ドラキュラ城
おばけ屋敷を攻略してからあたしたちは猫カフェ、ドッグラン、昆虫館のパピヨンドームに入り浸る。妖怪退治で巨大な魔石がいっぱい手に入ったからお金には不自由しなくなった。
「戦いの日々で荒んだ心が癒されるぜ」
「やっぱりチョウはいいよね♩わたしもちょうになりた~い!」
2人ともめっちゃ楽しんでいた。
食事やボランティアについて2人に指示する。
「あたしは魚を毎日食べるから、びぐるはささみ肉やさつまいも、朝陽はハチミツを食べなさい。それと野良猫野良犬、採集が禁じられてる希少なチョウの保護活動をするわよ」
「いいじゃん最高だぜ!」
「この時を待ってました!」
あたしの提案に2人ともノリノリだ。
まったりライフを堪能して英気を養う。
1ヶ月後、あたしたちは町はずれにある古ぼけたお城にいた。
お城からは体が凍てつくような不気味な妖気が漂っている。
訪ねた者はだれも帰ってこない魔城だ。
ギイィィと音がしておしゃれな門が勝手に開いた。
屋敷の灯りがつき庭の外灯もつく。
「昔のオレならこの時点で逃げ帰ったぜ」
「臆病なのも命を守るために正解よ」
「臆病すぎるのもダメなんでしょ?」
「正解。命を賭けて戦わなきゃいけない時もある。名誉と栄光を手にするために」
門に足を踏み入れるとコウモリの大軍が襲いくる。
「レモン。サンダー!」
「ピピッ!」
妖精は両手をコウモリにかざす。
手のひらから発生したカミナリがコウモリの群れに直撃した。
コウモリたちがしびれて動けないところをチョコがすばやく斬ってまわる。
ナイス連携プレイだ。
コウモリが消えるととんがり帽子をかぶったゴーストの大軍が出現する。
ゴーストたちは短い手を振って炎や氷や稲妻を発生させる。
「ピピピッ!」
レモンが円形のバリアを形成して防いでくれる。
朝陽の命令がなくてもあたしたちの身を守ってくれるういやつだ。
ゴーストたちの呪文が切れるのを待ってみんなで殲滅した。
ザコ戦は終わりだ。魔石を回収する。小さいのしかないな。
突如、濃霧に包まれた。
手をつなぐひまもないほど一瞬の出来事だ。
「朝陽!びぐる!」
呼びかけても返事がない。
敵のトラップにはまって戦力を分散されてしまった。
あたしは一寸先も見えないなか屋敷の方角に歩く。
入り口の扉が出現する。
扉を開けると赤いじゅうたんの敷かれた広いロビーに出た。
正面の大階段を登る。
2階の部屋をぜんぶまわったけどだれもいなかった。
一階に戻って全部屋を回ると地下に続く階段を見つける。
長い階段を降りてコウモリマークの扉を開けると石造りの広い部屋に出た。
壁に並んだ多くのろうそくいっせいに灯される。
十字架の描かれた棺が置かれていた。
棺がそっと開いて白い手がのぞく。
「わらわの眠りをさまたげるのはだれじゃ?」
吸血鬼スタイルの金髪、赤い目、白い牙の美少女が登場する。
気品と風格がある。ランクの高い吸血鬼だ。
「あたしよ。あなたを退治しにきたの」
「ヴァンパイアハンターか。何万回返り討ちにしてやったことか。懲りんやつらじゃ」
「エクソシストよ」
「同じようなもんじゃろ」
吸血鬼美少女は鼻をくんくんさせる。
恍惚の表情でよだれをたらした。
「そなた若くて美しいのぉ。うまそうじゃ。名を名乗るのがよい」
「夜霧よ」
「良い名じゃ。わらわはキナコじゃ」
「かわいい名前ね。ご両親はきな粉もちが好きだったのかしら」
「たぶんの!」
キナコは牙をむき出して飛びかかってきた。
ナイトがフルーレで突く。
キナコはコウモリに変身してかわす。
そのままあたしの背後に回り込んで変身を解いた。
あたしを後ろからハグして首筋を噛む。
鋭い痛みがして血を吸われた。
エルボーでキナコの腹を打ちして抜け出す。
「思った通り美味じゃな。もっと飲ませるがいい。我が眷属にしてやろう」
「していらない」
「しかたない。力づくじゃ」
キナコの手に黒いフルーレが出現した。
「そなたに合わせたぞ。さあ、楽しいダンスタイムじゃ」
キナコはフルーレを構える。
「音楽はないの?」
キナコはパチンと指を鳴らす。どこからかネズミたちが現れて奇妙な歌を歌い出す。
「どうじゃ?」
「ハロウィンで流れてそう」
「ハロウィンは大好きじゃ!」
キナコが踏み込んで突いてきた。
ナイトとの突きの応酬が続く。
あたしは名刀鬼殺しを抜いて構えた。
忍び足でキナコのうしろに回り込み背中から心臓を突く。
キナコは飛んでかわした。
背中に目がついているのかしら。
いや、この子たちが教えているのね。
あたしはねずみたちをにらんだ。
奇妙な歌に混ぜて主人に奇襲を教えてる。
「カカッ!気づいたか!」
キナコは突きの速度を上げてナイトの全身を刺しまくる。一方的な展開だ。
「けっこう毛だらけ猫穴だらけじゃ!」
フェンシングの達人であるナイトを上回るなんて天才だわッ!?
全身から血を噴き出し膝をついたナイトはそれでも突きを繰り出したけど、キナコはナイトのフルーレを弾き飛ばす。眉間を貫かれたナイトは床に倒れ伏した。
「どらねこが。床石でも舐めておれ」
ナイトをほふりさったキナコは攻撃の矛先をあたしに向けた。
あたしは刀を上段に構える。
キナコはすばやいステップで踏み込んできた。
「そいやっ!」
あたしは気合一閃、刀を振り下ろす。
「さーさー!」
キナコはフルーレの先端で刀の刃を何度も突いた。
衝撃で刀は粉々に砕け散る。
信じられない動体視力とフルーレを扱う技術だ。
振り下ろされる刀の刃にフルーレの先端を何度も命中させるってあり?
おどろいて後退すると壁に背中がつく。
追い詰められた。
キナコはフルーレの切先をあたしに首に突きつける。
「勝負ありじゃ。降参せえ」
「いやよ!」
「わがままじゃな」
キナコは目を閉じると、ふうっとため息をつきフルーレを引いた。
ふたたび目を開いた時、彼女の赤い瞳は妖艶な輝きを放つ。
あたしは身動きひとつ取れなくなった。金縛りだ!
「わらわはむりやりは好かぬ。いつもならくどき落として合意の上でことに及ぶのじゃが、そなたは魅力的すぎてしんぼうたまらん。強引にいかせてもらうぞ」
叫びたいが唇も動かない。霊力と魔力に差がありすぎて催眠術を跳ね返せない。
「いただきマウス。あ~ん♩」
キナコはうれしそうにあたしの首に牙を突き立てる。
じゅるじゅると血が吸われていく。
このままじゃ眷属にされてしまう。
ドラキュラになった自分を想像する。ビジュはいいけど太陽の下を歩けない人生はいや!
あたしは心で手を合わせ念じた。
神人合体ッ!
あたしとナイトの体が輝きはじめる。床石に伏したナイトの体が消え去った。
「なんじゃなんじゃ!?」
キナコは吸血行為を中断する。
あたしの頭に羽つきのテンガロンハットが乗せられ猫耳が飛び出した。
しっぽも生える。
服装も三銃士に変わった。
腰のベルトには中世の古式銃が装備されている。
あたしはフリントロック銃を抜いてキナコの顔面に向けて撃った。
キナコは首を傾げて避けるとうしろに飛び退いた。
「隠し球か?ずるい女じゃ」
「用意周到なだけ」
あたしは銃を仕舞いフルーレを構える。
赤鬼との戦いの時、天空音路が守護天使と一体化していた現象こそ神人合体だ。
人と守護霊の合体だけど最終形態まで進化した守護霊は神クラスの高次元な存在なので神と呼ぶ。
縁の深い守護霊と最大まで絆を深めることで神人合体という奥義が使える。
守護霊の好きなものを食べたり守護霊と同じ種族とたわむれたり絶滅の危機や劣悪な生活環境から保護することで守護霊の主人への好意を高める。
政府は守護霊を進化させる方法や神人合体までの手順を極秘にしているけど、前世の記憶持ちのあたしはエクソシストについて知らないことは何もない。
「なかなか萌える格好ではないか。たっぷり愛でてやろう」
「お断りよ」
あたしは踏み込んで鋭い突きを繰り出す。
「!?」
キナコの頬から一筋の血が流れる。
どう?今度は見切れないでしょ?
あたしのスピードは飛躍的にアップしていた。
稲妻のような突きを連続で繰り出すとキナコは黒いフルーレで受けながら後退する。
「くっ!」
キナコは飛んで逃げるとマントをバッと脱ぎ捨ててあたしの視界を奪う。
フルーレでマントを八つ裂きにする。
キナコの姿は霧のように消えていた。
「うしろじゃ!」
「知ってる」
あたしは後ろから心臓を突いてきた攻撃をかわす。
コウモリに変身して後ろに回り込んできたのがしっかり見えてた。
落ち着いて対応して反撃を繰り出しキナコを壁際に追い詰める。
フルーレを弾かれて無防備になったキナコの首に切先を突きつけた。
「形勢逆転ね。言い残す言葉はある?」
「世界中の美少女の血を吸いつくすまではまだ死ねぬッ!」
キナコはコウモリに変身して逃走をはかる。
串刺しにしてやろうと思ったけど必要なかった。
「ふんぎゃっ!」
コウモリは羽をスパッと斬られて地面に落下する。
「往生際が悪いぜ。観念しな」
犬耳の侍が刀を肩に乗せていた。
神人合体を果たしたべぐるだ。
「わらわはフランケンシュタインという怪物に操られておっただけじゃ。堪忍しておくれ」
吸血鬼の姿に戻ったキナコは女の子座りでメソメソと嘘泣きをはじめる。
びぐるは女の子の涙に弱いのか斬りにくそうだ。
さっさと斬ればいいのに。
しょうがない。あたしがトドメを刺すか。
銃を抜こうとした時、大きな火の玉が見えた。
「ファイヤーボールッ!」
「うなああああああっ!」
キナコは絶叫して燃える。
チョウの黄色い羽と触覚を生やし妖精のドレスを着た朝陽が現れた。
朝陽も無事、神人合体を果たしたようだ。
「フランケンシュタインは死闘の末にわたしが倒したよ。断末魔の声はキナコサマァっ!だったからどう考えてもあなたの家来だよね」
「狼女もキナコ様!って呼んでたぜ。自分の悪事を手下のせいにすんなし」
「うがぁあああああ!」
キナコは烈火の炎に包まれチリと消えた。
ねずみたちは歌をやめてそそくさと解散する。
「2人とも無事でよかったわ。どこに迷い込んだの?」
「オレは墓場だぜ。ゾンビに襲われてたきれいなお姉さんを助けたら、満月見て狼女に変身しやがった。ワイルドすぎる女は好みじゃないね」
「あたしは裏の森。美少女のフランケンシュタインが現れて大変だったよ!怪力だから大木もパンチでどんどんなぎ倒しちゃうし。捕まって首を握りつぶされそうなところで変身して大勝利ッ♩」
朝陽はピースサインをおでこにそえる。
2人とも期待通りの結果だ。
ドラキュラ城を攻略したあたしたちは魔石を回収して退団した。
神人合体の威力が試せてよかったわ。
「いまのオレはだれにも負ける気がしねぇ!ネロにも勝てそうだぜ!」
「まだ無理よ。あの女の強さは規格外。もっとレベルアップしないと」
「これ以上、強くなるなんてちょっと考えらんないなぁ。今がわたしの限界っぽい」
「限界突破してもらわなきゃ困るわ。神々を圧倒して天界を征服しなきゃいけないんだから」
しまった。つい口が滑る。
「なんかぶっそうなことばが聞こえてきたけど?」
「気にしないで」
「気になるよ!」
「いまはまだ話す時じゃない。黙ってついてきなさい」
「あい」
「うい」
2人とも素直だ。いいこね。
あたしたちはびぐるの家に帰還して宅配ピザで祝勝会を開いた。




