瞬の手帳
その時、突然ダダーン!と大きな音がして、複数の大ネズミが空港内に入ってきた。
「うわー!ネズミだー!」
慌て、逃げまわる人々。
突然の大ネズミの乱入に、防衛隊員も警察も役に立たず、次々と襲われていく。
アラン達は、颯爽と動いて大ネズミ達を倒し始めた。菅原が持つバッグの中に入っていた森田も、バッグから飛び出して応戦した。
アランは大ネズミと戦いながら、森田に近付いた。
「ここは俺達がなんとかします。班長だけでも逃げて下さい」
「だが」
眉をしかめる森田。そこへやって来る菅原。
「アランの言う通りです。これは班長に託します」
菅原が、森田に小さな薬の瓶を渡した。
「わかった。後は任せたぞ」
森田は着ていたベストのポケットに薬をしまうと、大ネズミの間を縫って逃げ出した。するとそこには、獣衛隊元隊長の、青木がいた。
「森田だな?逃げるぞ、あっちだ!」
青木と目を合わせ、走る森田。
「はい!」
「向こうに車を用意してある。ついでにネズミを呼んで正解だったな」
青木は、大ネズミを呼び寄せる装置をちらりと森田に見せた。
「え!」
驚く森田。
「細かい説明は後だ!走るぞ!」
青木と森田は、大ネズミと人々の間を抜けて走った。
一通りの大ネズミが倒されると、物陰に隠れていた防衛隊員や警察官が、再びアラン達の前に立ちはだかった。
「ネズミの後始末は警察が行う!お前達は逮捕だ!」
警察官Aが、大きな声で言った。
すると、様子を見ていた一般人が騒ぎ出した。
「えー!?せっかくネズミを退治してくれた獣衛隊を逮捕って、なんで!?警察ヤバイんじゃね?」
「だよねー。私、動画SNSに上げたよ!」
気付くと、警察官の周りには、スマホを持った見物客が群がっていた。
眉をひそめる加治屋。
菅原と志穂は、目を合わせてからアラン達の一歩前に出た。
「私達は逮捕でも構いません。しかし、他の隊員はまだ18歳未満、未成年です。逮捕よりも、教育的指導を希望します」
菅原の大きな声が、到着ロビーに響き渡った。
注目している一般人。
加治屋は、警察官Aの耳元で何やら囁いた。頷く警察官A。
「お前達の主張はわかった。未成年の逮捕は保留だ!」
警察官Aは、アラン達に向かって言った。
◆
篠原家のドアを開けると、アランとミランは玄関に同時に倒れ込んだ。二人の上空には、ふわふわと飛ぶマモルの姿もあった。
「ただいま〜」
げっそりと疲れた顔のアランとミラン。
◆
リビングのソファに腰かける、アランとミラン、マモル。そこへ、紅茶を持って来た母の文香が、向かい合って座った。
「それで、丸一日取り調べだったの!?」
心配そうな文香。
「そう。結局、いつまでたっても終わらない取り調べにマモルがキレて、取調室のドアを吹っ飛ばしちゃってさ。そしたら、警察の手には負えない、ってことになって解放されたけど、これからどうなることか···」
アランは憔悴した様子でため息をついた。
「それは大変だったわね」
文香が労った。
「ねぇ、日本にも赤い雨が降ったんでしょう?実際の被害はどうだったの?」
ミランが文香に尋ねた。
「緊急警報が出たおかげで、沢山の人の命が助かったってニュースを見たわ。それでも···東京だけで数万人の方が亡くなったみたい」
文香は目を伏せた。
言葉が出ないアランとミラン。
(東京だけで、数万人···)
その時、ピンポーン、とチャイムの音が室内に響いた。
◆
玄関には、獣衛隊の男性隊員と若い女性隊員が立っていた。
「獣衛隊3班は解散することになった。これはお前達の荷物だ」
男性隊員は、アランとミランの荷物を無造作に玄関に置いた。
「解散!?そんな!」
男性隊員に詰め寄ろうとするアランを、ミランが止めた。
「文句があるなら国に言え。もう二度と、獣衛隊には関わるなよ」
二人の隊員は、それだけ言うと帰って行った。
呆然とするアランと、困り顔のミラン。
◆
部屋の中、戻ってきた荷物を確認するアラン。
「ない、ない···ない!」
焦った顔で、何度もバッグの中を覗き込むアラン。
(瞬の手帳が···ない!宿舎の机の中に入れたままだ)
絶望した顔つきのアラン。その時、ドアが開いて文香が顔を出した。
「いつまで起きてるの?早く寝なさい」
「わかってるよ」
アランは答え、ベッドに横になった。
文香は部屋の電気を消し、出て行った。
一人、天井を見つめるアラン。
(瞬···)
アランは瞬のことを思い出しながら目を閉じ、また開いた。
(行くしかないな)
アランはベッドから起き上がった。
◆
八王子訓練場のフェンスを越え、訓練場内へと忍び込んだアラン。建物の隙間を縫って進み、宿舎の自室までやって来た。机の引き出しを開けると、瞬の手帳が入っていた。
「あった」
小さな声で言うと、同時にドアが開いた。そこに立っていたのは、アランとミランの荷物を持って来た、若い女性隊員だった。
(まずい!)
アランは手帳を持ち、宿舎を急いで逃げ出した。
女性隊員は一瞬驚いた顔をしてから、ニヤリ、と微笑んだ。
◆
息を切らせてアランが家に戻ると、怪訝な表情をしたミランが玄関前に立っていた。
「こんな時間にどこ行ってたの?」
「あ、えっと···ちょっと散歩に」
「2時間以上も?嘘ついてるでしょ」
ミランは、呆れた様子でアランの顔を見つめた。
「あー。実は、これを取りに、訓練場に···」
アランは、胸のポケットに手を伸ばした。
「え!?獣衛隊に関わるなって言われたばかりだよ!何やってるの!!」
驚き、怒るミラン。
「わかってる。でも、これだけはどうしても、ミランに渡さなきゃと思って」
アランは手帳を差し出した。
「これは?」
「瞬の手帳。前に、隊長からもらった」
ミランは、アランの手から奪うように手帳を取ると、その場でパラパラとめくり始めた。
手帳の中のカレンダーには、5月10日の欄に「ミランと海に行く!!」と大きな字で書いてあった。
瞬の遺した文字を見つめながら、震えて涙を流すミラン。
「やっと渡せた」
肩を震わすミランの背中を優しくさすりながら、アランは小さく呟いた。




