悪霊退散
放課後はびぐるの豪邸に集まるのが日課になっていた。
広いから居心地がいいし、クッキーやケーキも出てくるからついついたむろしてしまう。
びぐるの両親はあたしたちを2人ともびぐるのガールフレンドだと思っているからとても扱いが良かった。
「2人のおかげで学校生活が快適になったぜ。ありがとな」
「どういたしましてだよ。モテるようになってよかったね♩」
「へへ。モテる男はつらいぜ」
「犬顔は女子に人気だものね。モテ期襲来おめでとう」
あたしはコーヒーを飲む。ふむ。コーヒーはブラックに限るわ。
「さて本題に入りましょう。あなたたち2人にはエクソシストになってもらいます」
「エクソシスト!?」
2人は目を丸くする。
「オレなんかがエクソシストになれるわけねじゃんwww」
「ムリムリ!エクソシストって神様に選ばれた特別な人間の職業だよ?」
「守護霊のレベルを上げればだれでもなれるわよ。びぐるには犬の赤ちゃん。朝陽にはイモムシがついてるわ」
「まじか?ぜんぜん見えね〜」
「・・・イモムシかぁ。加護が弱そうだね」
「ほとんど御利益ゼロよ。加護が強い守護霊にするためにこれから悪霊退治に出かけるわ」
あたしはソファーから立ち上がる。
「渡すアイテムあるからカバンを持ってきて」
「あいあいさー」
「あいよ」
あたしたちが向かったのは駅前の路地裏だ。
鞄から色つきの眼鏡を2つ取り出す。
「これかけて。悪霊が見えるようになるわ。守護霊もね」
「呪具ってやつだね?」
「かっちょいい」
2人は霊視眼鏡をかけた。霊力が弱い人間には悪霊は見えない。
守護霊のレベルが上がれば霊力が高まり見えるようになる。
「ナイトちゃん!そんな顔してたんだね。りりしい!」
「おいおいほんとに子犬がいるぜ!よし!お前は今日からチョコだ」
「悪霊にも注目なさい」
「おーっ!黒いビー玉みてぇなのがいっぱい浮いてるな」
「ウニみたいなのもいるよ」
「これで刺せば倒せるわ」
あたしはダガーナイフを2本取り出して渡す。
聖職者による聖なる気が込められた退魔武器だ。
「サクサク倒しなさい」
「あい」
「りょーかい」
2人はしゃがんで悪霊退治を開始する。
あたしは腕組みして見守る。
「ここにいるのは無害な悪霊よ。放っておくと大きくなって危険だけど、大きくなる前にエクシストが定期的に見回って退治してるわ」
「わたしたちエクソシストの仕事奪ってる?」
「こういうのは早い者勝ちよ。あたしは7歳の頃から地道に悪霊退治をして子猫を大きくしたの。武器がなかったから尖った鉛筆に神社の手水をかけて武器にしたわ。霊水をかけると威力は弱いけど退魔武器になるの。悪霊は魔石を落とすこともあるから、魔石を換金して退魔ナイフを買ったのが9歳の頃。あなたたちも魔石は見落とさないようにね」
「は〜い」
「うい」
15分ほどで悪霊退治は終わった。草抜きみたいなものだ。
「これでレベルアップした?」
「1ぐらいは上がったかもしれないわね。無害な悪霊なんて何体倒してもわずかな経験値しかもらえないわ。でも地道な経験値稼ぎに慣れなさい。調子に乗って強い悪霊と戦えば簡単に死んじゃうわよ」
「命だいじに!」
「なあ、悪霊ってなんで発生すんだ?」
「人間のネガティブな念ね。怒り憎しみ悲しみ恐怖うらみ不安、そういう暗い感情が悪霊を生み出す。夜になれば悪霊の力が強まるし暗いところを悪霊は好むわ。いじめっ子と同じで気の弱い人間を悪霊は狙う。気を強く持てば取り憑かれることはない。あなたたちは陽キャだから大丈夫よ」
「わたしど陰キャだよ?」
「本質は陽よ。守護霊がチョウだもの。チョウは光輝く人間を好む。あなたがほんとうの自分を表に出せないのは叩かれて生きてきたからね。ビンのフタは開き始めてるわ」
「そうなのかな?自分ではわかんないや」
「オレも朝陽は陽キャだと思うぜ。光のオーラを感じるな」
「ほんまか?霊感ないくせにぃ。まあでもいちおうありがとう♩」
「駅前のような人が多い場所は暗い感情を抱えた人間も多く行き交うから、漏れ出た負の念が路地裏に潜んでいるの。今日はこれで解散。メガネとナイフはあげるから、手入れをちゃんとしてだいじに扱うようにね」
「はい!」
「押忍!」
2人は敬礼する。
分かれ道でバイバイと手を振った朝陽はカバンを振り回してスキップしながら帰っていく。
途中でくるりと回る。
「やっぱ陽キャだな」
「名前からして陽キャよ。朝陽だもん」
あたしはびぐる顔を見合わせて笑った。
次の日から放課後と休日は3人で悪霊退治に出かける。
廃墟となった学校や病院、心霊スポットと呼ばれるダムや橋、トンネルに向かった。
奥まで侵入すると勝てないボスがいるから入り口にたむろっている低級の悪霊を退治して回る。
町はずれにある廃校のグラウンドに布団を頭からかぶったような定番の悪霊がウヨウヨしていた。
あたしたちは後方に下がり黒猫のナイトに攻撃させて弱ったところを倒す。
なるべくトドメは朝陽とびぐるに刺させた。
戦闘前に「霊力が弱い人間がゴーストに攻撃されると最悪、死んじゃうから攻撃を喰らわないようにね」と伝えてるから2人はゴーストから逃げ回ってる。
ゴーストをぜんぶ退治したら軍靴の音が響いてきて軍服を着た軍人たちが現れた。
戦前、出征する兵士たちを小学校の運動場で見送ったと聞く。
海外で戦死して魂がここに帰って来たのね。
怨念が強い悪霊は強い。
数百人の軍人が軍刀や銃で武装してるんだから勝てるわけない。
3人で全力で逃げた。
コンビニ前で一息つく。
「あの悪霊たちをエクソシストは退治しないの?」
「悪霊は倒しても時間が経過すれば復活するわ。負の感情を栄養にして傷を癒すの。校舎から出て町を徘徊するようになれば殲滅するでしょうね。近づかなければ無害のうちは放置」
「やばかったなぁ」
「怖かったね〜」
おにぎりやパンを買ってエネルギー補給する。
「悪霊は負の感情から生まれるって言ってなかった?あの軍人さんたちも悪霊だよね?」
「負の感情から生まれる悪霊もいるけど、この世に恨みを残して死んだ人間も悪霊になるわ」
「エクソシストは鬼やドラキュラとも戦うって聞くけど?」
「あれは恨みや嫉妬が蓄積して悪霊となり、鬼やドラキュラの姿へと変わったのよ」
「なるへそ」
強敵からは逃げ回りあたしたちは悪霊のザコ退治を地道に続けた。
3ヶ月後、包丁を持って深夜の公園をさまよう殺人鬼の悪霊に遭遇する。
殺人鬼はどす黒いオーラを身にまとい青白い顔のヒゲもじゃでボロボロのコートを羽織ってハット帽を深くかぶった凶悪な目つきのデブの中年男だ。
獲物を探しているのかのっそりと歩いている。
包丁には黒くなった血がついていた。
殺人鬼はあたしたちを見つけて足を止める。
朝陽とびぐるは少しビビっていた。
当然の反応ね。
不吉のかたまりだもの。
あたしは腰の刀を引き抜いて構える。
みんなでちょこちょこ集めた魔石を換金してやっと購入した高価な日本刀だ。
もちろん退魔用である。
「あいつはむかし世間を騒がせた有名な連続殺人犯よ。多くの女性や子供が犠牲になったわ」
「許せねぇな。地獄に送り返してやるぜ!」
「弱い相手を狙う卑怯者なんて怖くないッ!」
2人はナイフを構える。
「正義感が強いのは立派だけど、あなたたちが太刀打ちできる相手じゃない。
あたしとナイトでやるわ。あなたたちは戦闘に巻き込まれないように離れてなさい」
「りょーかい」
「はーい」
2人は滑り台の上に移動した。
「あなたも離れてて」
ブランコに座ってる小さな女の子の地縛霊にも離れるように言う。
女の子はブランコを降りてとてとて走ってジャングルジムの頂上に移動した。
拳を振り上げてる。応援してくれるようだ。
殺人鬼はあたしをいやらしい目で見てくる。
「おまえさんキレイだな。はやく切り刻んで犯してやりてぇ」
背中に毛虫がはったようにぞわぞわした。気持ち悪くて吐き気がするわ。
あたしは地面を蹴って殺人鬼に斬りかかる。
殺人鬼は包丁で斬撃を弾いた。
無抵抗な女子供をいたぶってきた殺人鬼だから戦闘力ゼロかと思いきやそうでもない。
「今度はあなたが斬り刻まれる番よッ!」
連続で斬撃を繰り出す。
殺人鬼は器用に包丁でガードするけど、全部はさばききれず裂傷が増えていく。
ところどころコートが破れ黒い血が吹き出した。
包丁と日本刀では長さがちがう。
間合いを保って戦えば楽勝よ。
追い詰められた殺人鬼は包丁をあたしに向かって投げつけた。
武器を捨てるなんておろかね。
あたしは飛来してきた包丁を弾き返す。
そのまま踏み込んで無防備な殺人鬼の首を斬りつけた。
斬撃は空を斬る。
殺人鬼はすばやくしゃがんでかわすとあたしの両足をすくいあげて地面に押し倒す。
こいつ、動けるデブだッ!!
「くたばれッ!」
殺人鬼は懐からもう一本の包丁を取り出し逆手に持って振りあげた。
死角から小さな黒い影が飛び出して来る。
ナイトは殺人鬼の手に噛みついた。
「てめえちくしょう!はなせ!」
どんなに振り回されてもナイトは殺人鬼の手に強く噛みついて離れない。
「このくされ外道ッ!」
あたしは猫に気を取られてる殺人鬼の腹部に刀を突き刺した。
「・・・このクソガキッ!」
殺人鬼ははらわたがこぼれないようにおさえる。
ドスっと音がした。
殺人鬼の胸からナイフの切っ先が飛び出る。
振り返った殺人鬼は怒りで顔を歪ませた。
「ひきょうもんがぁ・・・」
背後から心臓を刺したのはびぐるだ。
さっきこっそり滑り台を滑っていた。
「女子供を狙うのはひきょうじゃねぇのか?さっさと消えろ」
「この恨みぜったいわすれねぇ。てめえの顔は覚えたぞ。震えて眠れ!」
あたしは忠告する。
「あんたはこれから地獄で永遠に苦しむのよ。想像を絶する苦痛が待ってるわ」
「だとよ。ぐっすり眠れそうだわ」
「くそがぁぁぁ!」
殺人鬼の穢れた魂が月に昇っていくのを見届けてあたしは立ち上がった。
「ありがとうびぐる。助かったわ」
「なんのこれしき。夜霧に受けた恩に比べりゃたいしたことねぇよ」
びぐるはさわやかに笑う。いじめから救ってあげて以来、びぐるは犬のようにあたしになついている。ご主人様のピンチに駆けつけてくれる忠犬のような男の子だ。
あたしの言いなりになる人材が欲しくて集めたから当然といえば当然だ。
殺人鬼を退治したことでびぐるは大きくレベルアップした。守護霊である犬の赤ちゃんは成人する。
「おおっ!力が湧き上がるぜ!」
霊力がアップしたびぐるは体から溢れる力に感動している。
「チョコでかくなったな」
びぐるは守護霊のビーグル犬を抱き抱える。
「もう眼鏡を外しても霊は見えるわよ」
「ほんとか?ほんとだ!」
びぐるは眼鏡をはずして頭にかける。
霊格がアップして霊視ができるようになったのだ。
「いいなぁ。わたしもはやくイモムシを進化させたいよ」
朝陽はあごに指をそえる。
「次のトドメはゆずるぜ」
「お願いしゃす!」
成人した猟犬は大きな戦力アップだ。
嗅覚が鋭いから気配を消してる悪霊にも気づいて教えてくれる。
不意打ち防止にはもってこいの用心棒だ。
あたしは笑顔でチョコの頭をなでなでした。
よしよしこれからこき使ってあげるわ。
殺人鬼の悪霊を退治し1週間後、心霊スポットのトンネルで口裂け女と遭遇する。
ハサミを動かすカシャカシャという音が不気味に反響した。
「ポマードポマードポマード!」
朝陽は叫ぶ。あたしは冷静に忠告した。
「それ髪にポマードつけてないと無意味よ」
「なぬーーっ!?」
ショックを受けてる朝陽を横目にチョコは口裂け女に突進してハサミを持っているほうの腕を噛んだ。口裂け女は反対の手でチョコを何度も殴る。
「にゃぁああん!」
仲間を傷つけられて怒ったナイトは口裂け女の顔面を爪で引っかく。
マスクが破れて大きく裂かれた口が見えた。
ギザギザの歯が並んでる。あの口で噛みつかれたら痛そうね。
チョコは腕を噛んで離さないしナイトは爪を振り回して何度も飛びかかってる。
人間を襲うつもりが動物に襲われた口裂け女はパニック状態におちいった。
あたしは忍び足で背後に回り込み刀で斬りつける。
ひざから崩れ落ちた口裂け女の首をびぐるはナイフでかっ切った。
水道管が破裂したようにどす黒い血飛沫が舞う。
「朝陽!トドメだ!」
「うん!」
どさりと倒れた口裂け女の心臓を朝陽が背中からナイフで刺す。
口裂け女は断末魔の声をあげて消えていく。大きな魔石が転がり落ちた。
「力がみなぎってくる!」
レベルアップを遂げた朝陽は拳を握りしめる。
レベル1の魔法使いがはぐれメタルを倒したようなもんね。
朝陽の脳内では祝福の音が繰り返されてフィーバータイムだろう。
肩に乗っていたイモムシは羽化してチョウになった。
黄色いチョウだ。
朝陽はキチョウを指に乗せる。
「きみはレモンと名づけよう♩」
「チョウは回復魔法を使えるわ」
「朝陽。チョコが殴られたから治してくれよ」
「やってみる♩レモンお願い」
朝陽が手を合わせるとレモンはチョコの頭上に飛び羽を羽ばたかせて輝く鱗粉を振りまいた。
チョコの打撲が癒やされていく。
「わんわん♩」
「ありがとなレモン」
お礼を言われたレモンは舞い踊る。
「どういたしましてだって♩」
飼い主の朝陽にはレモンの心がわかるらしい。
これで2人とも見習いエクソシストのレベルまで達した。
もっと強い悪霊にも挑めるわね。育成計画は順調だ。
次の日の昼休みに朝陽は質問してくる。
「わたしきれいになったってみんなに言われるんだけど、守護霊様が進化したことと関係ある?」
「もちろんよ。あたしも小学生の頃はそんなにモテなかったわ。守護霊の進化で加護が強まると魅力が増すの」
「そうなんだ!めっちゃラッキー♩」
「ピクシーまで進化したらこんなもんじゃないわ。トップアイドル以上にモテるわよ」
「まじっすか?悪霊退治がんばる!」
朝陽は拳を天につきあげた。
モテない人生だったからモテたいのね。
欲望に忠実な子は操りやすいわ。
数日後、夜の町で塾帰りの小学生女子が5人もさらわれる凶悪な事件が起きた。
酒屋の扉が壊されて大量の酒も盗まれている。
あたしはすぐに悪霊の仕業だとピンときた。
翌日の放課後、いつのものようにびぐるの部屋に集まる。
「エクソシストが動く前に悪霊を退治するわ。命がけの戦いになるけど、覚悟はいい?」
「夜霧ちゃんには恩があるから従うけど、地道にレベルアップするんじゃダメなの?」
「次の進化に必要な経験値は莫大だから、破格の強さを持つ悪霊を倒さないとダメなのよ。地道な方法だと来来来来来来世までかかるわ」
「命賭けてまで進化する意味あんのかよ?」
「あるわ。あたしはあなたたちを神にしてあげたいの」
「神?やべえじゃん!」
「それって空も飛べる?」
「愚問ね。世界を創ることだってできるわ」
「天地創造だな」
「神様になれるなら命賭ける価値あるね♩」
2人の賛同は簡単に得られた。
真夜中、3人で中学校の裏山にあるさびれた神社に向かう。
懐中電灯を片手に長い階段を登っていく。
びぐるには日本酒の入った大きなひょうたんを背負ってもらった。
頂上にたどり着く。
鳥居をくぐり境内に侵入した。
びぐるはてはずどおりひょうたんを石畳に置く。
灯篭に灯りが灯された。
「コーンコーン!」
巻物を口に咥えた白いキツネの群れが現れる。
「チョコ。ナイト。まかせるわ」
「バウッ!」
「にゃん!」
ボス戦を前に余計な体力は微塵も使いたくない。。
大量の白いキツネたちはナイトとチョコを尻尾で攻撃したり、炎系の呪文で燃やそうとしてたけど3分かからず殲滅された。
チョコがキツネに負わされた多少のすり傷はレモンが治している。
いよいよ本番開始だ。
お酒の匂いに釣られて闇の中から巨大な赤鬼が現れる。
周囲に下水のような嫌な匂いが漂った。
赤鬼の背には恐怖や痛み悲しみを叫ぶ多くの女性や子供の霊が取り憑いている。
さらわれた子どもはこいつが喰ったのね。
それ以外にも余罪が多いのは見てわかる。
殺人を犯した凶悪犯にはよく被害者の霊が取り憑いている。
罪悪感から命を絶ったり精神が崩壊したり重病にかかる犯人が多い。
表面上は平気な顔をしていても人を殺して平気でいられるはずがないのだ。
しかし悪鬼には罪悪感などかけらもない。
愉しげで被害者の悲痛な叫びはクラシックに聴こえてそうだ。
「がきども。何のようだ?」
「いざ尋常に勝負よ!」
あたしは足の震えをこらえて刀を構える。
びぐるは釘バットをバッターのように構え、朝陽はメリケンサックをはめた両手でファイティングポーズをとった。もちろん退魔用武器だ。
「酒のつまみにしてくれるわ」
赤鬼はニタリと笑った。
ご主人様に先駆けてナイトとチョコが疾走する。
「ふん!」
赤鬼は足に噛みつこうとするチョコを蹴り飛ばし顔に飛びかかるナイトを裏拳で弾き飛ばした。
「動物虐待禁止っ!」
あたしは飛び上がり正面から刀を振り下ろす。
赤鬼は避けもしなかった。
一刀両断したつもりだったけど、赤鬼のおでこで止まってる。
硬すぎでしょ!
大枚叩いて鬼殺しという名刀を新しく購入したのに効かないなんて・・・
あたしの技量が圧倒的に足りないんだわ。
「こそばゆい!」
あたしはつっぱりを喰らって吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
境内の大木にぶつかって止まった。
「うらぁ!」
赤鬼の背後に回ったびぐるは飛び上がり釘バットで後頭部をおもいっきり叩く。
「あ〜ん?蚊が止まったか?」
赤鬼はびくともしない。振り返り釘バットをつかむとびぐるを平手打ちした。
「ぐがっ!」
びぐるは吹き飛び賽銭箱にぶつかって止まる。
赤鬼は釘バットをへし折って放り投げた。
規格外の強さだ。やはり挑むのはまだ早かったか。
朝陽は地面を蹴って駆け出す。
「みんなの仇ッ!」
「返り討ちじゃ!」
赤鬼が伸ばした手をかいくぐり朝陽はジャンプして赤鬼のあごにアッパーをぶち込んだ。
「宇宙まで飛んでけ〜!」」
メリケンサックをしているから人間なら軽くアゴを砕けるけど、赤鬼は平然としている。
「まだまだぁ!」
朝陽はローキック、ハイキック、うしろ回し蹴り、飛び膝蹴りと息もつかせぬ連続攻撃を繰り出す。だけどまったく効いている様子はない。
まるで大木を相手に稽古しているようだ。
「あんまか?もっとくれや」
「うりゃりゃりゃりゃりゃーッ!」
朝陽の連続攻撃は加速していく。
赤鬼は心地よさそうに仁王立ちしている。
あれだけ攻撃して一歩も動かせないなんて信じられない。
「よちよち。高い高いしてやろう」
赤鬼は無造作に朝陽の腕をつかむと胴体を持ち上げてぽーいと高く放り投げた。
たっ、高い!
落下したら助からない高さだ。
落下地点に回り込もうにも体がまだしびれてる。
「オレにまかせろ!」
先に回復した落下地点にびぐるが回り込みナイスキャッチする。
びぐるは苦痛に顔を歪めた。衝撃で足の骨にヒビが入ったかもしれない。
レモンが飛び寄って傷を癒している。
まるで赤ん坊扱いね。あまりにも力の差がありすぎる。
でも、あきらめない。何度でも立ち向かう。
ようやくダメージから回復したあたしは立ち上がり赤鬼に再度、斬りかかる。
「鬼はぁー外ーッ!」
ポケットから豆を取り出して赤鬼の顔面に投げつけた。
魔を滅する効果に期待する。
赤鬼はうめいて目を閉じた。
首を切り落としてやる!
あたしは飛びかかり渾身の力で刀を振るう。
斬撃を受けた赤鬼の太い首に一筋の血がながれた。
これでもダメなの!?
あたしは赤鬼の胸板を蹴って飛び離れる。
赤鬼はぽりぽりクビをかく。
「のどがかわいたのぉ」
ひょうたんに近づきあぐらをかいてお酒をひとくち飲む。
「お〜美味じゃ」
余裕しゃくしゃくだ。
お酒をごくごくと飲み干して口もとをぬぐう。
「腹も減った」
赤鬼は立ち上がる。
その手に金棒が出現した。
魔力を消費して具現化したのだ。
鬼に金棒でますます不利になった。
「子どもの肉は柔らかくて大好きじゃ。ピアスもネックレスも香水もしておらぬきさまらは最高のごちそうよ」
赤鬼が駆け出す。あっという間に眼前だ。
巨大なトラックのような迫力に呼吸を忘れる。
赤鬼が片手で振り回した金棒を間一髪、跳躍して避けた。
すさまじい風圧が巻き起こる。
喰らったら即死ね。
「ほれほれもっと楽しませろ!」
赤鬼はほろ酔い気分だ。
金棒を振り回す速度はどんどんはやくなる。
「鬼さーんこーちら手のなるほうへ♩」
朝陽が手を叩きながら最悪な鬼ごっこに加わる。
赤鬼がブンブン振り回す金棒を蝶のようにヒラヒラ舞ってかわす。
回避力はあたしより断然上だ。
「こっちにもいんぜ!」
「ワンワン!」
「にゃんにゃん!」
びぐるとナイトとチョコとレモンも鬼ごっこに加わる。
「愉快な夜じゃ。ガハハハハ!」
赤鬼は楽しげだ。縦横無尽に振り回された金棒は石畳や神社を粉砕する。
5分ほど逃げ回っていると赤鬼の目はトロンとなった。
「うーむ・・・眠くなってきたわい」
赤鬼は動きを止めてドシン!と仰向けに倒れて大きなイビキをかいて眠りこけた。
金棒も手から離れてる。
チャンスだわ!
酔いつぶし作戦大成功ね。お酒を飲んで動き回るとすぐに酔いが回る。
無防備ないまなら倒せる。
あたしたちは全員で総攻撃を開始した。
あと一歩で攻撃圏内というところで赤鬼はパチリと目を開ける。
身を起こし手にしていた金棒を振り回した。
みんな直撃を避けたものの金棒の生み出した暴風に巻き込まれて吹き飛ばされてしまう。
地面に強く叩きつけられたあたしたちは体がしびれて動けなくなった。
酔いつぶれたふりをするなんて狡猾だわ
赤鬼は地面に倒れ伏すあたしたちを見下ろす。
「酒呑童子様の二の舞は踏まぬ」
酔い潰し作戦はばれていたようだ。
大昔、酒呑童子という伝説の悪鬼が酒に酔い潰れたところを侍に退治されている。
赤鬼はそれを教訓にしてアルコール耐性をつけていたようだ。
ガニ股であたしに近づいてくる。
「獲物は生きたまま食うのが1番うまい。悲鳴がいいスパイスじゃ」
だから今まで手加減していたのね。
絶体絶命のピンチだ。
これまでか。
あきらめかけた瞬間、絶望を切り裂くような美しい声音が響いた。
「きみ達、こんな時間に何をしているの?いい子はとっくに寝てる時間だよ」
あたしの前にあゆみ出たのは亜麻色の髪を背中まで伸ばした綺麗な少女だ。
抜群にお洒落な制服を着て手には白い聖剣を持ち、腰にはピンクのハート模様が入った白い銃を装備している。
さらに麗しい天使の守護霊が背中にくっついていた。
S級エクソシスト天空音路だ。
天才美少女画家としても超有名である。
「おおっ、ごちそうがきたな」
赤鬼はペロリと舌なめずりする。
「きみ、さらった子どもたちはどうしたの?」
「さっき野グソしたからその辺におるんじゃないか。ガッハッハハッ」
「下品なのは嫌い」
音路は瞬間移動のような速さで笑う赤鬼に斬りかかる。
赤鬼は金棒で受けた。
あたしの攻撃はかわさなかったけど音路の攻撃は防がないとまずいようね。
金棒と聖剣が撃ち合う衝撃音が境内にこだました。
あの細身で巨大な鬼と互角のパワーなんて信じられない。
飛び退いた音路は聖銃を連続でぶっ放す。
赤鬼は金棒で銃弾をすべて弾いた。
銃弾見切るなんて動体視力やばすぎ。
ドスドスドスッ!と音がして赤鬼の背中にキューピッドの矢が刺さった。
天使の援護射撃だ。
「なまぬるい!」
赤鬼は背中から矢を引き抜く。
弱い悪霊なら愛の力で浄化したかもしれないわね。
天使は弓を消すと槍を生み出し赤鬼に突撃する。
音路と挟撃だ。
金棒を振り回して前後からの攻撃を防いでいるけど、ぜんぶは防げない。
赤鬼の頑強な肉体に傷が増えていく。
「ぐはは!いいぞ!もっとだ!もっと来い!」
赤鬼は戦いが楽しくなってきたのか興奮状態だ。
戦闘狂ね。野蛮だわ。
あたしは次元の違う戦いに巻き込まれないように後方にさがった。
朝陽とびぐるもそれぞれ後ろに下がって戦いの邪魔にならないようにしている。
赤鬼の動きはどんどん加速した。
この鬼、強さの底がしれない。
無名だからザコ鬼だったんだろうけど、栄養のある子どもをたくさん食べたことでえげつなくパワーアップしたに違いない。
鬼の突き出した金棒が音路をとらえる。
「ガハッ!」
音路は口から血を吐き出す。
内臓をやられた?
動きが止まったところを赤鬼は見逃さない。
両手に握った金棒を振り下ろして音路の頭を砕いた。
音路は鼻血を出してひざまづく。
もう一撃来る前に後ろに飛んで逃げた。
片膝をついたまま赤鬼を睨む。
あの怪我で動けるなんて上級エクソシストは化け物ね。
慌てて駆け寄った天使は祈りのポーズで音路を回復させた。
天使が使う回復魔法は死者をも蘇生できるといわれてる。
レモンの回復魔法とはダンチだ。
音路は一瞬で全快して立ち上がった。
「逃げてもいいぞ?子どもらは置いて行ってもらうがな。ガハハハ!」
赤鬼の侮辱に音路は静かな怒気を発した。
怒髪天を衝くじゃないけど長髪が少し舞い上がって見える。
天使はなだめるように音路を後ろからそっと抱きしめた。
音路と天使の体が強く光る。
天使が消え音路の背中に翼が生え頭上に光輪が出現した。
人と天使はひとつになり境内に漂っていた邪悪な気が霧散して聖なる気が満ちる。
「ぬっ?」
赤鬼はただならぬ気配に眉を寄せた。
「地獄にお還り」
音路が翼を羽ばたかせた次の瞬間、赤鬼の首は飛んでいる。
「!?」
すれ違いざま目にも止まらぬ速さで切ったのだ。
音路の真の強さを見せつけられて背中がゾクゾクする。
あの鬼を瞬殺・・・
あたしもあの強さが欲しい!
石畳に転がり首だけになった赤鬼は怒りをあらわにした。
「きさま実力を隠しておったな!」
「能ある鷹は爪隠すだよ。きみも弱者をいたぶるのが好きだんったんでしょ?」
「この屈辱は決して忘れぬ!地獄で待っておるぞ!」
「私は天国に行くから永遠に待ちぼうけだね」
「ならばここで殺す!」
赤鬼の首はぴょんと跳ねる。首だけになっても噛みつこうとするなんてさすが鬼だ。
音路は赤鬼の顔面を剣で貫く。
「んげっ!?」
情けない悲鳴をあげて赤鬼の頭は消滅した。
「あらら?」
一息ついて振り返った彼女は胴体がないことに気づく。
赤鬼の体はあるじを失っても動きを止めずお尻に帆をかけて逃げ出していた。
逃すまいとナイトとチョコが赤鬼の両腕に噛みつき朝陽とびぐるが両足をつかんで転がした。
あたしは後ろにひっくり返った赤鬼の心臓を正面から刀で突き刺す。
首を失って魔力の大半を失っていたのか簡単に貫けた。
胴体が消滅する。
あたしは体に力がみなぎってくるのを感じた。
トドメを刺したのはあたしだ。
莫大な経験値はあたしに入った。
「子どものくせに鬼と戦うなんて死にたいの?」
音路が飛んでくる。
「チョコお願い!」
「バウバウッ!」
あたしの号令でチョコが音露に飛びかかった。
「わわっ!きゅうにどうしたのワンちゃん?」
音路はじゃれついてくるビーグル犬に手をとられる。
彼女は犬好きで保護犬を飼っているという情報も得ている。
チョコが足止めしてくれてるすきにあたしたちは脱兎のごとく逃げ出した。
音路に追いつかれないように階段じゃなくて獣道を通って山を駆け降りる。
彼女は上空からあたしたちを探していたけど、どうにかみつからずにびぐるの家まで逃げ帰った。
疲れ果てて3人で泥のように眠る。
次の日の夜まで寝て近所の焼肉屋で祝勝会を行なった。
「かんぱ〜い♩」
ジュースとお茶で乾杯する。
「いやあ、まじで死にかけたな」
「作戦通りうまくいったね♩音路さん来てくれないかと思ったよ」
「来るに決まってるわ。担当地域なんだから」
政府公認のエクソシストは担当を任されている地域の見回りを深夜に行う。
音路が毎晩巡回しているわけではなく何人ものエクソシストが交代で行っている。
下級エクソシストは暴れてる悪霊を発見して自分で手に負えないと感じた場合は上級のエクソシストに連絡する。
音路が神社に見回りにくればそれでいいし、ほかのエクソシストが見回りに来ても鬼の妖気の強さを感じればただ事じゃないと思って音路に連絡するはずだと読んでいた。
あたしたちの作戦は上級エクシストから強敵のトドメを横取りすることだったのだ。
強い悪霊はしぶといからトドメを刺したと思っても生きてることが多々ある。
事実、赤鬼は首だけになっても生きてた。
「あれ?まだ生きてたのか。ちゃんとトドメを刺さなきゃ」という流れのなかで一瞬だけ生まれる空白を突いた。綱渡りだったけど、作戦は大成功だ。
「あたしの進化した守護霊をとくとご覧あれ」
「お〜〜っ!」
「わ〜〜っ!」
あたしの背後に長靴を履いた猫が出現する。
服は三銃士、頭にはテンガロンハット手にはフェンシングで使うフルーレを持っている。
「わーかわいい♩強そー」
朝陽は長靴を履いた猫に抱きつく。
「メロいぜ」
「でしょ?この世で猫は1番かわいい生き物なのよ」
あたしは鼻を高くする。
「でもさぁ危ない橋を渡らなくても音露さんにお願いしてトドメを横取りさせて貰えばよかったんじゃねーか?」
「トドメを譲ってくれるわけないでしょ。弱いくせに欲深いエクソシストが巨大な力を手にしたらどうすると思う?」
「悪いことに使う!」
「そう。だから、政府は地道にレベルアップさせるようにエクソシストの教育方針を決めてるの。意図的に強敵のトドメを奪ったなんて知られたら粛清されるわよ」
「粛清って?」
「処刑」
あたしは舌を出して首を手で切る真似をした。ギロチンだ。
「いやぁ!」
朝陽はムンクの叫びの顔になる。
「横取りは禁断の裏ワザだったんだな」
「政府に捕まりそうで怖い。ぶるぶる!」
「アリはゾウを罰せられない。政府の力を上回ればいいだけ。政府に捕まる前に2人の守護霊も最終形態に進化させるわよ。今夜、さっそく高難度ダンジョンをクリアしましょう」
「うん!」
「おうよ!」
2人は新たな力を渇望して目を輝かせる。
焼肉を食べ終わったあと、あたしたちは有名なおばけ屋敷向かった。




