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仲間探し

あたしの名前は黒井夜霧くろいよぎり13才。

黒髪ロング猫目の美少女だ。

スタイルもいいし肌も雪のように白い。

だからめっちゃモテる。

あたしと釣り合う男なんて下界にはいないからだれとも付き合う気はない。

神となら付き合ってもいいけど神は天界に暮らしてて地上に降りてくることはまずない。

下界の問題は人間に解決させる方針だからだ。

天界人は下界のトラブルはすべて人間を成長させるための試練と考えている。

たとえ世界が崩壊しても作り直せばいいだけなので手出しするつもりはない。

気まぐれで気に入った人間がいれば神が助けてくれるかもしれないけど、奇跡には極力期待しないほうがいい。

桜舞い散る春。中学校に入学したあたしはお昼休みに各クラスを見回った。

あたしは美少女特権でどのクラスにも自由に侵入できる。

「何しに来たの?」って理由を聞かれたら「気の合う友だちを探してるの」って答えればいい。

そうするとみんなあたしを取り囲み自己PRしてくる。

みんな美少女で頭も良くて運動神経がいいあたしとお近づきになりたくてしょうがないみたい。

お可愛いこと。

あたしは微笑みを浮かべて居並ぶ生徒たちに目を凝らす。

みんなの背後にはポテンシャルを感じる守護霊はついてなかった。

そもそも目を凝らさないと見えないレベルじゃ意味ない。

強い守護霊は目を凝らさなくてもはっきりと視える。

存在感が濃いのだ。

ここにいるみんなの守護霊はおじいちゃんおばあちゃんばかりで戦闘向きじゃない。

守備的で防御向きだ。

あたしの探している人材じゃなかった。

よく見ると落武者の守護霊がついているのもいる。

弱い弱いぜんぜんお話にならない。

できれば天使や侍が望ましい。

動物ならライオンやパンサー。

幻獣ならドラゴンやフェニックスね。

でも、めぼしい人材はすでに政府がスカウトしてふつうの学校にはいない。

内心でため息をつく。

あたしの暮らすこの世界には悪霊が存在する。

憎しみや怒り悲しみ恐怖など人間のネガティブな感情が悪霊を生み出すのだ。

それを退治するのがエクソシストである。

エクソシストには強い守護霊がついていて守護霊の力を借りて悪霊と戦っている。

悪霊を退治することでレベルアップして守護霊も強くなる。

とはいえ、最初からある程度強くないと話にならない。

おじいちゃんおばあちゃん、落武者の守護霊じゃ悪霊と戦って勝てるわけない。

もっと強い守護霊がいる。

1階のクラスをぜんぶ見回ったあたしは2階に上がった。

今度は2年生だ。

2年生たちも美少女であるあたしに好奇心あふれる視線を浴びせかける。

あたしは彼らをチラ見して微笑した。黄色い悲鳴が上がる。ちょろいな。

すべてのクラスを見回ったけど、ここにも求める人材はいない。

見逃しがあるといけないからお手洗いに向かう。

みんな振り返るし道を開けてくれる。優越感が超気持ちいい。

守護霊的にもあたしがモテるのは当然だ。

あたしの守護霊は黒猫で名前はナイト。

猫の愛らしく気ままで自由な雰囲気があたしの全身から常に発せられてる。

猫が嫌いな人間はいない。なので絶大な人気がある。

ナイトは足もとをうろちょろしたり肩に乗ったり頭に乗ったりつねにくっついてくる。

悪霊から身を守ってくれる守護霊は前世をふくめてもっとも縁が深い者だ。

あたしは前世で天界に暮らす猫族だったし猫もいっぱい飼ってたから猫との縁が深い。

動物や虫の守護霊は珍しくてほとんどの人がご先祖様だ。

幻獣はもっとめずらしい。

天使は特殊な守護霊で天界から下界に散歩に来て気に入った人間にとりつく。

天使が気にいるのは日頃の行いが良くてたくさん徳を積んでる魂のレベルが高い人間だ。

天使が降りて来たらそれまで主人を守っていた守護霊は天使にバトンタッチして天界に還る。

守護霊が強くて政府にスカウトされた人間はエクソシストに認定されて悪霊退治の仕事をしていた。専業もいるし兼業もいる。

ラーメン屋さんやアイドル活動しながら悪霊退治しているエクソシストもいる。

政府のスカウトを断ってフリーで悪霊退治している野良エクソシストも多い。

お上に縛られるのが嫌いなエクソシストも多いのだ。

エクソシストは悪魔とも戦う。

悪魔は悪霊が取り憑いた人間で悪魔は人間の魂が好きでとくにけがれなき魂を好む。

人間の魂を喰うとレベルアップするみたい。

あたしなんて極上の魂の持ち主だからヨダレをたらして欲しがるでしょうね。

エクソシストの才能ある子どもは政府の用意した特別な学校で悪霊退治の特殊訓練を積むことになるからふつうの学校には来なくなる。

あたしも本来ならエクソシスト専門学校に入学できるんだけど、行動の制限がされちゃうからふつうの学校に通ってる。

野良エクソシストだと好きな心霊スポットに行ってもいいしどんな悪霊と戦ってもいいけど、政府公認のエクソシストは指定された区域の心霊スポットにしか行っちゃだめだし、自分のレベルにあった悪霊としか戦っちゃいけない。

決まりを破るとペナルティで地下牢に拘束される。最悪の場合、処刑だ。

政府の指示を聞いてたら今世でこれ以上のレベルアップは望めない。

危険をおかしてでも強い悪霊と戦うためには野良の身分が都合がいい。

あたしの守護霊は黒猫は赤ちゃん猫だったけど成人まで育てあげた。

1人で家を出ることが許されるようになった7才からビー玉ぐらいの害がない悪霊を倒しまくってレベルアップさせて最近はバスケットボールぐらいの大きさの悪霊は楽勝だ。

いまも地道にレベルアップを続けている。

守護霊のレベルアップは悪霊を倒すか徳を積むかの2択だ。

あたしは悪霊退治だけでなく親の手伝いやいじめられっ子を助けたりボランティアのゴミ拾いも行って子猫を成長させた。

本来なら赤ちゃん猫が成人した猫になるのは来来来世まで待たなきゃならなかったはずだ。

げきよわな守護霊で悪霊退治なんかだれもやらないだろうし徳を意識的に積んだりもしない。

あたしだからこそ達成できた快挙といえる。

だれにもほめられないのが悲しい。

お手洗いに入るとおとなしそうなそばかす少女が不良女子生徒5人に取り囲まれていた。

お腹を殴られたり足を蹴られたり髪を引っ張られたり誹謗嘲笑を浴びせられてる。

絵に描いたような典型的ないじめだ。

「なにしてんの?先生にチクるわよ。あんたたちの親にも連絡が行くでしょうね」

腕組みしてにらみつけるといじめっ子たちは舌打ちして去っていった。

いじめられっ子はおずおずと近寄ってくる。

「・・・ありがとうございます」

「おどおどしてるからいじめられるのよ。まず猫背を直したほうがいいわ」

「・・・はい」

よわよわしい返事だこと。立ち去る前にいちおう守護霊を確認しておく。

少女の肩にもそもそとうごめく小さな物体が視えた。

「イモムシ」

「えっ?」

「悪くないわね」

あたしはニヤリと笑う。

イモムシはチョウに進化してチョウはピクシーに進化する。

ピクシーまで育てるには気が遠くなるほど時間をかけなきゃいけないから政府のスカウトはイモムシなんか相手にしないでしょうね。

チョウまで進化してたら少しは育てる価値はあるけどイモムシでは鍛える時間がかかりすぎる。

ふつうならチョウまで進化するのは来来来来来来来世ぐらいまでかかる計算だ。

天に届くほど徳を積み続けないといけない。

あたしはみずぼらしい少女の手を取った。

「あたしは黒井夜霧。あなたの名前は?」

「蝶野朝陽です」

「なんで敬語なの?あたし一年生よ」

「あっ、そうなんだ。堂々としてるから三年生かなって」

「あたしたちお友だちになりましょう♩」

あたしは両手でぎゅっと朝陽の手を握った。

朝陽の顔が赤く染まる。

「わたしなんかでよければ」

「いいに決まってるじゃない♩お昼は食べた?」

「まだだよ」

「一緒に食べましょう」

あたしは朝陽の手を握って廊下を歩く。

みんなの視線が集まり朝陽はとまどっている。

「教室は何組?」

「2年1組」

「お弁当とってきなよ。外のベンチで食べましょう」

「うん」

あたしは朝陽と一緒に噴水前のベンチでランチした。

「あたしがそばにいればいじめられることはないから安心なさい」

「ありがとう」

「いままでご飯はどうしてたの?」

「トイレの個室で1人で食べてた」

「ぼっち飯ね。じめじめして心の健康に悪そう」

話しを聞くとトイレの個室でお弁当を食べてたらいじめっ子に上からホースで水をかけられたりして大変だったようだ。ほかにも上履きを隠されたり画鋲を入れられたり教科書を隠されたりひどい目にあっていた。まったく学校は何をしているのかしら。こんなんだから子供の自殺が減らないのよ。

かわいそうだから卵焼きとミートボールをあげる。

「これ食べて元気出しなよ」

「ありがとう。おいしい♩」

朝陽は顔をほころばせる。笑うとかわいい。

「いじめられるのは言い返さないのも悪いのよ。やられたらやり返す。先生にチクる。周りにも言いふらす。自分の親にも相手の親にも言えばいいのよ。反抗してくる相手はめんどくさい奴だと思われていじめの対象にならないわ。先生も親もやり返したらダメ!相手と同じレベルになる!とか言うけど、そんなわけないんだからね。なんで悪いやつに反撃したら同じレベルになるのか論理的に教えてほしいわ。おとなしい言い返せない子供を狙っていじめる卑怯者は鬼畜の所業でこっちは正義の鉄拳でしょ?もちろんやりすぎはダメよ。同じだけのダメージを与えるの。自分の命と人生は自分で守るのよ!」

「でも怖いし復讐されるかも・・・」

「あなたが怖いと思う相手はあたしだって怖いわよ。みんなだって怖いでしょうね。だけど、あたしは立ち向かうわ。勇気を振り絞るの。仏教の教えでは因果応報だから罰は神に任せなさいって教えてるけど、あれは支配者に反抗すればすぐにクビを切られる時代だったからそう教えてるだけ。今も独裁国家は反抗する市民の命を簡単に奪うけど、あたしたちが住んでる国はそうじゃないでしょ?いじめっ子に反抗したところでめったに殺されるないわ。いじめっ子は実は気が弱いことが多いの。めったにない可能性を恐れて怯えて生きるのは臆病者よ。勝利と栄光をつかむには傷を負う覚悟が必要不可欠なの」

「・・・黒井さんはきれいだし強いからわたしの気持ちなんてわからないよ」

「わかんないけど、それは問題じゃあない。あなたは練習が足りないだけ。言い返す練習、殴り返す練習をすれば反射的に考えるより先に反応できるようになるわ。これから放課後は毎日、練習だからね」

「ひえ〜〜〜」

「背筋を伸ばす声を強く発する練習もするわ。本体、こんなことは親や学校が教えることなのにまったくどうしようもない世界ね。親も先生も子供がおとなしく言うことを聞くほうがいいから嫌なことされても反抗するなって教えるのよ。会社の上司や先輩もそう。理不尽な命令にもおとなしく従う社畜がいるから逆らわない教育を子供の頃から徹底的に教えてるんだわ。現代人はもっと野性を取り戻すべきね」

「黒井さんは外見に似合わず好戦的だよね」

「夜霧でいいわ。外敵から身を守るには強くなきゃダメだと常に肝に銘じているし体も鍛えてるわ。牙を失った狼は家畜にされるだけよ。自分を見失わないためにも強く生きなきゃダメなの」

「いつか神様が罰を与えてくれるならわたしがやり返す必要はないんじゃないかなぁ」

「他力本願寺はやめなさい。確かに人にしたことはいいことも悪いことも100%跳ね返るけど、来世かも知んないしもっと先のタイミングかもしれないしいつになるかわかんないわ。神様の仕事を減らすためにも当事者がその場でやられた分だけやり返せばいいのよ。相手が機関銃持ってるなら話は別だけどね」

「ふふ。夜霧ちゃんはおもしろいね」

「そう?ふつうよ」

「ぜったいふつうではないよ」

「いずれあたしの価値観が常識なりふつうになるわ。時代が追いついてないだけ」

「そう言う考え方もあるね」

「とにかくあなたはあたしの思考と行動をコピーしなさい。そしたらぜったい幸せになれるから」

「あい」

「運がいい人や物や場所の近くには1秒でも長くいたほうがいいのよ。運が良くなるわ」

「人間パワースポットだね。わかった。なるべく夜霧ちゃんのそばにいるよ」

朝陽はあたしに身を寄せて来る。

「よろしい」

あたしは満足してうなずいた。

放課後。

朝陽の家にお邪魔した。

庭付きのこじんまりした家だ。

両親は共働きで夜に帰ってくるみたい。

朝陽の部屋はきれいで動物のぬいぐるみが3体ある。

花畑を舞うチョウの絵も飾られていた。

「チョウ好きなの?」

「うん。むかし野原で蜘蛛の巣に引っかかってるチョウを助けたこともあるよ」

「そう」

やはりチョウと縁が深いのね。虫系の守護霊はレアだから希少価値が高い。

必ずピクシーまで育て上げるわ。

あたしはマンツーマンで朝陽を鍛え上げた。

あたしが悪口を言えばすかさず言い返す練習、髪を軽く引っ張れば瞬時に引っ張り返し、頬を軽く叩けばすぐさまはたき返す練習だ。

最初はたどたどしくてのろかったけど、だんだん早くなってきた。

反射神経が鍛えられてる。

背筋も伸びてなかったら背中を叩いて伸ばさせた。

河原で空手や投げ技も伝授した。

「夜霧ちゃん格闘技習ってたの?」

「ネットで動画見て研究しただけよ。うちは貧乏だから道場に通うお金なかったわ」

「へーっいがい。お嬢様かと思ってた。気品があるし清潔感がすごい」

「前世では王族だったわ。大きなお城に住んでたの。いまは木造のボロアパート。落ちぶれたけど、いずれもとの生活を取り戻すわ」

「前世の記憶あるんだ?」

「もちろんよ」

だからこそ霊や魂にくわしい。前世の知識がなければ守護霊の赤ちゃん猫を13年で成人猫まで育てるなんてできっこない。

「前世のはなしきかせて♩」

「長くなるからまた今度。暗い話だから覚悟なさい」

「ホラーは苦手・・・」

朝陽は聞く前から怯えてる。

なるべく長い間、朝陽にくっついてあたしの運気をわけてあげた。

朝陽の両親はやさしい人で夕飯を毎晩ごちそうしてくれる。

朝陽は虫ばかり追いかけて友達がいない子だから優等生の美少女の友達ができて両親はうれしかったようだ。

たくましくなった朝陽を校舎裏でわざと1人にさせていじめっ子が襲ってきたところを返り討ちにさせる。

あたしはこっそり木陰から覗いていた。

朝陽は暴言を吐かれたら吐き返し、髪を引っ張られたら殴られたら殴り返していた。

「いままでのぶんもお返しするね」

朝陽はいじめっ子たちをコテンパンにのした。

ひとしごとおえたように手をぱんぱん叩く。

「もう2度とわたしの前にその汚い面を見せないでよね」

地べたに転がったいじめっ子たちに背を向けてさっそうと立ち去る。

あたしが教えたセリフも完璧。

朝陽は木陰に隠れていたあたしに気づく。

「夜霧ちゃん♩」

「よくやったわ。さすがあたしの弟子ね」

「押忍!師匠!」

朝陽は敬礼する。あたしたちは戦勝祝いに和菓子屋さんで串団子を食べた。

翌日、朝陽がいじめっ子たちに復讐を果たしたことは学校中のウワサになり朝陽は一躍英雄になる。まあ、あたしが広めたんだけどね。

朝陽の机の周りには人が集まり朝陽の人気は爆発した。

お昼休み2人でいつものようにランチを食べていると目の前をパンとジュースを抱えて猛スピードで走る男子生徒を目撃した。朝陽ははしを止める。

「あの子、不良のパシリにされてるんだね。かわいそう」

「・・・子犬」

「えっ?」

あたしは立ち上がった。

いまの子、ビーグル犬の赤ちゃんがついてた。

ビーグル犬は猟犬だ。戦闘タイプの守護霊は育てる価値がある。

影が薄いからいままで見逃していた。

「助けてあげるの?夜霧ちゃんはやさしいんだね〜」

「行くわよ」

あたしは朝陽と2人で不良生徒の溜まり場である校舎から遠く離れた木造の小屋に向かった。

体育で使うマットやコーンが置いてある体育倉庫だけど不良が合鍵を作り休み時間は占領していた。

何度合鍵を変えても壊したり新しい合鍵を作ったりでイタチごっこになっているらしい。

退学にすればいいのよ。

プレハブ小屋では正座させられて不良たちからリンチを受けてるさっきの男子生徒がいた。

「なんだおめえら?出ていきやがれっ!」

学ランを着崩した金髪の不良が怖い顔で怒鳴る。

こいつがボスね。ひいふうみい・・・ぜんぶで6人か。

守護霊からも見離されたのかなんにもついてない。

かわりに貧乏神と疫病神と死神が取り憑いている。

クズね。ゴミ箱にポイしなきゃ。

「今週はいじめ撲滅週間よ。いじめっ子は粛清します」

あたしは拳を鳴らす。

「いじめはダメ!ぜったい!」

朝陽は手を突き出した。薬物防止のポスターの真似ね。

「みぐるみはがしてやれ!」

ボスの命令で子分たちが襲いかかってくる。

あたしは殴りかかってくる相手を投げ飛ばして別の不良にぶつけた。

守護霊の黒猫ナイトは朝陽に襲いかかる不良の顔を爪で引っかく。

「おわっ!痛え!」

不良の顔面が切り刻まれて血が吹き出る。両手で顔をおおう不良のお腹に朝陽がキックをぶち込むと壁まで飛んだ。

ナイトはほかの不良のクビに飛びつき頸動脈のかぶりつく。

「クビはダメ。死んじゃうわ」

ナイトは不良のほっぺを噛みちぎった。

「ぐわぁ!」

赤く染まった頬をおさえる不良の顔面に朝陽は正拳突きをぶち込む。

そのあいだにあたしはほかの不良の顔面に飛び蹴りを喰らわす。

倒れたら後ろに回り込み首を絞めて落とした。

姿の見えないナイトが飛び回り爪と牙で不良たちをほんろうして、そのすきにあたしと朝陽は会心の一撃をぶち込む。あっという間に決着はついた。

「もし次にこの子をいじめたらあんたに凶暴な悪霊を取り憑かせて殺すわ。悪霊がいたのわかったでしょ?」

尻もちをついておしっこを漏らしているボスに冷たい視線を送る。

「返事は?」

「はいっ!」

ボスは正座して叫ぶ。あたしたちは体育倉庫をあとにした。

「ありがとうございます!」

男子生徒がお礼を言ってくる。

「当然のことをしたまでよ」

子犬の守護霊がついてなかったら助けなかったけど。

「夜霧ちゃんかっこいい♩」

「あなたお名前は?」

「犬山びぐるです」

「あたしは夜霧、この子は朝陽。あたしたちお友だちになりましょう」

「えっ?いいんですか?よろこんで」

びぐるは喜色を浮かべる。

肩に乗ってる守護霊の子犬もしっぽを振っている。

「同じ一年だから敬語じゃなくてもいいわ」

「わたしは二年だけど敬語じゃなくていいよ」

「わかりました。いや、わかったぜ」

「ねえ、さっきのケンカ、見えない力が手を貸してくれたみたいに感じたけど本当に悪霊だったのかな?」

「あれはあたしの守護霊。黒猫のナイトっていうの」

「うそっ!夜霧ちゃんエクソシストなの?」

「みんなにはないしょ」

あたしは唇に指をそえる。

「うん!すごい!かっこいい!」

「生エクソシストはじめてみたぜ。やべえ」

2人とも興奮している。

「エクソシストって言っても野良だし強さ的にはD級よ。たいしたことないわ」

エクソシストには階級がある。1番上がA級で1番下がD級にわかれている。

規格外の強さはS級と呼ばれる。

強さは霊力の強さで測る。

握力測定器みたいな装置が学校にも置いてあって好きに測ることができる。

記録はネットを通じてエクソシスト協会に届く。

すごい数値だと政府の人が確認に来る。

霊力が急激に伸びる子なんていないんだけどね。

たまに起こる奇跡に政府も期待してるんでしょう。

「放課後、喫茶店でお茶しましょ」

「うん!」

「おう!」

学校が終わったあと、あたしたちは駅前の喫茶店に集まった。

3人分にホットケーキとコーヒーを注文する。

あたしのおごりだ。悪霊が落とす魔石を換金しているので資産には少し余裕がある。

「あの不良たちから逃れても、今のままのあなたじゃこれから先の人生いじめっ子に好き放題されるわ。どうせクラスメイトにもいじめられてるんでしょ?」

「これからびいじめっ子にやり返せる練習をします。びぐる、あなたの家でいいわ。放課後、毎日ね」

「ありがてぇ。たのんます番長」

「だれが番長よ」

「わたしも夜霧ちゃんのおかげで強くなれたの。びぐるくんもきっと強くなれるよ」

「燃えてきたぜ!」」

びぐるは拳を固めて目に炎を宿す。

びぐるの家は大きいお屋敷で裕福な家庭でびっくりした。

彼はおぼっちゃんだったようだ。

前世の行いが良かったみたいね。

びぐるの広い部屋には大きなソファーがあり、座り心地も最高だった。

柴犬を飼っていてびぐるに部屋に入ってくる。柴犬とじゃれつく。

「朝陽は犬好きなんだな?」

「うん。犬といっしょにいると自然に笑顔になっちゃう」

「あたしは猫のほうが好きだけど犬も嫌いじゃないわね。従順だから」

朝陽の抱えてる柴犬の頭をなでる。とても気持ちよさそうだ。犬の笑顔に癒される。

あたしはハッとする。

「まったりしてる場合じゃなかったわ。さっそくトレーニングを開始しましょう」

講師は朝陽にやらさせてみた。

まあ、あたしが教えたことを教えさせてるだけなんだけどね。

「ビクビクしてるからいじめられるんだよ。堂々としてたらいじめられないよ。姿勢も大事。背筋を伸ばす!嫌なことをされたら反射的に反撃すべき。やられたらやり返す。理不尽なことされて黙ってたらだめ。立場とか上下関係とか関係ないんだからね。自分の心がスッキリすることが大事なの。なぜかと言うと暴力は弱いほうに向くから。嫌なことされたらやり返せないから自分より弱い人に暴力や暴言を向けるの。負の連鎖だよ。会社でいじめられたら後輩や自分の子供をいじめたりね。自分がやられたことよりもっとひどいことをする。だから加害者本人にやり返すのが1番いいの。自分のところで負の連鎖を断つんだよ。それにやられても水に流せる心の広さがある人間ばかりじゃないってことを加害者に教えてあげるためにもいいことなんだよ。お前は地雷を踏んだのだ!ってね。トラウマを植え込めば人をいじめなくなるでしょ」

「なるほどな!これからはきっちりやり返すぜ!」

びぐるは背筋をしゃきんと伸ばす。

「いじめっ子も家でいじめられたり、いじめられた過去があるのかもしれないけど、だからと言って自分より弱い人間にやり返してもいいわけじゃない。立場が弱い人間や気が弱い人間、体が弱い人間、おとなしくて逆らえない人間をいじめるのが1番卑怯で醜い。悪は懲らしめるべき」

「その通りだぜ!世直しだな!」

「そりゃ水に流せるのが1番いいよ?どうせ加害者にはバチが当たるんだし。でも、PTSDになって心が苦しいんだったら、相手に嫌だったと言う気持ちを伝えたりやられたことをやり返すのが正解だよ。加害者のために自分の命を断ったりなんかしちゃ絶対ダメッ!自分の命を優先しよう♩」

「わかった。自分の命を優先するぜ」

「じゃあ、わたしが悪口を言ったらすぐに言い返す練習。デコピンしたら瞬時に同じ強さでデコピンし返す練習するね」

「おうよ!さあ来い!」

朝陽との訓練でびぐるは反射神経が鍛えられてダメージを与えられたら瞬時にやり返すクセが身についた。1週間後、だれもびぐるをいじめようなんていう輩はいなくなる。

あたしたちがついていない時に何度かいじめられそうになって、それをぜんぶ返り討ちにしたのだ。

びぐるが生まれ変わったという評判はすぐに学校中に広まる。

反抗する牙を持つ相手をいじめようとする愚か者はいない。

噛み付かれるのが嫌だからだ。

いじめっ子は常にやり返してこない弱い相手を探す嗅覚が優れているのだ。

2人の日常生活を安定させることに成功したあたしは計画を次の段階に進めることにした。

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