妖精物語
地獄の悪鬼退治のねぎらいで祝宴が開かれた。
その席で青鬼さんから妖精界へのゲートを教えてもらう。
楽園みたいなすばらしいところで獄卒さんたちも慰安旅行でよく行くらしい。
わたしたちも3人で旅行にいった。
行ってみると青鬼さんのいうとおり妖精界は花畑と虹の世界で空気もおいしい。
アゲハチョウの羽を生やした妖精女王とも面会できたしたくさんの妖精たちと仲良くなれた。
妖精女王の話だと妖精界にも昔は魔物が出現したそうだけど、いまはゼロ。
憎しみからクモと呼ばれる魔物が生まれていたみたいなんだけど、妖精たちはお互いを憎まない世界を創り上げたから魔物が発生しなくなったそうだ。
観光客も妖精界に来ると憎しみなんか忘れちゃうから異界から憎しみが持ち込まれることがない。
ところがどっこい、夜霧ちゃんはわたしたちの修行のためにわざと己のなかの憎しみを燃やして大量の超巨大クモを発生させた。
夜霧ちゃんの抱えてる憎しみがまさかあれほどとは思わなかったなぁ。
あたしたちは妖精軍と協力してクモを駆除した。
クモの発生原因は不明となっている。
夜霧ちゃんなんだけどね。
妖精女王からは感謝されて妖精剣というレアアイテムを頂いた。
なんだか悪いなぁ。
妖精剣は妖精と相性がいいわたしの持ち物だ。
夜霧ちゃんの教えに従って妖精剣との絆は最大限まで高めてある。
ゴングが鳴り響き決勝がはじまった。
「サーガラ。でかくなっていいぜ」
「うぉおおおん!」
龍子の背中にいた龍がぐんぐん大きくなる。
龍子の守護霊の龍は胴体が長い蛇のような龍だ。
翼竜型のドラゴンもいいけど、こっちもかっこいいね。
サーガラは闘技場を覆うぐらいの大きさだ。
炎を吹かれたらやばいな。
「龍神結界ッ!」
龍子は手を合わせる。観客席に結界が張られた。
なるほど。これでパワー全開で戦えるってことだ。
「ピピ!」
レモンはサーガラに向かって飛んでいく。
巨大軍艦と小豆ぐらいのサイズの違いがある。
う〜ん。ちょっと勝つのはきびしそう。
「他人の手柄を奪うようなひきょーもんは輪切りにしてやんよ!」
龍子の手に出現したのはバスターソードだ。めっちゃ重そう。
リングを蹴ってこちらに向かってきた。
「おらぁ!」
バスターソードを跳躍してかわす。
ガラ空きの龍子の顔面に妖精剣を振り下ろした。
「切り捨てごめんッ!」
ガンっと硬いもの防がれる。龍子はバスターソードを盾にして防いだ。
うそ?
重量級武器なのに引き戻すのが早すぎる。
わたしはバスターソードを蹴って後方にくるりと回って着地する。
「おらおらおら!」
龍子はバスターソードを羽みたいに扱う。
怪力にもほどがあるでしょ。
私は妖精剣を盾にして斬撃を受けた。
「むん!」
踏ん張ろうとしたけど威力がありすぎて踏ん張りが効かない。
リングの外に吹き飛ばされフェンスに埋没する。
「うぐぐ・・・」
体が痛みできしむ。テンカウントで場外負けだ。
急いでリングに戻った。
龍子はバスターソードを肩にかけて待っている。
「弱いねぇ。あたいはまだ半分の力も出してねぇんだぜ」
「わたしもだよ」
だんっ!とリングを蹴って龍子に斬りかかる。
龍子のパワーを知りたくてわざと受けただけでほんとはよゆうでかわせるし。
「花の舞ッ!」
風に舞う花びらのようにひらひらとゆらめいて斬撃の嵐をかわす。
「なかなかやるじゃないか!」
龍子は笑みをこぼす。
ぶんぶんバスターソードを振り回してるけどだんだんスピードが落ちてる。
重いからそうなるよね。
わたしは振り下ろされたバスターソードに飛び乗って龍子の顔を薙ぐ。
龍子は叫んだ。
「龍鱗ッ!」
ゴンッ!と剣がはじかれた。
龍の鱗のような硬さだ。
龍神の加護で防御力を飛躍的に高めたみたい。
わたしは一時撤退して龍子から大きく間合いをとる。
岩に向かって剣を振っても仕方ない。
「レモンッ!ふにゃーりッ!」
敵の防御力をいちじるしく下げるデバフ魔法をレモンにお願いする。
返事がない。そうだった。いまレモンはサーガラと戦ってるんだ。
天空を見上げる。
レモンの姿が見えない。龍神はゲップして眠たそうな顔をしていた。
龍子はケラケラと笑う。
「おチビちゃんならサーガラが喰っちまったよ」
「ひどいッ!おやつじゃないんだよッ!」
「この世界は弱肉強食さッ!サーガラ!バーベキューだッ!」
「うぉおおおおおおおんッ!」
龍神はあくびするように口を開けると強烈な火炎を放った。
闘技場全体を覆いつくすような巨大な炎だ。逃げ場がない。
夜霧ちゃんとびぐるくんは異空間で戦ってるし観客は結界で守ってる。
龍子は龍神の加護でノーダメだ。
焼け死ぬのはわたしだけ?
視界が真っ赤に染まる。
「うわあああああああああッ!」
骨まで焼ける熱さ!
このままバーベキューになっちゃう!
「神人合体ッ!」
わたしの体と龍神のお腹が光る。
わたしとレモンはひとつになり触覚が伸びて背中に黄色い羽が生えた。
オレンジ色の妖精ドレスも身にまとう。
炎から逃れるために天空に飛んだ。
「そうこなきゃね」
龍子は楽しげだ。
「サーガラ。炎を消しな」
「うぉん!」
龍神は雨雲を呼び寄せて雨を降らせた。
炎が鎮火される。
わたしは空を飛んで龍神と対峙した。
龍神は目を輝かせて舌なめずりして牙を剥く。
大きな蝶に見えてる?
食いしんぼうだなぁ。
わたしは手をかざす。
「アイスウェーブ!」
龍神をガチンガチンに凍らせた。
龍神は間抜けな顔でリングに落下する。
ずしんっ!と大きな音と砂煙をあげる。
妖精が妖精剣を装備すると全ステータスが爆発的に跳ね上がる。
ピクシーと合体したいまのわたしの属性は妖精だ。
わたしはリングに降りる。
龍子は口笛を吹いた。
「ひゅー美しいねぇ。絵本から飛び出してきたみてぇだ。剥製にして部屋に飾ってやんよ」
「残酷な人間は嫌い」
私は羽ばたき風に乗って龍子の背後を取る。
手のひらをかざして呪文を唱えた。
「ふにゃーりッ!」
ヘニョヘニョとしたむらさき色の渦が龍子にぶつかる。
「あにすんだよッ!」
龍子が振り返るのと同時に彼女の首を跳ねる。
生首がリングに転がり観客が悲鳴をあげた。
「いってぇな!」
首だけになった龍子は顔を歪める。
生命力がすさまじい。
龍神と龍子の首が光り始める。
龍と人はひとつになり龍子にツノと牙と尻尾が生えた。
「楽しくなってきやがったぜッ!」
龍子は瞳をらんらんと燃え上がらせる。
戦闘狂め。
いまのでふにゃーりを無効化されたからもう一度かけるしかない。
わたしは空を駆ける。
龍子は天に右手をかざした。
「春嵐ッ!」
たちまち暗雲がたちこめ激しい雷雨と猛風が吹き荒れる。
地震まで起こった。天変地異の大災害だ。
わたしは嵐の中で身動き取れなくなる。目を開けるのもつらいし雷の爆音が怖い。
最悪な状況のなかで龍子が襲いかかってくる。
龍子は嵐の中でも空を泳ぐように自由自在だ。
「あははは。どうしたんだい?もっと踊りなよ!」
息つく暇もなく繰り出されるバスターソードの斬撃をどうにか受け流す。
防戦一方の展開だ。このままじゃいずれ会心の一撃を喰らいそうだ。
至近距離から龍子の顔面に手をかざす。
「メガトンファイヤー!」
最大火力の炎魔法をぶっ放す。
「ドラゴンファイヤー!」
龍子は口から炎を吐いて相殺した。
ぶつかり合った炎で視界が塞がれてるすきに背を向けて逃走する。
じゅうぶん距離をとったところで妖精剣を天にかざした。
「花夢ッ!」
妖精剣が桜色に輝く。
世界は塗り変わり嵐から花の世界になる。
あたしは妖精剣の秘めた力で異空間に妖精界を創り上げた。
青い空と花畑と虹のメルヘンワールドだ。
チョウが舞い清らかな川が流れ遠くに白いお城も見える。
空気も完全に澄み切っている。
憎悪はいっぺんもなくおいしい空気がごちそうだ。
龍子は眉根を寄せる
「なんだいここは?戦う気が失せちまうねぇ」
「妖精界だよ」
「へーっ、ここが秘密の花園か。まさか天界より美しいとは恐れ入ったよ」
龍子はあたりを見回して感動している。
モニターで観ている観客もあまりの幻想的な美しさに息をするのを忘れているだろうね。
妖精界では妖精のステータスは飛躍的に向上する。
さあ、ここからが本番だ。
龍子と龍神の情報は事前に得てる。
自然が大好き。花と動物が人間よりも好き。
龍神は水の神様と呼ばれ川や海を愛している。
ここに来てから龍子の目はおどろくほど優しくなった。
妖精界は龍神にとって最高のリラックスルームということだ。
しゃがんで花を見つめてぼーっとしている龍子にそっと忍び寄る。
「夢幻泡影ッ!」
わたしは龍子に剣先を向けて催眠をかける。悪夢を見せる魔法だ。
龍子の霊力は強いから催眠はすぐにはじかれるけど、一瞬でいい。
体感で1分は悪夢を見せられるはずだ。
「なんだいこりゃ・・・」
龍子は呆然とする。
わたしが見せたのは妖精界に来た人間たちが川にゴミを流して汚し工場を建てて空を汚し花を踏みにじっている光景だ。
一瞬で催眠から目覚めた龍子は鬼の形相で立ち上がった。
「あいつらぜんいんぶっころしてやりてぇ!」
激しい怒りが龍子の心を支配している。
メルヘンの国でもすぐには癒えない燃えるような憎しみだ。
美しい自然を汚す悪い人間は龍神の逆鱗に触れた。
おーこわっ。天空に逃げ込む。
周囲に黒いシミが大量に発生する。
シミはクモの形となり超巨大化した。
クモの軍勢は花畑を喰い潰しはじめる。
「てめえらなにしやがんだ!」
龍子は突如として出現した魔物に戦いを挑む。
自分の憎しみが発生源だとはわかっていない。
憎しみがクモを呼ぶ。妖精界のルールだ。
クモを発生させないために妖精たちは互いを憎まない。
わたしは空にしゃがみこみニヤニヤしながら龍子とクモの軍勢の戦闘を見守る。
高みの見物といこう。
私と夜霧ちゃんとびぐるくんの3人でも大苦戦したクモの大群に匹敵する軍勢だ。
はたして1人で勝てるかな?
「おらららららぁ!」
龍子は宙空を自由自在に駆け抜けてバスターソードを振り回しクモを切り裂く。
強いクモは硬いから全力で振らなきゃ斬れないでしょ?
体力奪われちゃうんだよね。
龍子はクモが口から吐き出す蜘蛛の糸に絡め取られても口から炎を吐いて焼き尽くす。
カミナリをバスターソードにまとわせたり地震を起こしてクモの動きを止めたり多彩な技と魔法でクモの軍勢を殲滅した。
でも、そうとう霊力を消耗している。
「はぁはぁはぁ。どんなもんだい!自然破壊するやつぁあたいが許さないよ!」
おみごと。あたしは妖精剣を軽く振る。
「花吹雪ッ!」
花畑から大量の花びらが舞う。
鼻の頭についた花びらをつまんだ龍子は目をぱちくりさせた。
「花の精霊が祝福してくれてんのかな?へへ、いい気分だぜ。うっ!」
馥郁の香りを堪能していた龍子は胸を押さえてうずくまる。
衰弱化成功だ。あたしはゆっくり龍子に接近した。
「この花畑。毒のある種類の花もたくさん用意してたんだ。いまの花吹雪も毒の花だよ」
龍子はこの世界に来てから激しく動き回りたっぷりと毒の花粉を吸った。
いい匂いだと思っていたのはぜんぶ毒だったのだ。
クモとの戦いで霊力を消耗して毒に対する免疫力も落ちている。
ダメ押しに花吹雪で毒の花びらを皮膚に触れさせた。
わたしは花の毒を無効化できる。
花の精霊との契約で花は妖精を傷つけないからね。
「てめぇ、はめやがったな!」
「勝てる環境を用意するのは戦争の基本でしょ?わたしたちは試合じゃなくて戦争だと思ってあなたたちに挑んだ。それが勝敗をわけたね」
毒で痺れて動けない龍子の首をすとんと斬り落とす。
花畑に首が転がった。
「ぜったいゆるさねぇ!呪ってやる!」
「またクモが出るからやめて。わたしと友だちになれば妖精界へのゲートを教えてあげるよ?」
「いまからあたいたちは親友だ。あんた名前は?」
「あたしは蝶野朝陽。よろしくね。龍子ちゃん♩」
「よろしくな。朝陽」
わたしたちは微笑み合う。花が咲いたように空気が和らぐ。
試合は終わった。
毒で衰弱化させて勝つ。当初の予定通りだ。
暴れ狂う龍神を退治する美しい妖精の物語はこれでおしまい。
「めでたしめでたし」
妖精剣につぶやく。
花の世界は幻となりもとの世界に戻った。
わたしは観客の大歓声を浴びる。
観客には手を振って答えた。
龍子ちゃんはフェニックスの美少女にすぐ復活してもらって駆け寄って来た。
来週、いっしょに妖精界に遊びに行く約束をする。
ネロさんたちとの試合は生きるか死ぬかの戦争だから入念に準備して地の利を生かして勝つ、と作戦を立てたのは夜霧ちゃんだ。
夜霧ちゃんは前世で戦争の経験があるみたいだけど、わたしとびぐるくんは戦争と言われてもピンとこない。
決勝の前夜、夜霧ちゃんは戦争というものがどういうものかわたしたちに体験させるためにかつて尻尾を巻いて逃走した小学校のグラウンドにわたしたちを連れて行った。
軍人さんたちは戦車や大砲や機関銃を魔力で作って襲ってくるし、塹壕もあっという間に掘る。
地雷も設置するし、手榴弾も投げてくるしもう勝つためならなんでもやって来た。
わたしたちはひどい傷を負いながらもなんとか軍人さんたちを退治する。
決勝前に戦場の殺伐とした戦場の空気を吸ってよかった。
戦場に立ったならどんな手段を使っても勝つことが大事だ。
剣を迷いを乗せてはいけないし、敵の命を断つことをためらっちゃいけない。
そういう血生臭い覚悟が手に入った。
霊力がほぼ空っぽなので貧血のようなふらふらの状態で表彰式に出た。
表彰式が終わったあと寮に帰ってベッドに倒れ込んだ。
一瞬で寝落ちした。




