↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームに巻き込まれたと思ったら天国だった件〜きままな無人島サバイバルライフを満喫します〜  作者: 亀丸物産


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/36

十話 六日目――水源

 目が覚めた瞬間、最初に確認したのは喉だった。

乾いている。

だが、昨日までのような焼けるような渇きではない。

ペットボトルを手に取る。

軽い。

残っているのは、あと数口。


「今日で飲み切りかな……」


 六日目。

まだ生きている。

火は絶やしていない。

寝床もある。

ヤシの実も残り二つ。

カサガイのおかげでタンパク質も補給できた。

だが、水だけは違う。

今日見つからなければ、本当に厳しい。

昨日までに島の地形は把握した。

湿地はない。

川もない。

雨水が溜まりそうな場所も見当たらなかった。

残る可能性は、一つだけ。

四日目、丘の上から見つけた黒っぽい岩壁。

あそこだけ妙に色が違っていた。


「頼むから、当たっててよ……」


 海はナイフを腰に差し、岩場へ向かった。


◇


 北側の岩礁帯は今日も潮風が強い。

鋭い岩が無数に突き出し、足元は決して良くない。

一歩踏み外せば怪我では済まない。

慎重に歩き、昨日目印にした岩壁へたどり着く。

手を当てる。


「熱っ……」


 日に照らされた岩は熱を持っていた。

違う、ここではない。

さらに奥へ進む。

日陰になった場所。

岩の色が少しだけ黒い。

よく見ると、薄く苔が張り付いている。


「……ん?」


 指で触れる。

ひんやりしていた。

もう一度、触る。

指先が、少しだけ湿る。


「……え?」


 汗じゃない。

海は息を止め、岩の割れ目を覗き込んだ。


 ぽたり。

一滴。

透明な雫が落ちる。

数秒後。

また、ぽたり。


「うそ……」


 さらに一滴。

間違いない。

岩の奥から、水が滲み出している。

海は恐る恐る指先についた水を舐めた。

塩辛くない。

苦くもない。

ただの水だった。


「……見つけた」


 その一言と同時に、膝から力が抜けた。

思わず岩へ寄りかかる。

量は少ない。

笑ってしまうくらい少ない。


 それでも。

ゼロではない。

ゼロと一の差は、死と命の差だ。

海は岩壁を見つめた。


「ありがとう……なんて言わないけど」


「助かった」


◇


 問題は、ここからだった。

滴る水をそのまま飲むことはできる。

だが、効率が悪すぎる。

一滴ずつ口で受けていたら日が暮れてしまう。


「どうやって集めよう……」


 考える。

岩壁を見る。

海岸から拾ってきた漂流物を見る。

その時だった。


「あ…」


 漂流物を探した際に拾ってきたロープ。

建築用に使おうと思っていた太いロープだ。

海はロープを手に取る。


「……そういえば」


 学生時代。

理科の授業で見た実験を思い出す。

ティッシュが水を吸い上げる。

布が水を伝う。


「名前なんだっけ……」


 少し考え、


「あ、毛細管現象だ」


 思わず笑った。


「こんなところで役に立つなんて」


 ロープの先端をほぐし、繊維を広げる。

それを岩の割れ目へ押し込む。

反対側をヤシの殻へ垂らした。


 待つ。

一分。

二分。

何も起きない。


「やっぱりダメかな……」


 そう思った瞬間だった。


じわっ。


 ロープの色が変わる。

濡れている。


「……!」


 海は息を呑んだ。

ゆっくり。

本当にゆっくり。

水がロープを伝っていく。


 そして。

ぽと。

ヤシ殻へ一滴。

また一滴。

さらに一滴。

海はしばらく動けなかった。

ヤシ殻へ少しずつ溜まっていく透明な水を、ただ見つめる。

そして、小さく呟いた。


「……勝った」


◇


 一時間後。

ヤシ殻の底がしっかり濡れていた。

二時間後。

ようやく飲めるだけの量が集まる。

両手でそっと持ち上げる。

ゆっくり口へ運ぶ。

透明な水が喉を通る。


「……おいしい」


 ほんのり果汁の甘味がついているが、ほぼ味はしない。

それなのに。

こんなにも美味しいと感じた水は、生まれて初めてだった。

身体の奥へ、命が戻っていく。

自然と笑みがこぼれる。


「これで……まだ戦える」


 空になったペットボトルにも水を移す。

これからは、この場所へ来れば水が手に入る。

時間はかかる。

それでも、生きられる。


◇


 拠点へ戻る頃には、夕日が海を赤く染めていた。

ペットボトルの中では、透明な水が静かに揺れている。

火がある。

寝床がある。

食べ物も少しずつ確保できるようになった。

そして、水もある。


 六日前。

砂浜で目を覚ました私は、ただの遭難者だった。

でも、今は違う。

この島で、生きる術を少しずつ手に入れている。

空を見上げる。

ドローンがいつものように静かに旋回していた。


「どう?」


 ペットボトルを掲げて笑う。


「これで水道代、無料だよ」


 返事はない。

それでも、海は満足そうに笑った。


「……なんとか、生きていけそうだ」


 波音だけが、静かにその言葉へ応えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。