復讐神
天界の支配者となったあたしは猫族の地位を引き上げた。
天界の最上層にある特級神・1級神住んでた居住エリアへの移住も進める。
大きな国もつくってあげた。
国を持たない民として今までさんざん苦労してきたのだから当然の処置だ。
犬族と蝶族の地位も特級神に引き上げる。
側近であるびぐると朝陽の同族なので大事にしたい。
ネズミ族の王族は三族に渡って粛清する。
いままでに積み重ねたかずかずの罪を清算してもらっただけ。
将来、復讐に走る子孫が現れないように禍根はひとつも残さない。
どうせ転生するだけよ。
あたしのように徳を積んで天界に戻ってくればいい。
前世の記憶はないから彼らが復讐に走る心配はない。
復讐の連鎖は断ったし敵討完了ね。
亡くなった兵士やお父様たちのために大きな墓も建てる。
超格差の是正のために富の再分配を考えていたけどやめたわ。
貧乏人が努力しなくなるもの。
何もしなくても最低限暮らせるなら民はなまける。
下界でいう共産主義だ。
誰も労働しなくなったら国は滅ぶ。
やはり実力主義の社会が望ましい。
神から与えられた能力を磨いて天界をよくするために働きあたしに尽くす者には大きなごほうびを与える。
貧しい生活から抜け出したいなら地道な努力をするべきなのよ。
あたしは王族から下界の貧困層に落とされても天界の支配者まではいあがれた。
いまは下界の家も豪邸だ。
シングルマザーの母親にもいい暮らしをさせてあげてる。
みんな見習ってほしい。
能力がないのに家柄だけでいい暮らしをしていた連中からは既得権を取り上げた。
とくに干支たちは自分たちのブランドのあぐらをかいてたから4年に一度の入れ替え戦も執り行うようにする。
権力は命がけで戦って勝ち取るべきだもの。
そのせいであたしに対する恨みを抱き反乱や暗殺をくわだてた者はことごとく粛清した。
あたしに逆らっても無駄なのに逆らおうとする連中がなんと多いことか。
あたしの完璧な治世を邪魔するおろかものは残らず全員粛清だ。
政治運営でばたばたする毎日が続く。
天界で1番えらい神はやはり忙しい。
半年後。ひさしぶりに朝陽がやって来る。
いろいろ忙しすぎて会う暇も作れなかった。
応接間で対面する。
和式なので座布団に丸テーブルだ。
ミミが団子とお茶を運んできてくれた。
「いまだに学園に通ってるんですって?」
「学生だからね」
「あたしもびぐるもとっくに通ってないわよ。あたしたちは単位なんかなくても卒業できるんだから行かなくてもいいのに」
「友だちもいるし。授業もおもしろいよ♩」
「学びたいことがあれば家庭教師を雇うほうが効率的で時短だと思うけど。それができる財力もあるんだし。まあいいわ。あなたの自由になさい」
「うん♩」
朝陽はお団子を美味しそうにもぐもぐする。
「普段着着物にしたんだね。おしゃれ」
「和風の居住エリアにいる時は着物。洋風の居住エリアではドレスを着てるわ」
「家いくつ持ってるの?」
「5つかしら。和風・洋風・南国風・北国風・宇宙風の居住エリアにお城とお屋敷を持ってるの。今度、案内するわ」
「楽しみ♩」
お団子を食べ終えた朝陽はお茶を飲み干す。
「それでぇ、ちょっと言いにくいんだけど、ここに来る前に天界を観光してきたの。猫姫ちゃんの悪いうわさをたくさん聞いたよ」
「改革者は嫌われるものよ。いちおう聞いておきましょうか」
「猫姫は猫族を優遇しすぎてる!最近の猫族は横暴だ!って不満が噴出してるよ。猫族は遊んで暮らしてるし身分が下の者にひどくあたるって。ケンカしてもいじめをしてもどんな悪事を働いても猫族は罰せられないって」
「いままで自分たちが猫族にしてきたことを仕返しされてるだけじゃない。甘んじて受け入れるべきね。猫は可愛いから無罪よ」
「猫族に権力と富が集中してきてる!独り占めせずわけあたるべきだ!ってみんな怒ってる」
「犬族と蝶族にも権力と富をわけあたえてるわ。あたしは信頼できる者に権力とお金をわけ与えるの。忠誠と実力を示してあたしの信頼を勝ち取ればいいだけ」
「粛清の嵐で恐怖政治だ!ってみんな嘆いてた。
猫姫ちゃんの悪口を言っただけで粛清の対象ってほんと?」
「放置すれば威信に傷がつくでしょ」
「心が狭すぎ。寛容な心が大事だよ。食糧支援と富の再分配と選挙の実施を求めてデモを起こした市民を神の軍で鎮圧したって事件も聞いたよ?市民は武器を持ってなかったって」
「神罰よ。不平不満ばかりの怠けものをちょっと懲らしめただけ。文句あるなら武器を持ってかかってくればいいのよ。あたしたちがそうしたように。ボッコボコにして返り討ちだけどね。うふふ」
朝陽はまゆをひそめる。
「猫姫ちゃんは調子に乗って傲慢になってるよ。やさしかった猫姫ちゃんはどこに行ったの?道徳中心の社会を作るんだって言ってたのにこれじゃ暴力中心の社会だよ」
「あれは間違いだったわ。あたしの頭はお花畑だったのよ。言葉だけじゃだれもいうことを聞かない。神も人と同じで欲望にまみれた怠惰な生き物だと気づいた。あたしは天界の発展のためにみんなのお尻を叩いて馬車馬のように働かせてるの。心で泣いて顔で笑って過ごす日々は辛いわ」
袖で目元を拭い泣くふりをする。
「嘘だね。ぜんぶ猫族のためじゃん。猫族の繁栄のためにみんなを利用してる。こき使ってる。平家は一族の繁栄を独占し貴族や他の武士から強い反感を買って滅亡した。猫族もいずれ同じ末路をたどるよ」
「そうならないように動いてるわ。打つ手はある」
「異世界への侵攻だよね?人間界・魔界・地獄界・妖精界に攻め入るつもりでしょ?
侵略した世界の資源や土地を褒美に与えることで民衆の不満をそらすつもりなんだ」
「どうして知ってるの?幹部しか知らないはずなのに」
「秘密」
「盗聴器でもしかけてたのかしら?いやらしい子」
「富をわけ合わず貧困を放置しているのは、お金で支配できる社会が都合がいいからでしょ。最低限食べていければ横暴な猫族の下に労働者が集まらない。嫌な思いをしてまでお金を稼がなくてもいいもの。猫族が横暴な態度を改めたとしても労働者を集めるために今よりも多くの賃金を渡さないといけない。そうなると猫族のため込んだ資産が目減りする。猫族は魅力的な紳士淑女になる努力を放棄したんだ。横暴に振る舞えるほうが楽しいから。貧困層を戦争へ参加させる目的もある。従軍すれば食べものがもらえてお金ももらえる。英雄にもなれるかもってなれば貧しい人は戦争に参加する。あなたの支配欲の強さはとどまることを知らずこんどは異世界まで支配下におさめようとしてる。暴虐武人な振る舞いをわたしはもう見逃せない」
「見逃せないならどうするというの?」
「決闘だよ。わたしが天界をもらう。猫姫ちゃんには任せておけない」
「へえ。恩知らずね。あなたなんて本来、クラスの3軍のいじめられっ子であたしがいなきゃ来来来来来来来世、いや何度生まれ変わっても今のレベルまでぜったいに到達できなかったのに。恩人に刃を向けるというの?」
「わたしとびぐるくんを育てたのは自分の野望を実現するためでしょ?
野望の実現にはなん度も命を賭けて協力した。恩着せがましいこと言わないで」
「いいわ。あたしに逆らうものはだれであろうと粛清する。もうあなたは用済みよ」
朝陽は立ち上がる。
「アテネ神殿の跡地で待つ。準備できたら来て」
決闘の場所を告げると応接間を出て行った。
あたしは自室に戻り戦闘服に着替え魔剣と魔銃を装備する。
絶対服従の部下を育てたつもりだけど思うようにはいかない。
思い通りに動かない駒は斬るしかない。たとえ親友でも。
あたしはアテネ神殿に向かった。
かつて巻き起こった神々の戦争で崩壊した神殿だ。
神同士で争うという馬鹿げた過ちを繰り返さないようにそのままの形で残してある。
アテネ神殿は町からめちゃくちゃ離れているし派手に暴れても大丈夫そうだ。
アテネ神殿が見えてきた。
神殿は崩れていて古い歴史を感じる風情がある。
神官が手入れしているのか雑草はなくところどころ花が咲いていた。
折れた神殿の柱に座っていた朝陽は立ち上がる。
魔銃に対抗するためか腰に花柄の妖精銃を装備していた。
「また妖精女王にもらったの?おねだりがうまい子ね」
「妖精界は天界と戦争したくないんだよ」
「それならおとなしく妖精界を差し出せばいいのよ。怪我しなくて済む」
「暴虐無人の王に国を差し出すわけないでしょッ!」
朝陽は妖精銃を抜いて撃ってくる。
虹色の光線が襲ってきた。
光線のあとには星が舞ってる。
メルヘンね。
避けると背後の折れた柱は影も形もなく消滅した。
威力はぜんぜん可愛くないけど。
避けながら魔銃を撃ち返す。
お互いに壊れかけた神殿を盾にしながら銃撃戦を繰り広げる。
銃弾は神殿を粉々に粉砕した。
歴史的建造物なのにもったいない。
あとで職人に復元させましょう。
なにもなくなった神殿跡地に立つ。
「びぐるに助っ人を頼まなかったの?」
あたしは魔剣を抜いた。
「びぐるくんは猫姫ちゃんが好きだから味方してくれないよ」
「気づいていたのね。でもこれは知らないでしょう。びぐるとあたしはもう男女の仲よ」
「ふーん。そうなんだ。べつになんとも思わない」
「うそつき。びぐるが好きだったくせに。だから寝とったの」
「・・・どろぼうねこ」
「恋愛に敗れた女がくやしがる姿って最高ね」
好きな男を奪われたのろまをあざ笑う。
朝陽は妖精剣を引き抜き怒気を孕んだ眼で斬りかかってくる。
剣撃の応酬が始まる。
朝陽の剣は一撃一撃が重い。
怒りのパワーもバカにできないわね。
力負けして剣を弾かれる。
「桜花爛漫ッ!」
朝陽はお得意の必殺技を繰り出す。
一瞬で1万回以上斬る技って言ってたわね。
ハッタリもいいところだわ。
妖精剣の生み出す幻影で斬撃を水増ししてるだけ。
一瞬で振れる剣はいいとこ2、3回ってとこ。
幻影を見破り斬撃を止める。
急所を狙ってくるのが本物よ。
交差した剣を挟んでにらみあう。
桜吹雪の幻影が見えた。
「せめて心穏やかに逝けるように願う妖精剣の慈悲かしら?魔剣でよかったわ。敵には千々に心乱れて死んで欲しいもの」
つばぜり合いをやめて飛びしりぞく。
「最後に救いなんてあげないッ!悪人は絶望して地獄に落ちるべきよッ!」
朝陽は憂いを帯びた瞳であたしを見つめる。
「猫姫ちゃんは魔剣の使いすぎで心が闇に飲まれたんだよ。人相が悪くなったしオーラも澱んでる。いま助けてあげるね」
朝陽は剣と銃をしまい祈りのポーズをとる。
「闇を消し去り穢れし魂を浄化せよッ!光竜の息吹ッ!」
詠唱を終えてあたしに向けて手をかざす。
聖なる光の竜が牙を剥き出して襲いかかってきた。
魔剣を朝陽に差し向ける。
「絶望の沼より出でて光を滅せよッ!闇竜の咆哮ッ!」
暗黒の竜があぎとを大きく開けて朝陽を襲う。
光の竜と闇の竜は衝突して大きな衝撃を巻き起こした。
黒と白の光が点滅する。
光の竜を飲み込んだ闇の竜は朝陽を飲み込んだ。
闇に焼かれた朝陽は悲鳴をあげて墜落して行く。
妖精は光のエネルギーの塊だから闇魔法で大きなダメージを受けたようね。
神殿跡地の草むらに朝陽は倒れていた。
羽も破れて全身傷だらけだ。
草むらに降りると後ろから声がかかった。
「遅れちまったな。手を貸すぜ?」
びぐるだ。子犬のような笑顔を浮かべてる。
「もう終わりよ。あとはトドメだけ。どうせあなたは女の子を斬れないでしょ?」
「横で手を握ってようか」
びぐるは右手を軽く閉じたり開いたりする。
悪趣味極まりない冗談におもわずクスッと笑ってしまう。
「あたしたちのいちゃつきぶりを死にゆく朝陽に見せつけてやるのもいいわね」
「かわいそうだからやっぱやめとく。死闘だったみてぇだな。ひでぇ傷だ」
「えっ?」
自分の身を振り返る。
夢中で気づかなかったけど体じゅう傷だらけだ。
服もあちこち破れてる。
「だいじょうぶ。すぐに帰って僧侶に回復してもらうわ」
朝陽は小指いっぽん動かせないのか光のない目だけ動かしてこちらをみる。
すでに命をあきらめた顔をしてるわね。いざぎよし。
「さよなら朝陽。生まれ変わって会いに来て」
魔剣を逆手に持ち朝陽の心臓めがけて振り下ろす。
ぐさっ!と音がして鋭い痛みが胸に走る。
胸元から紅の剣が突き出している。
あたしは振り返った。
「どうして?」
びぐるは泣いている。
「戦争が起これば多くの民の命が犠牲になる。きみを殺せばたった1人の命で済む」
まさかこの子にまで裏切られるなんて。
昨晩も一緒に過ごしたのに。
飼い犬に手を噛まれるとはこのことね。
朝陽の横にどさりと倒れる。
手を汚す覚悟なんて教えなきゃ良かったわ。
心地よい敗北感に包まれてあたしの意識は闇に落ちた。




