猫姫
あたしは猫姫。
黒耳黒しっぽの美少女だ。
今年で7歳になる。
天界の猫族の王家に長女として生まれ落ちた。
猫族の王女は代々猫姫と呼ばれる。
次女はニャンコとかミーコとか適当だ。
猫姫は長女だけに与えられる名誉ある称号である。
いずれ猫族の女王となるために3歳頃から英才教育を受けてきた。
戦闘訓練も受けたし、霊力や魂、人間界、魔界、地獄界、妖精界についての知識もしっかり学んだ。
あたしは生まれつき霊力が飛び抜けて強かった。
天才なので7歳にして猫族最強の戦士だ。
みんなから愛されてるし、毎日、ふかふかのベッドで寝てるし、ごちそうを食べて猫ちゃんと遊んで暮らしている。
勉強や戦闘訓練もさせられるけど、遊びの時間もたっぷりある。
けまりと踊りと歌が好き。
平和な暮らしを送っていたある日、王宮に1人の青年が押しかけて来た。
門のところで衛兵と揉めていたからたまたま通りかかったあたしが話を聞いてあげる。
門前払いはかわいそうだからさ。
「なにごとかしら?」
「猫姫さま!どうか助けてくださいッ!」
猫耳の青年がひざまづいて拝んでくる。
「ぼくの恋人がネズミ族の王子にさらわれたのです!」
「誘拐?よくないわね。あたしが取り返してあげるわ。馬を用意して」
「はい!すぐにご用意します!」
衛兵に馬を用意させて飛び乗る。
地図は頭に入っている。
白馬をすっ飛ばしてネズミの国に向かう。
国境警備隊に止められたけど、強引に突破した。
ちょっとなでただけ。
ネズミの王家が暮らすお城に乗り込んで衛兵たちをばったばったと斬り倒す。
本気で斬ってないし王城には僧侶もいるから死にはしないでしょ。
相手が悪くても殺すのはあんまり好きじゃない。
あたしはおてんばでやさしい。
ネズミ族の王子と決闘になったけどあっさり勝った。
「野良猫が!こんなことをしてタダですむとおもうなよっ!」
「あたしは猫姫。王族よ」
さらわれた猫娘を救出して猫の国に戻った。
青年は猫娘と再会して抱き合う。
あたしは2人からとても感謝された。
どうせみんなに話すでしょうし、これでまたあたしの人気が高まる。
パパにもすごくほめられた。
「よくやったな。猫姫」
「困ってる民を助けるのは王族として当然のことだよ」
玉座に座るパパのひざの上に乗って甘える。
パパはのどをなでてくれた。
「だが、これは大変なことになるぞ」
「大変なことって?」
「戦争だ」
あたしはびっくりした。
「戦争?なんで?だれも殺してないし、悪いのはあっちだよ?」
「それはそうなのだが・・・」
専属美人家庭教師のソファがあたしの疑問に答えてくれる。
「天界は階級社会なのです。猫族の地位はけして高くありません。ネズミ族は十二支なので猫族より階級が上で偉いのです」
「そうなの!?ぜんぜん知らなかった・・・でもネズミに生まれたからって猫より偉いなんて変だよ?」
「王族に生まれたからといって庶民より偉いのも変ではありませんか?」
「あたしたちは民のために尽くしているし、民も納得してあたしたちを敬ってくれてる。だから変じゃない。ネズミ族があたしたちは猫族より偉いというなら行動で示さなければならない。ネズミ族があたしたち猫族より多くの民に慕われて天界の発展と平和に貢献しているとでもいうの?十二支だからって威張って傲慢に振る舞うから世間の評判がいちじるしく悪いじゃない。あたしたちのほうがネズミ族より上じゃないとおかしい。変なルールがあるならぶっ壊してやるわ!」
「猫姫様ならそういうと思って天界が階級社会であることはふせていました」
「1人でも革命を起こそうとするだろうからな。はっはっは」
「世界を正しき形に導くのは力を持って生まれた者の責務だよ」
「そなたの正義感は宇宙一じゃな。そなたならいずれ世界を正しき形に導けるかもしれぬ」
パパはまぶしそうにあたしをみつめる。
突然、ドアが激しく開いて衛兵がすっ飛んできた。
「王様!ネズミ族が軍勢を率いて攻めて来ました!龍族と虎族の旗も見えます!」
パパは顔をしかめる。
「助っ人を呼びよったな。迎え撃つ。兵士長に伝えよ。全兵出陣じゃ!」
「了解です!」
衛兵は兵士長のもとに走っていく。
龍族と虎族と言えば動物のなかでも最強の部類だ。
かなりまずい。勝ち目が薄い。
「どろねずみめ。いつかこてんぱんにしてやろうと思っておった。いい機会じゃ」
パパは目をぎらつかせる。
「なにか因縁があるの?」
「本来、十二支はネズミじゃなくて猫でした。神様が地上の動物を招き先着順で十二支を決める時に日頃から猫のことをよく思っていないネズミがわざと1日後の日付を伝えて猫は約束の日に到着できず選考に漏れてしまったのです」
「ずるい!神様は何も言わないの?」
「当時の猫の王がぼーっとしていて神様お触れを聞き逃したのです。それでネズミの王に聞いてだまされた。そのうっかりさにも責任がある、と神様はおっしゃいました」
「なんだか納得できないなぁ」
パパはあたしの首の後ろをつまんで立ち上がる。
「わしも出陣する」
「すぐに支度します」
ソファは王座の間を出ていく。
「あたしも出陣する!断られても勝手に出陣する!」
「そなたは後継者じゃ。いますぐ遠くに逃げよ。
「いやだ!ぜったい逃げない!」
あたしは決意に満ちた瞳をパパに向ける。
パパはニヤッと笑った。
「しかたない。この戦、なんとしても勝って生きのびるぞ」
「うん!」
ソファが執事とメイドを連れて戻ってくる。
パパ専用の武器と鎧を抱えていた。
「あたしも出陣するよ!」
「よろしいのですか?」
「うむ。言い出したら聞かぬ性分じゃ。戦力にもなる」
「わかりました。猫姫様の武具と防具もご用意いたします」
「お願いっ!」
あたしはパンッと手を合わせる。
城内はどんどん慌ただしくなる。
あたしも死んだ時のために自室に戻って準備する。
飼っていた猫ちゃんたちとママや小さい妹や弟たちは裏門から城を脱出した。
王座の間に戻るとソファが武具と防具をそろえてくれてる。
あたしは金ピカの武器と鎧に身を包む。
猫の紋が刻まれた黒い剣に夜の闇の色をした漆黒の鎧だ。
オシャレだし軽量だし頑丈だし動きやすい。
なんだか興奮して来た。
衛兵が戻ってくる。
「全軍準備が整いました。城は全方位を囲まれています。ネズミ族の使者が来ております」
ネズミ耳の老人がオズオズと歩み出る
「我らの王は猫姫を縄で縛って差し出せば許してやる、と言っております」
「たわけ、と伝えておけ」
「わかりました」
老人はすごすごと引き下がる。
王座の間を出て長い廊下を歩きパパと並んでバルコニーに立つ。
あたり一面、敵軍で埋め尽くされていた。
「開門せよ!」
パパの命令で門が開く。
敵兵がなだれ込んできた。
味方の兵たちが塀の上から大砲や弓で撃ち返す。
地上の槍部隊は敵兵を串刺しにしていた。
血飛沫の舞う激しい戦場の空気に胸がドキドキしちゃう。
「敵の狙いはそなたじゃ。王座の間に戻りそこで待て」
「うん!パパ、ぜったい死なないでね!」
「わしは不死身じゃ」
パパは牙を見せてにかっと笑う。
あたしは玉座の間に戻り玉座に座って待った。
ひじ立てにひじをつき足を組んでどんぱちする音を静かに聞く。
どれぐらい時間が経過しただろうか。
扉を蹴破ってネズミ族の王子が入ってくる。
「ここにいたか!首をさしだせぇ!」
王子の鎧に血はついてない。こいつ戦ってないな。
「あんたがね!」
あたしは玉座から立ち上がり王子に斬りかかった。
「ひいっ!」
身を守ろうとする王子の前に龍族の将軍が立ちはだかる。
あたしの剣撃を大剣で防いだ。
龍の目とにらみあう。
「強いな、小娘。貴様の父も強かったぞ。首は城門に飾ってある」
怒りで全身の毛が逆立つ。
「よくもパパを!」
大剣を押し返して連撃を繰り出す。
怒りでパワーが無限に湧いた。
大剣をへし折り無防備な首を狙う。
「なんとっ!?」
「パパの仇っ!」
振り抜いた剣は龍の将軍の首をはねる。
「無念・・・」
絨毯に転がり首だけになった龍の将軍は目を閉じてつぶやく。
パパの仇はとった。
一息ついて王子を見やる。
「ひぃっ!」
王子は腰を抜かしてガタガタ震えている。あまりの恐怖で床を濡らしていた。
王子を斬ろうと歩み出すと今度は虎の将軍が軍勢を率いて現れた。
「ありゃりゃ。まさかドラドラのダンナがやられちまうとはなぁ。こりゃやべー」
虎の将軍は龍の将軍の首を見下ろして頭をかく。
王子は叫んだ。
「猫姫の首を取れば国をわけてやる!」
「だとよ。おめえら?」
虎の将軍は後ろを振り返る。
軍勢たちは雄叫びを上げてあたしに襲いかかって来た。
あたしは次から次に襲いかかってくる兵士たちをどんどん斬り捨てる。
滝のように兵士が流れてくる。
攻撃をかわして同士討ちさせたり槍を奪って突き返したり、目や足を斬って戦闘不能にさせたり、全力で抗う。
「殺せ殺せ!うひゃひゃひゃひゃ!」
王子は柱の影で狂ったように笑っていた。
どれだけ斬ったか覚えてない。
万は超えていたと思う。
敵兵たちは床に転がった死体を外に搬出しながら入れ替わりで向かって来た。
「動きが鈍って来たぜ!おじょうちゃん!」
虎の将軍が両手剣で襲いかかってくる。
あたしは飾ってあった花瓶を投げつける。
「無意味ッ!」
虎の将軍はクロス斬りする。
次の瞬間、虎の将軍のおでこに手裏剣が深く突き刺さる。
「ぐへっ!」
左手に霊力で作った手裏剣を出現させて流れ星の速さで投げた。
脳を貫かれた虎の将軍は血だまりに倒れる。
忍者に憧れて手裏剣遊びはよくしていた。
花瓶で一瞬だけ視界を奪って気づいた時には避けられないようにした。
虎の将軍を倒しても雑兵たちの怒涛の勢いは止まらない。
永久とも思えるような時間が過ぎた。
果てしない戦いの末、ついに力尽きたあたしは血だまりの中で膝をつく。
「化け猫め。これで終わりだ」
あたしは名もない兵士に討ち取られて死んだ。
そして転生する。




