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第九話 轟沈の儀

「敵巡洋艦打撃群、全滅! 繰り返す、敵の防空巡洋艦群は完全に一掃されました! 現在、総旗艦である最新鋭空母『福建』、および随伴する『山東』『遼寧』は完全に孤立! 右翼防空網に致命的な大穴が空いています!」多段式原子力空母『そうりゅう』から発艦した二機の戦略爆撃機『B―52J(近代化改修版)』が放った、四十発に及ぶ超音速対艦ミサイルの猛火。それは、中国人民解放軍海軍が世界に誇った最新鋭の〇五二D型駆逐艦をはじめとする防空艦艇を一瞬にして文字通りの鉄くずへと変え、東シナ海の冷たい海へと引きずり込んだ。海面には、激しく燃え盛る中国艦の残骸が点々と浮かび、夜空を覆い尽くすほどの黒煙が、まるで巨大な生き物のように渦巻いている。残されたのは、自らを護るための鉄壁の盾をすべて失い、裸同然となった八万トン級の電磁カタパルト搭載空母『福建』、そして旧世代の『山東』『遼寧』という、計三隻の空母のみであった。「新海総司令官、やまと、むさし、あまてらすの五十一センチ電磁加速主砲レールガン、オールオンライン! いつでも火を噴く用意はできています。あの生意気な巨体を、海の底へ直接叩き落としてやりましょう!」航海長を務める佐藤宏が、勝利を確信した不敵な笑みを浮かべ、メインコンソールに配置された重厚な発射トリガーレバーに指をかけた。大気圏外からマッハ十で降り注いだ二十四発の弾道ミサイルを、自らの主砲による圧倒的な物理弾幕で完璧に叩き落としたばかりのやまと型三戦艦にとって、今や防空能力を失った敵空母など、巨大な標的に過ぎなかった。しかし、新海努総司令官は、深く腰掛けた艦長席からゆっくりと右手を挙げ、佐藤の先走る興奮を静かに制した。その表情には、勝利の驕りなど微塵もなく、ただ冷徹なまでの合理的判断と、底知れない威厳だけが満ちていた。「待て、佐藤。主砲は使うな。あの傲慢な洋上要塞を沈めるには、それに相応しい『鉄の雨』の儀式が必要だ。我々が手に入れたのは、単なる大砲の技術だけではないということを、世界に知らしめる」新海は艦長席の肘掛けに組み込まれた、全艦一斉作戦指令スイッチを力強く押し込んだ。第一艦橋のホログラフィック・ディスプレイが、青から鮮烈な橙色へと染まり、全システムが次なる攻撃へのカウントダウンを始める。「やまと、むさし、あまてらす。三艦の前後VLS(垂直ミサイル発射装置)に装填された、すべての巡航ミサイル『トマホーク』の安全装置を解除。……そして、戦後初の憲法改正に基づき、我が国が保有を認められた『戦術核弾頭』をオンラインに移行せよ。全門、一斉発射!」『ハッ! 総司令官より核使用承認! やまと型三戦艦、前部・後部VLS全門、一斉開放! 特殊近代化改修型・大型核トマホーク、撃てぇッ!!』次の瞬間、東シナ海の夜空は、人間の網膜を焼き切らんばかりの、圧倒的な純白の閃光によって完全に引き裂かれた。戦艦『やまと』『むさし』『あまてらす』の、三戦艦を合わせて合計百二十門を超えるVLSのハッチが、凄まじい金属音を響かせて一斉に跳ね上がった。そこから飛び出したのは、現代の軍事常識に存在するトマホークとは、似て非なる異形の怪物の群れだった。未来の素粒子技術と、日本全土から湧き出た莫大な資源によって急造されたそのミサイルは、従来のトマホークに比べて「二回りも巨大化」された、重厚かつ不気味な漆黒の船体を持っていた。常温核融合炉から生み出される、現代の科学では到底生み出し得ない膨大な電磁エネルギーを初期加速のブースターへと注ぎ込まれ、漆黒の怪獣たちは瀬戸内海を震わせるほどの重低音と、数キロ先まで届く巨大な白煙の柱を巻き上げながら、数秒の間に次々と、そして途切れることなく天へと撃ち上げられていった。一発、十発、五十発、百発――。夜空を埋め尽くした二回り大きな巨大核トマホークの群れは、まるで世界をゼロから再構築するために飛来した、神の放った終末のいかずちの如き圧倒的な威圧感を放っていた。上昇を終え、上空の成層圏で鋭く反転した百発以上の巨大ミサイル群は、やまとの統合データリンク『アマノハラ』が常時更新し続ける精密な誘導レーザーに従い、そのすべてが中国海軍の総旗艦、空母『福建』一隻、そして背後に怯える『山東』『遼寧』の計三隻を目がけて、海面を掠めるような超低空シースキミング飛行で一斉に殺到した。ミサイルの巨体が生み出す衝撃波だけで、静まり返っていた東シナ海の海面が真っ二つに割れ、激しい白波が立ち込める。その頃、空母『福建』の艦橋は、地獄の底のようなパニックと絶望に支配されていた。「防空艦は何をしている! 迎撃しろ! 巡航ミサイルだぞ、落とせないはずがないだろう!」艦隊司令官が、血の涙を流さんばかりの形相で部下たちの胸ぐらをつかみ、狂ったように叫ぶ。しかし、コンソールに向かうオペレーターたちの指は恐怖で激しく震え、キーボードを叩くことすらままならなかった。「ダメです! 敵のミサイル、サイズが大きすぎます! 二回りも巨大な重装甲を纏っており、本艦の近接防御火器(CIWS)の二十ミリ弾では、装甲を貫通できずに弾き返されます! 物理的に……物理的に落としきれません! それに、この異常な熱源反応と放射線感知は……まさか、核、核弾頭です!!」「何だと……!? 日本が、核を……!?」司令官の言葉が遮られた。それが、彼がこの世で耳にした最後の音となった。ドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!東シナ海の中心で、現代のいかなる戦術常識をも粉々に打ち砕く、複数の「純白の太陽」が同時に爆発した。二回り巨大化された百発以上の巨大核トマホークが、空母『福建』の広大な飛行甲板、そびえ立つ艦橋、そして随伴する『山東』『遼寧』の舷側へと容赦なく突き刺さり、内蔵された戦術核弾頭が次々と臨界に達したのだ。爆発の瞬間、周囲の海水は一瞬にして数百万度という超高熱に達し、数千キロもの海水が爆発的に沸騰して、天を突くほどの巨大なキノコ雲と水蒸気の壁を作り上げた。八万トン級の最新鋭空母『福建』の巨体は、大和型が放った核の圧倒的な衝撃波と超高熱の光の中に一瞬にして融解し、鉄の塊でありながらまるで紙細工のように真っ二つにへし折られ、内部の燃料庫や弾薬庫の連鎖誘爆を伴いながら、一瞬にして爆沈していった。その衝撃波は周辺の海域をも完全に蹂躙し、大破して息も絶え絶えだった『山東』と『遼寧』をも容赦なく巻き込んだ。両艦は核爆発が引き起こした津波のような巨波と、超音速の爆風によって艦体そのものが歪み、引きちぎられ、中を誘爆させながら瞬く間に東シナ海の漆黒の藻屑へと変えられていった。中国海軍の至宝であり、東アジアを威圧し続けてきた3個空母打撃群、総数六十隻以上の大艦隊は、日本海軍の一発の反撃の猶予すら与えられず、ただの一瞬で地球上から消滅した。完全なる、圧倒的殲滅だった。「……敵総旗艦『福建』、および随伴するすべての空母、駆逐艦、消滅。生存艦艇、なし。周辺海域の敵生命反応、完全に消失しました。……我が第一機動艦隊の、完全なる大勝利です!」オペレーターが涙声で告げた瞬間、やまとの第一艦橋には、地鳴りのような、そして割れんばかりの歓声と怒号が沸き起こった。隊員たちは互いに抱き合い、自分たちが成し遂げた、人類の歴史を完全に書き換えるほどの偉業に酔いしれていた。自衛隊という名の盾を捨て、核という名の最強の矛と、大鯨型潜水艦、五大原子力空母という神話の翼を手に入れた新生日本海軍。その初陣は、世界を恐怖で震撼させるには十分すぎるほどの、あまりにも残酷で圧倒的な結着だった。新海努は、騒然とする艦橋の中で一人静かに艦長席の背もたれに寄りかかり、支給されたばかりの、深い紺色の海軍大佐の軍服の袖をじっと見つめていた。(これが……これからの日本の歩む、覇道というわけか)胸の中に去来するのは、かつての平和な日常への一抹の寂しさと、それを遥かに凌駕する、国家の頂点に立つ者としての圧倒的な高揚感だった。

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