第八話 蒼き龍の爆煙と死の豪雨
「敵艦隊、対空陣形を再構築中! 弾道ミサイル全滅の動揺から立ち直り、空母『福建』を中心とした輪形陣で我が方の航空反撃を警戒しています!」やまとの第一艦橋に、オペレーターの鋭い声が響き渡った。大気圏外からマッハ十で降り注いだ二十四発の弾道ミサイルを、やまと型三戦艦の五十一センチ電磁加速主砲による絶対防空網で無傷で切り抜けた第一機動艦隊。いまや、東シナ海の主導権は完全に新海努総司令官の手に握られていた。「敵は防空戦の構えか。ならば、その盾ごと粉砕するまでだ」新海は不敵に微笑み、ホログラムに浮かぶ五大原子力空母の一隻、多段式空母『そうりゅう』のアイコンを指差した。「空母『そうりゅう』へ通達。我が機動艦隊の圧倒的な破壊力を見せてやれ。近代化改修型・戦略爆撃機『B―52J』、二機発艦!」『ハッ! 空母そうりゅう、B―52J、二機電磁カタパルトへ誘導開始!』その瞬間、超巨大多段式空母『そうりゅう』の上段飛行甲板が、まるで巨大な怪物の目覚めのように激しくうなりを上げた。全長四十メートル、主翼幅五十六メートルを超える巨体と、八発の新型ターボファンエンジンを搭載した「成層圏の要塞」ことB―52J。本来は陸上基地の広大な滑走路でなければ決して離着陸できないはずの超大型戦略爆撃機が、いま、巨大なエレベーターによって『そうりゅう』の広大な上段甲板へと姿を現した。「一番機、第一カタパルトへ固定! 二番機、第二カタパルトへ誘導!」甲板上に遮熱板が油圧音を響かせて立ち上がり、B―52Jの巨大な八発のエンジンが本格的な駆動を開始した。キィィィィィン……という鼓膜を刺すような高周波の金属音が、やがてドゴゴゴゴと海面を震わせる重低音へと変わっていく。排気熱によって甲板後方の空間が激しく歪み、夜の海に圧倒的な熱気が渦巻いた。本来なら、この重量の機体を空母から飛ばすなど、現代の軍事常識では完全に不可能だ。しかし、アメリカから資源との交換で強奪同然に買い叩いた最新技術と、未来の常常温核融合炉が生み出す無限の電磁エネルギーが、その不可能な現実を書き換えていく。電磁リニアカタパルトの超電導コイルに、狂気的なまでの電力が一瞬でチャージされていく。計器のインジケーターが赤から、発艦許可を示す「鮮烈な緑」へと変わった。『そうりゅう管制より一番機へ、発艦許可! ――放て!!』信号兵の合図とともに、カタパルトの発射スイッチが押し込まれた。ドォォォォォン!!!音を置き去りにするほどの凄まじい電磁の咆哮。常温核融合炉の莫大な電力を解放された電磁カタパルトが、重量八十トンを超えるB―52Jの巨体を、一瞬にして時速三百キロメートルを超える超高速へと強制加速させた。主翼が強烈な風圧を受けて限界までしなり、八発のエンジンが白熱する爆炎を吐き出しながら、B―52J一番機は『そうりゅう』の艦首から夜の東シナ海へと吸い込まれるように弾き出された。海面すれすれで一瞬だけ機体が沈み込んだものの、巨大な主翼が圧倒的な揚力を捉え、巨鳥は激しい金属音を響かせながら、垂直に近い角度で夜空へと急上昇を開始した。「一番機、発艦成功! 続いて二番機、電磁チャージ完了……放て!」間髪入れずに第二カタパルトから二番機が同じく電磁の閃光に押されて射出され、夜の海原に凄まじい衝撃波の輪を広げながら発艦していった。「B―52J一番機、二番機、ともに発艦完了! 瞬時に高度一万二千まで上昇、敵水上打撃群の防空圏外からアプローチします!」日本の五大原子力空母の圧倒的な巨大さと、未来の電磁技術による「爆撃機の空母運用」という狂気的な光景。雲海を突き抜け、成層圏へと踊り出た二機のB―52Jの主翼の下には、アメリカから調達した最新の長距離対艦巡航ミサイルが隙間なく満載されていた。その数、各機二十発、二機合わせて計四十発。中国海軍の総旗艦、空母『福建』のレーダーは、遥か上空から接近する二つの巨大な影を捉えていた。「な、何だあの巨大な機影は……空母から爆撃機を発艦させただと!? バカな、そんな運用の常識があるか!」「目標、中国海軍・〇五二D型駆逐艦および〇五四A型フリゲートからなる巡洋艦・打撃群! データリンク『アマノハラ』により完全にロックオン。……全弾、放て!」雲海を突き抜けたB―52Jのコックピットで、海軍パイロットが容赦なく発射トリガーを引いた。主翼のパイロンから四十発のミサイルが次々と切り離され、夜空に無数の光の筋を描きながら、網の目のように中国艦隊へと襲いかかった。ミサイルは波間を掠める超低空シースキミング飛行で、中国の巡洋艦群の懐へと容赦なく滑り込んでいく。ドゴォォォォォン!!!凄まじい大爆発が、東シナ海の闇を真紅に染め上げた。中国海軍が誇る最新鋭の〇五二D型駆逐艦を含む計六隻の水上戦闘艦が、一瞬にして爆発の炎に包まれた。ミサイルは艦橋や機関部に直撃し、中国艦隊の防空陣形の右翼を完全に一掃、壊滅させたのだ。「敵巡洋艦打撃群、完全に一掃! 敵の防空網に巨大な穴が空きました!」やまとの艦橋に、佐藤航海長の歓喜の声が響く。「見事だ。空母『そうりゅう』の航空破壊力、これほどとはな」新海努は満足げに頷くと、防空の盾をすべて失い、裸同然となって海原に孤立した中国の総旗艦、最新鋭空母『福建』へと冷徹な視線を向けた。「これで、最後の障害は消えた。……これより、轟沈の儀を執り行う」




