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獣乱のゲノム  作者: 大野 響
帰国編

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真実の欠片

体中血だらけになり、木の幹にもたれかかっていたミランも、氷子の言葉を聞いて驚き目を見開いた。

(彼女、誰かに似てると思ったら、そうか···榎本副隊長に似てたんだ)


「加治屋隊長から聞いてるわよ。あんた達獣衛隊の警備が不甲斐ないせいで、ママが殺されたって」

「···そういうことか」

 アランは納得し、氷子を見つめて素直に謝った。

「氷子のお母さんを守れなくて、ごめん」


 「あ、謝ったからって許さないんだから!私には、ママしかいなかったんだよ!?こんな体に生まれた上に母親まで殺されて、私が今までどれだけ苦労したか、知らないでしょう?」

 氷子は、瞳に涙を浮かべたまま背中の羽根を広げた。


 背中に羽根!!

 アランとミランが驚いていると、氷子が微笑した。


「私を作ったのは、アランの父親、篠原博士よ」

「父さんのことを知ってるのか!?」

 アランは、驚いて氷子の腕を掴んだ。

「頼む。知ってることを教えてくれ」

 父に関することは、どんな些細な情報でも欲しい。

 アランは真剣な目で氷子を見つめた。


 アランの視線から目を逸らした氷子は、俯きながらぽつぽつと話し始めた。

「···私はママから話を聞いただけ。篠原博士は、新人類プロジェクトの開発主任として国の研究所で働いていたそうよ。でも、政府が新人類の兵器転用を目論んでいることを知って、研究所を辞職しようとしたらしいの。そうしたら、加治屋隊長が激怒して、篠原博士を車に乗せてどこかへ連れて行ったって聞いた」


 話を聞いていたアランの体が、怒りでブルブルと小刻みに震え始めた。

「どこかって、どこだよ!?」

「そんなの私にわかるわけないでしょ!ママは、それ以来博士の姿を見てないのよ」

 氷子がアランに言い返した。


「赤木さんを作ったのは、本当に篠原博士なの?」

 アラン達のもとにやって来たミランが、氷子に向けて質問した。

「ママは私に嘘をつかないわ。篠原博士は、辞める前に新人類プロジェクトによって生み出された受精卵を、勝手に廃棄したの。でも奇跡的に残った受精卵を、ママのお腹に移したそうよ。それでできたのが、私ってわけ。私の遺伝子のルーツは、卵子を提供した赤木さんにあるらしいけど。でも私にとってママは、育ててくれた榎本マリ、一人だけなの」

 氷子は、寂しそうに目を細めた。


「それじゃあ、榎本副隊長が亡くなってから、ずっと一人で生きてきたってこと?」

「違うわよ!私には、こんなにたくさんのコウモリがいるんだから。ママは私に、ドゥニアで培った遺伝子操作の方法を教えてくれたの。おかげで、ママがいなくなっても生きてこれた」


「アランを襲うために、大事なコウモリを利用したの?クラスメイトまで巻き添えにして?」

「うるさいわね!だからあんた達のせいだって言ってるでしょ!」

 氷子は、ミランの言葉を遮るようにキツイ声で言い放った。そして、アランとミランに向けて剣を振るった。

 するとアランが剣で応戦し、氷子の剣を地面に落とした。

 アランは素早く体中から針を出し、氷子を木の幹に針で押さえつけた。

「痛い!助けなさいよ!」

 体中を針で刺され、助けを求める氷子。

 アランは静かに首を横に振った。

「暴力じゃ、俺の心は動かない」

 アランは射抜くような目で氷子を見た。

 何も言い返せず、黙る氷子。


「ミラン、加治屋の所に行くぞ」

 アランはミランに向かって言った。

「防衛隊に?いきなり行ったって、捕まって刑務所に送られるだけだよ」

「それでも行きたい。いや、行かなきゃならない」

 アランは、そう言うなり走り出した。

 マモルを抱きかかえ、追うように飛び立つミラン。


「···わよ。そんなの、わかってるわよ」

 一人残された氷子は、静かに涙を流した。


◆


 山の中で、大ネズミを食べる大型トカゲ。その様子を、少し離れた所から見守る加治屋と、総理大臣の裏黒盛ニ(ウラグロセイジ)。

「旺盛な食欲じゃないか」

 裏黒が、側にいた大帝地所株式会社の社長、小間使寛(コマヅカイヒロシ)に話しかけた。

「はい。このまま我が社の大トカゲによる駆除が続けば、5年後には関東からネズミが消える計算です」

 小間使が、手をもんでニヤついた。

「フッ。ネズミさえ消えれば、世論の風向きも変わるだろう。そうなれば、ドームカントリー構想の実現も近いな」

 裏黒がそこまで言ったその時、背後から大ネズミがいきなり襲ってきた。


「うわーっ!!」

 慌てて逃げ惑う、裏黒達。

「はやく、トカゲにネズミを食わせろ!」

 小間使が叫ぶと、大トカゲがギロリと裏黒達の方を向き、長い舌を伸ばしてきた。

 大トカゲの長い舌は、大ネズミと一緒に大帝地所の女性社員一人を巻き込み、バリバリと食い始めた。


 大ネズミと女性社員は、大トカゲに食われてしまった。

「こ、これは事故だ!」

 叫ぶ加治屋。

「今日、ここに俺は来ていない。そうだよな、小間使」

 裏黒は、脅すように小間使を睨みつけた。

「はい!その通りです!」

 汗をかきながら、頷く小間使。


 少し離れた場所を飛びながら、大トカゲの様子を撮影するドローン。

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