窓を割る影
窓に張り付いた状態で、教室の中を凝視する大型のコウモリ。
「何だ、あれ!」
アランは思わず立ち上がった。
巨大なコウモリは、群れになって教室の窓に何匹も集まってきた。
コウモリに気付き、ざわめき始める生徒達。
窓に張り付いていたコウモリのうちの一匹が、頭突きをして教室の窓を割ると、コウモリが一斉に教室に入って来た。
大きな口を開けたコウモリ達が、牙をむき出しにして襲ってくる。
思わず身構えたアランに、ミランが声をかけた。
「アラン、これ使って!」
掃除用ロッカーから、アランにモップを投げて渡すミラン。
「おう、サンキュ!」
アランはモップを受け取ると、コウモリに向かって行った。
「うおりゃーっ!」
アランはモップで、ミランはデッキブラシで、それぞれコウモリと戦い始めた。
「超切波!」
アランは得意技も使ってコウモリを次々に倒して行くが、数が多過ぎて苦戦した。
「コウモリがデカすぎる!コイツら、なんなんだ!?」
アランは、ミランに向かって言った。
「わからない。でももしかしたら、新政府の作った巨大トカゲと関連してるのかも」
ミランは、デッキブラシで応戦しながら答えた。
「巨大トカゲ!?何だよそれ!」
「新政府が、ネズミ駆除のために大きなトカゲを作ったの。ニュースで何度もやってたよ」
「ニュース!?俺はそんなもん見てない!」
複数のコウモリと戦いながら、アランは応えた。
「アラン、後ろ!」
隣のクラスからやって来た蒼太が、そう言って小刀を投げた。
放たれた小刀は、背後からアランを狙っていたコウモリに見事命中した。
「蒼太!お前、剣は獣衛隊に没収されなかったのか!?」
「これは俺の私物。俺の実家は猟師だぜ?刃物は常に携帯が鉄則なの。なんなら、銃もある」
蒼太がブレザーから銃をちらりと見せた。
「学校にそんなもん持ち込んでんのか!?でもま、おかげで助かった!」
アランは、蒼太に驚きつつ笑った。
「みんな、逃げて!早く昇降口へ!」
やって来た真歩が、一般の生徒を昇降口へと誘導した。
「アラン、大丈夫か!?」
ガクとユリカ、風人も参戦し、教室のコウモリをどんどん倒して行った。
途中で形勢不利と悟ったコウモリ達は、教室の外へと逃げて行った。
荒い息を落ち着かせるアラン。
肩や腕を噛まれてその場に倒れている生徒達を見ながら呟いた。
「何でこんなことに···」
そこへ、生徒の誘導を終えて戻って来た真歩が言った。
「コウモリが襲ったのは、A組だけみたいね。他のクラスの生徒はみんな無事よ!」
「うちのクラスだけ!?」
アランとミランは、驚いて顔を見合わせた。
「今日はもう、授業はなしだ!怪我した生徒以外は、気をつけて帰るように!」
男性の担任教師Aが、授業の終わりを告げ、アラン達は帰宅することとなった。
◆
校門のそばに集まった、アラン達元獣衛隊メンバー。
「まさか、あんな大きなコウモリが現れるなんて···」
不安を吐露するミラン。
「しかも、襲われたのはA組の生徒だけだ。恐らく、自然発生したわけじゃないだろう」
ガクが深刻な表情で顎を手で押さえた。
「じゃあ誰が?もしかして、ヘイズがまだ生きてた、とか?」
真歩が怯えるような声で聞いた。
「いや、それはないよ。ヘイズは確実に死んだのを、この目で見た」
アランが否定した。
「ヘイズじゃないとすると、どこかで生き残ったドゥニアの残党かな?それか、新政府が実は巨大トカゲ以外に巨大コウモリも作ってた、とか?」
風人が可能性を並べた。
「どっちもあり得るだろうな。今の時代、遺伝子操作はそんなに難しいことじゃないって聞くし」
「でも、私的な利用を目的とした遺伝子操作は法律で禁止されてるよ。もし誰かが故意にコウモリを巨大化させて高校を襲わせたのだとしたら、立派な犯罪だと思う」
ガクとミランが、それぞれ見解を述べた。
「ま、結局、日本にいても安全とは限らないってことでしょ?だったら、自衛するっきゃないよな!」
蒼太は、そう言うとバッグの中から剣や銃を取り出してアラン達に渡した。
(凶器をこんなに!?)
驚くアラン達。
「ねぇ、もしかして、そのバッグの中身は全部刀剣なの?」
剣や銃を取り出した後も膨らんでいる蒼太のバッグを見て、恐る恐る質問するミラン。
「いや、キーボードも入ってるよ。最近はtoktok向けに曲を作ってて、再生回数も上がってるんだよね」
恥ずかしそうに頭をかく蒼太。
顔が引きつるミラン。
「そ、そうなんだ」
(学校に銃や剣、さらにキーボードって···何しに学校来てるの)
「ユリカ、体調でも悪いの?元気がないみたいだけど」
ユリカがいつもより無口なことに気付いた真歩が、声をかけた。
「べ、別に。もうでかい動物なんて見慣れちゃったから、コウモリごときじゃ驚かないわよ。あ、美容院予約してるから、もう行くね、じゃ!」
そう言うと、ユリカはそそくさと去って行った。
(もー!恥ずかしくって、ガクの顔見れないよー!)
顔を赤らめながら、走るユリカ。
ユリカの後ろ姿を、切ない表情で見つめるガク。
「大型コウモリのこと、班長に報告したいと思うんだけど、どうかな?」
何か考えるように右上を見ていたミランが、アラン達に向けて行った。
「俺も、班長に報告したほうがいいと思う」
アランも同意した。
「班長って、隊長の家にいるんでしょ?これからみんなで行く?」
風人が提案した。
「それは目立ち過ぎるよ。獣衛隊元3班は、警察にもマークされてるわけだし」
ガクが警戒して言った。
「じゃあ、私とアランが行くよ。家も近いし。アラン、いい?」
「おう」
アランも承諾した。
◆
青木の家に向かう途中で、ミランがアランに話しかけた。
「今日、赤木さん来てなかったね」
「赤木?誰だそれ」
「赤木氷子。クラスメイトの名前くらい、覚えておいたほうがいいよ」
ミランがアランに言った。
眉を寄せるアラン。
(そっか、あいつ、赤木って言うのか···)
「赤木さんって、どこかで見たことある気がする」
ミランは、歩きながらふと呟いた。
「どこかって、どこだ?」
「それが、思い出せないんだよね。人違いかな」
そう言って歩くミランが、急に足を止めた。
「瞬の家、来るの久しぶりだね」
「そうだな」
アランは、目前にある青木の家を見ながら頷いた。
◆
青木の家の中、ダイニングテーブルを囲むように座る青木と森田、菅原、志穂。
アランとミランの話を聞いて、皆が顔色を曇らせた。
「アランのクラスに、巨大コウモリか。···次から次へと現れるな」
眉間にシワを寄せる森田。
「やっと、ネズミが減ってきたって言うのに···」
青木が言うと、アランが反応した。
「ネズミ、減ってきたんですか?」
「ああ。お前達が手に入れてくれた薬のおかげでな。昨日はワニにも投与できたから、これからは徐々にワニも姿を消して行くはずだ」
青木が、空になった薬の瓶をアランとミランに見せた。
「やった!」
「だね!」
アランとミランは、目を合わせて喜んだ。
「薬がどうなったか、気になってました。でもイヤホンは取調べの時に警察に取られたし、獣衛隊にも近づけなくって」
アランが言った。
「まともな指示も出さずに放置して、悪かったな。下手に動いて、お前達を巻き込みたくなかったんだ」
森田が謝った。
「大丈夫です。そうだろうと思ってましたから」
ミランが、森田達の行動を見越していた様子で微笑んだ。
「君達二人は、随分成長したようだな。まだ小学生の息子から入隊すると聞いた時は慌てたもんだが、そうか。瞬も、生きていればもう17か」
アラン達の話を聞いていた青木が、なつかしそうに目を細めた。
「ですね···」
青木の言葉に、アランとミランは静かに頷いた。
「ネズミとワニの数は今後減るとはいえ、それだけではこの国に平穏をもたらすことは難しいかもしれませんね。特に大型コウモリは、誰が何の目的で放ったかも不明だ。それを明らかにするには、リスクを承知で動くことも必要ではないですか?」
しばらく何かを考えるような表情をしていた菅原が、青木と森田に向かって口を開いた。
「そうだな。隊長、もう少し踏み込んだ策を検討する時期が来たようですよ。近いうちに、俺の体も元に戻るでしょうし」
森田の言葉に、アランは喜んだ。
(え!?班長、人間に戻れるの!?)
「まったく、随分勇ましい部下を持ったもんだ。···全員、覚悟はできてるか?」
青木は呆れたように軽く笑ってから、すぐに真面目な表情へと変わった。
「はい!」
アラン達の声が揃った。




