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第十七話 鉄の翼と深海の罠

 成層圏の闇で巻き起こった、百二十発に及ぶ核ミサイルの同時空中粉砕。それは、北朝鮮人民軍が国家の命運を賭けて放った究極の「牙」が、もがみ型航空戦艦四隻の放った五十一センチ電磁加速主砲レールガンという圧倒的な物理大火力の前に、文字通り影も形もなく粉砕されたことを意味していた。平壌の地下要塞に潜む最高指導部が、自らの目を疑うような絶望と驚愕に叩き落とされる中、日本海を静かに滑進する第一機動艦隊の周囲には、未だレールガンが放った凄まじい衝撃波の名残である白い海霧が立ち込めていた。しかし、北朝鮮軍の狂気はまだ終わっていなかった。空からの奇襲が完全に阻止されたことを受け、彼らは海中からの「最後の博打」へと打って出たのだ。「戦艦やまと、電探室より艦橋へ緊急報告! 日本海北方、および朝鮮半島東岸の極秘軍事基地より、多数のスクリュー音を探知! その数、計二十! 敵の主力潜水艦隊です!」やまとの第一艦橋に、オペレーターの張り詰めた声が響き渡った。ホログラムディスプレイの水面下を示す濃紺のエリアに、うごめく無数の赤い光点が浮かび上がる。それらはすべて、北朝鮮海軍が保有する旧式ながらも侮れない一世代前の『ロミオ型潜水艦』、および特殊潜水艇の大編隊であった。彼らは、先のミサイル戦で日本の艦隊が防空戦にリソースを割かれ、一時的に対潜警戒が疎かになっている隙を突いたつもりだったのだ。粗悪なディーゼルエンジンと旧式のスクリューから放たれる騒音を日本海に響かせながら、彼らは捨て身の雷撃特攻をかけるべく、第一機動艦隊の陣形中央へ向けて急速に距離を詰めていた。「敵潜水艦群、我が艦隊へ向かって進んできます! 直衛の駆逐艦『くまの』との距離、すでに一万二千を切りました!」「浅はかだな。ミリタリーの基礎すら理解していない」艦長席からホログラムを見つめる新海努大佐は、眼鏡のブリッジを中指で静かに押し上げながら、冷徹な声音で吐き捨てた。新海の脳内にある軍事データベースは、北朝鮮海軍の潜水艦の音響特性ノイズパターンをすべて完璧に把握している。彼らがどれだけ隠密に動こうとも、新生日本海軍の超高感度ソナー網の前には、夜の街で大音量の音楽を鳴らして走る暴走族のようなものだった。「佐藤、もがみ型四隻の兵装データリンクを開け。世界に教えてやるんだ。我が艦隊の航空戦艦は、ただ『右側の大砲』が巨大なだけのハリボテではないということをな」「了解、総司令官! データリンク『アマノハラ』、もがみ型各艦の左半身(空母セクション)へ兵装管制権を完全移行!」航海長の佐藤宏が、メインコンソールのホログラムキーを流れるような手つきで叩き込んだ。日本海に単縦陣を敷く四隻の一等航空戦艦――『もがみ』『みくま』『すずや』『くまの』。その左右非対称の異彩を放つ船体の【左半分】、すなわち最新鋭の電磁カタパルトとアングルド・デッキを備えた航空母艦セクションが、にわかに殺気立った駆動音を上げ始めた。キィィィィィン――。四隻の左舷側から、空気を引き裂くような高周波の金属音が同時に一斉に響き渡る。それは、常温核融合炉から生み出される無限の電磁エネルギーが、カタパルトの超電導コイルへと一瞬で充填されていく死のカウントダウンだった。上段の広大な飛行甲板へと次々に運び上げられたのは、対潜戦闘に特化された最新鋭の自律型無人攻撃ドローン『海燕かいえん』、および大型対潜哨戒ヘリの群れであった。「もがみ型各艦、空母セクション、オールオンライン! ――『空の牙』を解き放て!」新海の鋭い号令とともに、一番艦『もがみ』の左舷カタパルトから、青白い電磁の光の筋が夜空へと鋭く走った。ドッ!!!爆音を置き去りにするほどの凄まじい初期加速。電磁カタパルトの圧倒的なエネルギーによって弾き出された『海燕』無人ドローンが、夜の日本海の海風を切り裂いて次々と射出されていく。続いて二番艦、三番艦、四番艦の左半身からも、同様の電磁の閃光が幾重にも瞬き、わずか数十秒の間に、合計数十機に及ぶ対潜航空部隊が夜空へと解き放たれた。その驚異的な発艦速度は、純粋な超大型原子力空母をも遥かに凌駕する、もがみ型独自のマルチデッキ構造が成せる技だった。「もがみ型航空隊、発艦完了! 瞬時に敵潜水艦群の直上へと到達、対潜音響魚雷、一斉投下シークエンスに入ります!」上空の雲海を覆い尽くした無人ドローン群と対潜ヘリから、海面へ向けて無数の円筒形の物体が次々と投下された。それらは着水と同時にパラシュートを切り離し、未来の超高感度アクティブ・ソナーを起動させながら、深海の闇の中へと猛スピードで吸い込まれていく。最新型の音響追尾式短魚雷の群れだ。深海に潜む北朝鮮のロミオ型潜水艦の艦内では、ソナー兵がヘッドホンを放り出して絶叫していた。「上空から無数の着水音! 魚雷です! 全方位から、信じられない数のアクティブ・ピン(探信音)を受信! 回避、回避不能です!」「馬鹿な! 敵は戦艦のはずだろう! なぜこれほどの数の航空隊が真上にいるんだッ!」指揮官の悲鳴が響く間もなく、暗黒の深海で連続した凄まじい大爆発が巻き起こった。ドゴォォォン!!! ドゴォォォン!!!もがみ型の左半身から放たれた圧倒的な航空対潜兵力の前には、一世代前の旧式潜水艦の装甲など薄いガラス細工に等しかった。超高速短魚雷は敵の艦首や推進器へと正確に突き刺さり、次々とその強烈な圧力で船体をへし折っていく。ある艦は海水が艦内に一気に流入して圧壊し、またある艦はバッテリーが爆発して深海で巨大な火球と化した。特攻を試みた二十隻の北朝鮮潜水艦隊は、第一機動艦隊の姿を視界に捉えることすらできず、わずか数分の間に一隻残らず深海の底へと叩き落とされ、冷たい鉄の棺桶へと変えられていった。完全なる一方的な「深海狩り」の完了だった。「海中の脅威、すべて排除完了! 敵潜水艦隊、二十隻すべて消滅しました!」オペレーターの歓喜に震える報告が響く中、新海努大佐は静かに艦長席から立ち上がり、帽子を深くかぶり直した。その眼鏡の奥の瞳は、これまでの防衛戦を終え、いよいよこの愚かな戦争に終止符を打つための「絶対的な神罰」の下し手としての輝きを帯びていた。「素晴らしい。右の砲撃で天を支配し、左の翼で深海を統べる。これが、私ともがみ型が目指したハイブリッド運用の完全なる解答だ。……だが佐藤、まだ終わっていない。我々に核の火の雨を降らせようとした平壌の連中には、それ以上の絶望を返してやるのが新・大日本連邦海軍の礼儀というものだろう」新海はディスプレイに映る、すべての防衛線を失って完全に無防備となった北朝鮮の本土、平壌の座標を冷酷にロックオンした。「もがみ型四隻、これより最終攻撃フェーズへと移行する。右半身の戦艦セクションと、左半身の空母セクションの隙間に眠る、我が艦隊の『最大の牙』を目覚めさせろ。常温核融合炉、最大出力チャージ。対地巡航ミサイル、全門ハッチ開放」佐藤宏の表情が、引き締まった興奮の中に、これまで以上の強烈な緊張を宿す。「……いよいよ、仕上げってわけだな、新海。もがみ型四隻の本当の恐怖を、あの街の空に刻み込んでやろうじゃないか」四隻の航空戦艦の甲板に敷き詰められた、膨大な数のVLS(垂直ミサイル発射装置)のハッチが、鈍い金属音を響かせて一斉に跳ね上がり、夜の海原に次なる終焉のカウントダウンが静かに始まりを告げようとしていた。

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