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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第3章 運命に抗う者

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第19話 強制共鳴部隊

人は、結果を見せられると揺れます。

どれほど立派な理想を語っていても、

目の前で命が救われるのを見れば、

その方法に疑問を持つことは難しくなるからです。


もし、同意がなくても――

誰かが一瞬で暴走を止められるとしたら。

もし、その力で多くの人が助かるのだとしたら。

それは、本当に間違いなのでしょうか。


今回登場するのは、強制共鳴部隊。

同意を必要としない共鳴を成立させる、統律院の特殊部隊です。

そして、その中心にいるのが ジーク。


彼は迷いません。

躊躇もありません。

ただ結果だけを出します。


圧倒的な効率。

圧倒的な成果。


読者の皆さんも、きっと一瞬だけ思うはずです。

「これで救えるなら、それでいいのではないか」と。


けれど――

その強さの奥には、別の問いが隠れています。

効率の前では、倫理は負けるのでしょうか。

第19話は、その問いを投げかける回です。

 統律院・作戦管制室。


 壁一面のモニターに、都市外縁部の映像が映っている。

 工業区画中央。


 共鳴暴走。

 赤い波が、膨れ上がっていた。

 鉄骨が軋み、建物が震える。

 ガラスが割れ、粉塵が舞う。


「通常部隊、到着まで三分」とオペレーターが告げた。


 三分。

 長い。

 暴走は、その間にも広がる。


 セレスはモニターを見つめたまま言う。


「投入」


 短い指示だった。


 画面が切り替わる。


 強制共鳴部隊――出動。



 輸送車両の扉が開く。


 蒸気のような熱気が外へ流れ出る。


 降りてきたのは三人。


 その中央に、鷹宮ジークがいた。

 強制共鳴部隊の中核を担う男。


 背が高い。

 灰色の短髪。

 無表情。

 瞳の奥に、感情がほとんど見えない。


「対象、確認」とジークが言った。


 声は平坦だ。


 隣で端末を操作しているのは、綾城エリシアだった。

 強制共鳴部隊の副官。

 ジークの隣に立ち続ける、もう一人の中核。


 エリシアが端末を操作する。

「暴走中心、北東二十メートル。共鳴波、第二段階」


「了解」とジークが答える。

 それだけ。


 次の瞬間――

 空気が歪んだ。


 ジークの周囲に、波が集まる。

 強制的に。

 引き寄せられるように。

 拒絶する波すら、巻き込まれる。


 同意はない。

 だが、共鳴は成立する。


 暴走体が、わずかに軋む。

 抵抗しようとする。

 だが ・・・押し潰される。


 赤い波が、止まった。

 完全停止。

 まるで、見えない枠に閉じ込められたように。


 ジークが一歩踏み込む。

 手をかざす。


 それだけで。

 暴走体が崩れた。


 音もなく。

 抵抗もなく。

 崩壊。

 黒い粒子が、空中に溶ける。


「……収束」とエリシアが小さく言った。


 時間。十七秒。


 静寂。


 その場にいた誰もが、動けなかった。



 管制室。


 誰も声を出さない。


「被害報告」とオペレーターが言う。

「負傷者、ゼロ」


 セレスが淡々と言う。

「優秀」


 綾城セレス。

 統律院の判断執行官。

 結果でしか価値を測らない人間。


 セレスの言う通り数字だけ見れば、完璧だ。

 誰も否定できない。



 現場。


 市民が駆け寄る。

「ありがとうございます!」

 涙を流しながら頭を下げる。


 ジークは反応しない。

 ただ、波を解く。

 共鳴が、静かに消える。

 それで終わり。


 エリシアが近づく。

「ジーク」と彼女は呼びかけた。


 ジークが視線を向ける。


「任務終了よ」


「了解」とジークが答える。


 エリシアは少しだけ笑う。

「今日も完璧」


 ジークは答えない。


 空を見る。

 夕焼け。

 綺麗な色。

 だが、その瞳には何も映っていない。


 エリシアは知っている。

 この能力の代償を。


「……何か感じた?」とエリシアは小さく聞いた。


 ジークは、わずかに間を置いた。


「任務達成」

 それが答えだった。


 エリシアは目を伏せる。

 胸の奥が、少し痛む。


 彼は強い。

 だが。

 空っぽだ。



 管制室。


「強制共鳴は成功しています」とセレスが言う。


 天城は腕を組む。


「数字はな」と天城は答えた。


 セレスは続ける。

「倫理問題はあります。しかし結果は圧倒的です」


 天城は静かに言う。

「効率は、正義ではない」


 セレスは即座に返す。

「しかし、正義より命を優先すべき場面は存在します」


 沈黙。


 モニターには、無傷の街が映る。

 守られた街。


 同意はない。

 だが、犠牲もない。


「水月蒼真」とセレスが言った。


 天城の視線が動く。


「彼の能力と、ジークの能力」


 一拍。


「結果は同じです」


 天城は首を振る。


「違う」


セレスが眉を上げる。


 天城は静かに言う。


「ジークは奪う」


「蒼真は、選ばせる」


 それが差だ。


 だが・・・

 効率では、負ける。



 夜。辺境区。


 蒼真は古いテレビの前に座っていた。


 ニュースが流れている。


 暴走事故。

 被害ゼロ。


 強制共鳴部隊の成果。


「……すごいな」と蒼真はうつむき気味に呟いた。


 映像の中で、ジークが立っている。


 迷いがない。

 速い。

 正確だ。


 蒼真は考える。


 (俺なら……迷う)


 触れるか。

 止めるか。

 選ぶ。


 その間に、時間がかかる。


 だがジークは迷わない。

 だから――間に合う。


 蒼真の胸が、わずかに揺れる。


 (これで守れるなら……)


 その考えが、よぎる。


 倫理より、命を優先する。


 正しいのは、どちらか。


 画面が切り替わる。


 ジークの顔が映る。

 無表情。

 空洞の目。


 蒼真は、ゆっくりと息を吐いた。


 (違う)


 小さく首を振る。


 効率は、強い。


 だが。

 何かが、欠けている。


 もし、自分が同じことをしたら。


 凛は。

 どう思う。


 その想像だけで、胸が重くなる。


 蒼真は、テレビを消した。

 部屋が静かになる。


 窓の外。

 風が吹いている。

 遠くで、誰かの声がする。

 小さな、日常の音。


 蒼真は、自分の手を見る。


 止められる手。

 選べる手。


 その違いが、重い。


 強制共鳴部隊。

 それは圧倒的な成果を生む。


 だが同時に。

 何かを削っている。


 蒼真は、まだ知らない。

 ジークが敵ではないことを。

 そして ・・・彼が、被害者である可能性を。

第19話では、強制共鳴部隊とジークを登場させました。

ここで描きたかったのは、とてもシンプルな問いです。

「結果が出るなら、それは正しいのか?」

ジークの能力は、蒼真とよく似ています。

どちらも共鳴を止めることができる。


ですが決定的に違う点があります。

蒼真は、同意の余白を残します。

ジークは、同意を必要としません。


つまり、

蒼真の力 → 相手の意思が残る

ジークの力 → 相手の意思は関係ない


構造としては、ジークのほうが圧倒的に効率的です。

迷いがない。議論もない。結果が出る。


だからこそ、この回では成果をしっかり見せました。

・暴走を数秒で止める

・被害ゼロ

・市民は救われる


普通に考えれば、これは理想の部隊です。

ですが、その代わりに何が失われているのか。

それを象徴しているのが、**ジークの「空虚さ」**です。


彼は敵ではありません。

むしろ、多くの命を救っている人物です。


ただ――

「選ぶ」という部分が消えている。

この違いが、蒼真の物語の核心になります。


そしてもう一つ大事なのが、

天城の評価です。

天城は強制共鳴を完全には否定していません。

結果として命が救われているからです。


ですが同時に、

蒼真とジークを同じものとは見ていない。

ここが、この物語の思想の軸になっています。


次の話から、物語はさらに一段進みます。

蒼真はまだ孤立したままです。

そして世界は、次々と答えを提示してきます。


効率の答え。支配の答え。そして自由の答え。

その中で、蒼真がどの道を選ぶのか。

次回、第20話「完成された兵士」、お楽しみに!

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