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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第3章 運命に抗う者

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第18話 役に立たない存在

今回は、蒼真が初めて「封印の代償」を正面から受け取る回でした。


第16話で蒼真は能力を封じる決断をしました。

それは彼にとって、とても誠実な選択です。


ですが――

誠実な選択が、必ずしも良い結果を生むとは限りません。


蒼真がいなかった任務で、凛は傷を負いました。

もし蒼真がその場にいたなら、止められた可能性があります。


だからこそ、今回のテーマは重い問いになります。

「力を使わないことは、罪になり得るのか?」


力を使えば、誰かの意思を奪うかもしれない。

使わなければ、守れた命を失うかもしれない。


どちらも簡単に正解とは言えません。

この回で大切なのは、凛が蒼真を責めなかったことです。

むしろ彼女は、蒼真の自責を止めました。

それは優しさでもあり、

同時に“逃げるな”という言葉でもあります。


蒼真はまだ答えを持っていません。

そして今はまだ、持たなくてもいい段階です。


ただ一つ確かなことがあります。


封印は終わりではありません。

それは、選択の重さを知る始まりです。


ここから蒼真は、自分の力と向き合い続けることになります。


そして次の物語では、

その力を“使うべきかどうか”という問いが、

さらに深い形で突きつけられていきます。

朝の空気は冷たかった。


辺境区の小さな町。

統律院の管理が緩い場所。


舗装の剥がれた通り。

錆びた看板。

開店前の店先に、無造作に積まれた箱。


蒼真は、古びた食堂の窓際に座っていた。


湯気の立つコーヒー。

曇ったガラス越しの、静かな通り。


ここでは誰も、蒼真を知らない。


それが、少しだけ楽だった。


・・・そのはずだった。



店の奥で、食器が割れる音がした。


「っ……!」


若い店員が、手を押さえている。

床に落ちた皿が、細かく砕けている。


その瞬間、空気がわずかに揺れた。


共鳴の乱れ。


微弱だが、不安定だ。


蒼真の胸が反応する。


(……止められる)


すぐに分かる。


ほんの少し触れれば、均せる。


だが・・・


蒼真は、動かなかった。


店主が駆け寄り、店員の肩を掴む。


「落ち着け、深呼吸だ」


ゆっくりと、波が収まっていく。


時間はかかる。


だが、収まった。


蒼真は、カップに手を伸ばす。


指先が、わずかに震えていた。


(今のは……必要なかった)


そう言い聞かせる。


だが、胸の奥は静まらない。



その時、端末の通知音が鳴った。


一件のニュース。


共鳴事故発生。


蒼真の指が止まる。


・・・統律院中央区。


凛の担当区域。


蒼真は画面を開く。


崩れた建物。

歪んだ鉄骨。

共鳴波の残響。


担架が運ばれている。


記事は簡潔だった。


能力者二名負傷。


蒼真の胸がざわつく。


(……凛は)


名前は出ていない。


だが、嫌な予感がする。



通信が入る。


草薙透真。


蒼真は一瞬躊躇し、応答した。


「……もしもし」


「お前、ニュース見たか」と透真が言う。


声が低い。


「今見た」


沈黙。


透真は、言葉を選んでいる。


それが、分かる。


「凛が……やられた」


心臓が強く打つ。


「命に別状はない」と透真はすぐに続ける。


だが、その前の沈黙が重い。


「……どうして」と蒼真はうつむき気味に言った。


「共鳴暴走だ」と透真は答える。


簡単な言葉。


だが、意味は分かる。


止められた。


自分なら。


「俺がいたら……」


言葉が漏れる。


透真は、否定しない。


「……多分な」


それが一番残酷だった。



蒼真は立ち上がる。


椅子が、わずかに軋んだ。


「今どこ」


「医療棟」


透真が答える。


「来るのか?」


蒼真は答えず、鞄を掴んだ。




統律院中央医療棟。


消毒液の匂い。

白い壁。

静かな廊下。


蒼真は、病室の前で止まる。


扉の向こうに、凛がいる。


透真が壁にもたれていた。


「……来たか」と透真が言う。


蒼真は、扉を見つめる。


「入れよ」


「……入れない」と蒼真は小さく言った。


「なんでだよ」と透真が眉をひそめる。


「俺、役に立たなかった」


透真は息を吐く。


「そういう問題じゃ・・・」


「治せた」と蒼真が遮る。


声が震えている。


「止められた」


透真は黙る。


否定できない。


「俺が使わないって決めたから」


言葉が、重く落ちる。


「それでも、お前の責任じゃない」と透真は言う。


「違う」と蒼真は首を振る。



その時、病室の扉が開いた。


火乃宮凛が立っていた。


左腕に包帯。

額に小さな傷。


それでも、立っている。


蒼真と目が合う。


沈黙。


「入らないの?」と凛が言った。


蒼真は動かない。


凛は一歩近づく。


「そんな顔するな」


蒼真の視線が落ちる。


「俺がいたら」


「そうかもね」と凛が遮る。


あっさりと。


蒼真の胸が締まる。


だが凛は続ける。


「でも」


一拍。


「いなかったでしょ」


その言葉は、責めていない。


ただ、事実だった。


「任務は続く」

「事故も起きる」

「誰かは傷つく」


凛は淡々と言う。


「それが世界」


蒼真の拳が震える。


「でも」と凛は続ける。


「だからって、自分を全部の原因にするな」


蒼真は何も言えない。


凛は、少しだけ息を吐いた。


「役に立たないって顔してる」


蒼真は顔を上げる。


凛は、まっすぐ見て言う。


「じゃあ、次どうするか考えなさい」


その言葉は優しい。


だが、逃げ道ではない。


「止めるのも、お前」

「止めないのも、お前」


一拍。


「どっちも選んだなら、どっちの責任も引き受けろ」


蒼真の胸が、強く打つ。


凛は続ける。


「中途半端が、一番誰も救わない」


沈黙。


蒼真は、ゆっくりと頷いた。




病室の窓の外で、夕日が沈む。


もし、力を使っていたら。


凛は傷つかなかったかもしれない。


もし、この先も使わなければ。


また誰かが傷つくかもしれない。


封印は、守る選択だった。


だが同時に。


守れない選択でもある。



蒼真は、自分の手を見る。


この手は、止められる。


だが、止めなかった。


その事実が、残る。


問いが、静かに浮かぶ。


力を使わないことは、

罪になり得るのか。



答えは、まだない。


だが一つだけ、分かった。


封印は終わりではない。


それは――


苦しみを引き受ける覚悟の、始まりだった。

第18話「役に立たない存在」を読んでいただき、ありがとうございます。


この回では、「使わない」という選択が本当に正しいのかを描きました。

力を使うことは、誰かの意思に介入する可能性がある。

だからこそ、蒼真は封じることを選びました。


ですが――

使わなければ、救えない命がある。


この世界では、「何もしないこと」もまた結果を生みます。

そしてその結果から、逃れることはできません。


蒼真は初めて、「選ばなかった責任」と向き合うことになります。

正しいかどうかではなく、選んだことに責任を持てるかどうか。


物語はここから、“力を持つ者の在り方”へと進んでいきます。

次話もぜひお読みいただければ嬉しいです。

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