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第十二話 深海の暗殺者と異形の防壁

尖閣諸島周辺の冷たい海域。中国軍の無音ディーゼル潜水艦『039A型(ユアン級)』二隻は、数日前から東シナ海の海底でじっと息を潜めていた。彼らの狙いは今すぐの暴発ではない。日本軍の警戒心が最も緩む瞬間――「二週間後」を、冷酷にカウントダウンしていたのだ。――そして、二週間の休暇が明ける運命の当日。東シナ海のレアアース採掘基地周辺。「二週間、何も起きなかったな。そろそろ主力艦隊も呉から戻られる頃だ」哨戒任務に就いていた最新鋭駆逐艦『くまの』の艦橋では、乗組員たちにわずかな緩みが混じり始めていた。まさにその瞬間だった。ピピッ――ピピッ――!『くまの』の超高感度パッシブソナーが、これまでただの岩座だと思われていた深海から、突如として発生した「猛烈な駆動音」を捉えた。「電測より緊急報告! 本艦の右舷後方、距離三千の深海に潜伏していた中国海軍の039A型潜水艦二隻が急起動! ――敵、すでに魚雷発射管を開放、本艦を完全にロックオンしています!」「何だと!? 休暇明けのこの瞬間を狙って潜んでいたのか!」深海の闇の中、中国の潜水艦二隻から、日本海軍への怨念を乗せた最新鋭の「魚―6型重魚雷」計四本が、一斉に解き放たれた。白い気泡の航跡を描きながら、四本の死神が『くまの』めがけて猛スピードで殺到する。着弾まであと六十秒。決死の防衛線――そう思われた瞬間、『くまの』の右翼と左翼を固めるように、夜霧を割って「四隻の異形の超巨大艦」が最初からそこにあったかのように堂々と姿を現した。それこそが、日本海軍が極秘裏に同時建造し、この二週間『くまの』と最初から行動を共にしていたもがみ型超近代化改修艦――『もがみ』『みくま』『すずや』、そしてネームシップの『くまの(※本艦とは別の新世代同型艦)』であった。護衛の主力は、二週間の間も片時も離れず、この海域を完璧に共同で守り抜いていたのだ。「な、何だあの形状は……!」『くまの』の乗組員たちが改めてその威容に見惚れる。そこに並ぶ四隻のもがみ型は、従来の常識を根底から覆す、人類史上初の「航空戦艦ハイブリッド・モンスター」であった。船体の【右半分】には、大和型の技術を受け継いだ五十一センチ連装電磁加速砲レールガンと分厚い重装甲が敷き詰められた「純粋な戦艦」。そして船体の【左半分】には、ステルス戦闘機や最新の対潜ヘリを次々と発着艦させるための、電磁カタパルトを備えたアングルド・デッキ仕様の「航空母艦」。これら二つの異なる艦種が左右に完全に融合し、中央にそびえ立つ【たった一つの巨大な統合型艦橋】が、その全ての機能を一元管理する。これまでの海洋軍事の歴史をあざ笑うかのような、異形の最終決戦兵器だった。「もがみ型一等航空戦艦四隻、データリンク『アマノハラ』接続維持。迎撃システム作動!」一番艦『もがみ』の統合型艦橋から、自動迎撃の冷徹なサイレンが鳴り響く。「もがみ型各艦、右半身の戦艦セクションより『対潜アクティブ・ロケット深海爆雷アスロック』を一斉斉射! 左半身の空母セクションより、対潜哨戒ヘリをスクランブル! 『くまの』に迫る魚雷を、物理的に叩き落とせ!」ドゴゴゴゴゴゴッ!!!もがみ型四隻の右半分に並んだ戦艦用VLSから、無数の対潜迎撃ロケットが白煙を上げて夜空へと撃ち上げられた。ロケットは正確に海中へと着水し、迫り来る中国軍の四本の重魚雷に対し、水中爆発による強力な衝撃波(圧力の壁)を生み出して、敵の魚雷を一本残らず途中で自爆・無力化させた。「敵魚雷、すべて迎撃成功! 本艦、無傷です!」『くまの』の艦橋に安堵の声が上がる。「よし、次は深海で二週間も眠っていたネズミどもを燻り出す番だ」もがみ型艦隊のAIが次なる攻撃シークエンスを瞬時に算出する。「もがみ型四隻、右の五十一センチ砲で海面を割り、左の航空隊で息の根を止める。攻撃開始」単艦ではなく、最初から最強の航空戦艦四隻に守られていた東シナ海。左右で異なる神の力を持つ『もがみ型』が、中国潜水艦を深海の底で完全に屠るための、容赦ない狩りが今始まった。

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