第二十三話:絶対王者の天秤
ハワイ沖の輝く太陽の下、洋上に屹立する三隻の漆黒の巨獣――戦艦『やまと』、二番艦『むさし』、三番艦『あまてらす』。その圧倒的な威容は、全世界へ生中継されている高解像度カメラのフレームを完全に支配していた。米英豪連合艦隊の残存兵力である超巨大原子力空母『ジェラルド・R・フォード』『ジョン・F・ケネディ』、そしてイギリスの『クイーン・エリザベス』の三隻は、最大戦速で突撃を継続していた。護衛艦をすべて失い、満身創痍でありながらも、自国の軍事的プライドをかけて一矢報いんと迫るその姿は、ライブ配信を見つめる億単位の視聴者たちの胸を激しく締め付けていた。「敵三巨大空母、本艦との距離二万まで接近! 艦載機、および残存するすべての対艦ミサイル群、疑似発射シークエンスの最終段階に入っています!」やまとの第一艦橋。航海長を務める佐藤宏の報告が響く。デジタル化されたコックピットのホログラム画面には、敵空母から放たれようとしている無数の電子の光跡が明滅していた。しかし、艦長席に深く腰掛けた総司令官・新海努大佐の表情には、焦りなど微塵もなかった。眼鏡のブリッジを中指で静かに押し上げ、画面に映るアメリカ海軍の老提督の悲壮な決意を、ミリタリーオタクとしての深い敬意、そして冷徹な指揮官としての冷酷さで見つめていた。「実に見事な突撃だ。西側諸国の最後の意地、確かに受け取った。……だが、我が第一機動艦隊の総旗艦を引きずり出した代償は、彼らの想像を遥かに超える絶望となって返ってくる。データリンク『アマノハラ』最大出力。戦艦『むさし』『あまてらす』、連動システム起動」新海の鋭い号令とともに、まず動いたのは三番艦『あまてらす』だった。『あまてらす』の艦橋上部から、目に見えない高エネルギーの指向性電磁パルス(EMP)が、ハワイの空へ向けてドーム状に放たれた。突撃する三隻の空母から一斉に放たれるはずだった疑似対艦ミサイル群は、発射の瞬間にその精密誘導電子チップを一瞬で焼き切られ、システム上で機能停止(不発判定)を突きつけられた。「敵のミサイル攻撃、完全に不発! システムエラー判定です!」「続いて、残る航空兵力を排除する。むさし、天の網を展開せよ」右翼を固める二番艦『むさし』の巨体がうなりを上げた。艦橋の周囲に隙間なく組み込まれた「超高出力・指向性対空レーザー砲」四基が、光の速度でハワイの青空を縦横無尽に切り裂いた。空母から命がけで発艦した米英の最新鋭ステルス戦闘機F―35Cの大編隊は、もがみ型四隻の電子戦から生き残った残存機も含め、レーザーの熱線に捉えられて成層圏へと達する前に次々と「疑似撃沈」の判定を下されていった。「航空隊、全機消滅判定! 敵艦隊、すべての攻撃手段を喪失しました!」佐藤の歓喜の声が響く中、全世界のライブ配信画面には、米英軍の攻撃がすべて無傷で防ぎ切られたことを示す【第一機動艦隊・損害ゼロ】の冷徹な文字が踊った。残されたのは、突撃の慣性だけで突き進む、武器を奪われた三隻の超巨大空母のみ。「これより、この演習の幕を引く。大和型三戦艦、五十一センチ電磁加速三連装主砲、全門一斉射撃用意」新海が静かに右手を掲げると、やまと、むさし、あまてらすの三戦艦計二十七門の巨砲が、鈍い金属音を響かせながら旋回を始め、その巨大な砲口を真っ直ぐに敵の三空母へと向けた。常温核融合炉から生み出される莫大な電力が超電導コイルへと充填され、激しい青白い電磁光が三戦艦の甲板を埋め尽くしていく。世界中が、その絶対的な王者の天秤が傾く瞬間を、息を殺して見つめていた。




