


 今までは石を熱して調理していた。

もちろん、それでも火は通る。

でも、石は割れる。

缶なら水も沸かせる。

煮ることもできる。

文明の安心感は、やはり大きい。


 さらに岩陰には、大きなシャコガイの殻が三つ。

両手で抱えるほどの大きさで、内側は滑らかだった。


「これも使える」


 水を溜められる。

洗い桶にもなる。

食器にもなる。

自然が作ったキッチン用品だ。


 海は一つずつ拠点へ運び始めた。

重い。

それでも足取りは軽かった。


◇


 文明って、案外流れ着くものなんだ。

そう思った瞬間、海の手が止まる。

この島にコンビニはない。

スーパーもない。

ゴミ収集車も来ない。

それなのに、目の前にはペットボトルや空き缶がある。


 誰かが使い、

誰かが手放し、

海を渡ってここまで流れてきた。


 出版社で働いていた頃。

毎朝コンビニでコーヒーを買い、飲み終わればゴミ箱へ捨てていた。

ちゃんと分別もしていた。

それで終わった気になっていた。

もちろん、多くは適切に処理され、資源として生まれ変わる。

でも、中には海へ流れ着くものもある。

そして今、その一つが自分の命を支えようとしている。


「……人が作ったエゴか」


 ペットボトルを見つめる。

自然には存在しないもの。

便利で、丈夫で、軽くて、腐らない。

だからこそ、ここまで流れ着いた。

憎い。

でも、ありがたい。


「ありがとう」


 一拍置いて、海は笑った。


「ありがとう、ゴミ」


 誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。

海の向こうにいる誰かか。

文明そのものか。

それとも、こちらを見ているドローンか。

波だけが静かに返事をした。


◇


 拠点へ戻ると、さっそく拾った物を使い始める。

シャコガイの殻を二つ並べ、雨水を受けられる位置へ置く。

ペットボトルは海水で丁寧に洗った。

アルミ缶には湧き水を入れ、岩場で採ってきたムラサキイガイと小さなカニを放り込む。


 火にかける。

やがて湯気が立ち始めた。

磯の香りが辺りに広がる。


「いい匂い……」


 缶を火から下ろし、少しだけ冷ます。

恐る恐る一口すすった。


「……やば」


 思わず声が漏れる。

醤油もない。

味噌もない。

ただ貝とカニを煮ただけのスープ。

それなのに、貝の旨味とカニの風味がじんわりと口いっぱいに広がった。

身体が喜んでいるのが分かる。

自然の恵みと、拾った文明。

その両方があって生まれた一杯だった。


◇


 火がある。

水がある。

寝床がある。

そして、容器も増えた。

ほんの一週間前まで、コンビニがない生活なんて考えられなかった。

でも今は違う。

自然だけでも生きられる。


 だけど――

海は空になったアルミ缶を眺め、小さく笑う。


「やっぱり文明って、最高だね」


 夕日に照らされた缶が、きらりと光った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。